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118:竜神国の守り役



 大陸東南部、樹王国のすぐ南に、竜神国という小国がある。

 その名の通り竜――ドラゴンを神聖なもの、力と知恵の象徴とし信奉する宗教国家だ。

 同じ思想を持つ者が集まり小さな国を形成しているが、その大半は″鱗人″という人種、その中でも″緑鱗人″がほとんど。

 赤鱗人や黄鱗人、青鱗人も居るが少数で、彼らの大半は他国で部族毎に暮らしている。

 その中でも竜信仰者が集まっているのだ。


 獣人が獣の耳や尾を有しているのに対し、鱗人は肌に所々、爬虫類のような鱗を有している。

 膂力では獣人に敵わないまでも、防御力で勝り、鋼の鞭のような四肢は独特のしなやかさを持つ。


 とは言え帝国の一部のような『人間絶対主義』の者たちにとっては獣人が『獣』であるのと同様に鱗人は『トカゲ』扱いをされ差別の対象となっていた。

 元々部族意識が高く排他的な思想を持っていたこともあり、他国とも疎遠となる一方である。

 そんな鱗人の部族の中でも竜信仰を掲げている緑鱗人の集落には他部族やそれこそ少数ではあるが人間の信仰者も集まり、結果として『竜神国』が成り立っていた。



「族長、話しとはなんだ」



 集落の中でも一際大きい木造の屋敷の一室。

 部屋に入って来た大柄な緑鱗人がずかずかと歩み寄り、奥に座する族長と向かい合うように、胡坐をかいて座る。

 緑鱗人の中でも目立つ二メートル近い巨躯、がっしりとした作りのスケイルアーマーを身に纏い、族長を見る視線は鋭い。


 対する族長は年齢のせいか大層小柄に見える。

 胡坐をかき背を丸め、ひじ掛けに手を乗せる姿勢で余計にそう見えた。



「よく来てくれた、ズールルォ。実は良からぬ噂を耳にしてな」


「噂……他国か?」


「うむ。北の王国、召喚士ビーツ・ボーエンやダンジョン【百鬼夜行】は知っておるか?」



 他国と縁遠く排他的な竜神国とて行商人は来る。

 その中で聞いた話しで【魔獣の聖刀】や王都のダンジョンの事は聞いた事があるとズールルォは答えた。



「そこのダンジョンボスがビーツ・ボーエンの従魔……エンシェントドラゴンという竜様だと言うのだ」


「竜様が人間の従魔に!?……しかしエンシェントドラゴン?聞いたことのない種だが従魔になるくらいならばワイバーンのような劣化竜種なのか?」


「いいや全く違う。その竜様は城ほども大きく、風のように空を飛び、魔物の群れを吐息一つで滅ぼしたと」



 ズールルォの目が見開かれる。

 それはワイバーンなどではなく本物の竜種。しかもその大きさから桁外れの存在ではないか。

 さすがに人間の流したデマだろうという気持ちが湧き上がる。



「驚くのは早い。その竜様は人の形を模して少女の姿になったというのだ」


「なっ!そ、それは……族長!」


「ああ、……神竜様と同じだ」



 緑鱗人に伝わる竜信仰にはこうある。

 かつて鱗人と共に暮らし、鱗人を守った神竜は力と知恵を有し、人の形を成していた。

 鱗人の祖先は、その人型の神竜の子孫とも言われているし、滅びた竜人の子孫とも言われている。

 もちろんそんな教義は竜信仰者しか詳しく知らず他国の者は知らない。

 ただ竜信仰を力の象徴と崇めているだけだと思っている。



「ばかな!神竜様が人間の従魔になったと言うのか!」



 思わず立ち上がったズールルォは今にも食って掛かりそうな目で族長を睨みつけた。

 デマカセに決まっている。神たる竜が使役されるなどありえない。

 何よりそんな噂を流し、神竜の存在を利用しようとした人間に対し怒りを向ける。

 そんなズールルォに落ち着くように言い聞かせた族長の目も険しい。



「真実を知らねばならん。ズールルォ、守り役の長であるお前が数名を連れて行ってくれるか」


「もちろんだ!守り役はその間、他の者に任せる!俺が行って化けの皮を剥がして来る!」


「待て、それは早計だ。儂もさすがにデマだと思っているが、一概にそうとも言い切れん。万が一真実で、何等かの理由があり神竜様が従魔となっている可能性もある」


「それは神竜様への冒涜だ!」


「神竜様の御意思で人間の従魔になっているとしたら、それに反するのは冒涜ではないのか?」


「ぐぅぅっ……」



 ズールルォは言い返せなかった。

 神竜の意思に反する事、それは竜信仰者にとって最も忌避すべき事。

 その思想があったからこそ国を為し、守り役は国を守って来たのだから。



「お前がすべきは真実の確認。神竜様は本当にいらっしゃるのか、だとすればその御意思はどうなのか。もし虚偽であれば国を挙げて立ち向かうつもりだ」


「ああ」


「しかし噂の全てが真実であった場合、神竜様と何としても接触を図りたい。神竜様の御言葉を聞ける機会など教義の中にあれど歴史の中にはないのだからな。ダンジョン【百鬼夜行】の百階層に神竜様がいらっしゃると言うのであれば、そこに赴かなければならん。だからこそのお前だ、ズールルォ」


「……分かった。任せておけ」



 ズールルォは守り役の精鋭、四名を引き連れて王国へと旅立った。

 厳しい旅路故にもっと連れていきたい気持ちもある。守り役をあまり国から離したくない気持ちもある。

 だから『ダンジョンの四九階以降は五人編成でパーティーを組むのが推奨されている』という情報に合わせた。


 足取りは軽く、表情は険しい。

 色々と考えなければならない事、やらなければならない事が多過ぎるが、全ては真実を知る事から始める。


 首から下げた、死した竜の素材を削ったチャームを握る。

 神たる竜にそうして祈りを捧げるのだ。

 何とぞ竜様の御加護を。その誇りを胸にズールルォは前を向いた。




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