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116:【百鬼夜行】と【覇央】



 年寄り扱いされたマーグリッドは見た目、二〇台後半か三〇歳ほど。

 一方、子供扱いされたグラディウスは三〇台半ばといった見た目だ。

 ビーツの人間目線からすればグラディウスの方が年齢が上に見えるが、そこはエルフと人間、キリルの先輩というマーグリッドの年齢が気になるところである。いや、キリルの年齢も知らないのだが。


 ニヤニヤしながら煽るマーグリッドと、獲物を見つけたようにギラリと笑みを浮かべるグラディウス。

 互いの罵倒は続いているが、彼らの後ろに控えるパーティーメンバーは、誰も慌てもせず、罵倒に加わる事もせず、澄まして立っている。まるで日常的な挨拶の風景を見ているように。

 唯一冷や汗を流しているのはキリルくらいのものだ。

 遠目で見る冒険者や庭園の観客、露店の商人たちは最初こそ有名冒険者の登場にざわついたものの、何やら険悪な雰囲気に声を潜める。

 この場で空気を読まずに話しかけるような者は誰一人として居ない。


 ……いや、いた。



「わぁ!もしかして【覇道の方陣】の皆さんですか!あ、あなたが世界一の冒険者、グラディウスさんですか!」



 若干小走りに駆け寄るのはダンジョンマスター様であった。

 その様子にギョッとした表情を浮かべるのはキリル。お前、このタイミングで来るのかよ!と突っ込みたい衝動を抑えビーツを見た。

 同じくビーツの声に【不滅の大樹】【覇道の方陣】の十名がビーツに目を向ける。

 マーグリッドと言い争っていたグラディウスがニヤリとさらに笑みを深くし、マーグリッドを押しのけるように、一歩二歩ビーツに近づいた。



「世界一ねぇ」



 そう呟くグラディウス。

 笑顔で近づくビーツ。


 ―――次の瞬間、ガキンという音と共にビーツの視界は半透明の青色で覆われた。



 何が起こったのか、ビーツが理解するまで一瞬かかった。『一瞬の間、分からなかった』と言ってもいい。



 グラディウスの持つ大剣が横薙ぎに振るわれていた。その軌道はビーツの首。

 しかしビーツの直前に立つ少女……オロチに触れる直前、攻撃無効のルールによって止められていた。

 さらにビーツを守るように首から顔にかけてクラビーがスライムの身体を広げ、保護の為に覆っていた。ビーツの視界の半透明の青色はクラビーの身体だった。


 一体いつグラディウスは剣を握り、振ったのか。

 一体いつオロチとクラビーは出て来たのか。

 一瞬のうちに行われた攻防にキリルの目は見開かれる。

 もし攻撃無効のルールがなければ、もしオロチとクラビーが反応出来ていなければ、ビーツは死んでいた。その事実にキリルの汗が止まらない。

 それは遠目で見ていた人々も同じだ。あまりに険悪な雰囲気に騒めく事すら出来ないで息を飲む。



 そして殺されるはずだった当の本人は、こんな事を考えていた。



(おおー、速い!さすが世界一だなぁ!……って言うか攻撃無効のルールってオロチの幻影相手でも適応されるんだなぁ、新発見。あ、みんなに「お仕置き禁止」って念話しなきゃ)



 そんな危機感皆無のビーツを表情から読み取ったグラディウスは一層楽し気にビーツへと話しかける。



「クククッ、世界一なんて今じゃお前の為の言葉じゃねぇか?ビーツ・ボーエン」


「えっ!?ぼ、僕なんてそんな大層なもんじゃ……」


「わあってるよ!お前の力量はアダマンタイト最弱。だが従魔含めた召喚士としちゃ世界一、だろ?俺らをここに寄越した帝国(くに)のお偉方どもはやれ『ダンジョン制覇しろ』だの『ドラゴンを倒せ』だの『帝国の威厳』だのうるせーんだ。だがんな事ぁ関係ねぇ。俺らが来た理由はなぁビーツ・ボーエン―――」



 グラディウスはビーツの目線まで顔を下ろし、睨みつけるように笑みを浮かべる。



「お前より強ぇって証明するためだよ。ドラゴンだぁ名声だぁ関係ねぇ。ただそれだけだ」


「は、はぁ……いやでも―――」

「お前には無理。筋肉ゴリラ」

「ちょ!オロチ!」



 グラディウスの言葉に反論したのはビーツの前に立つオロチ。

 ビーツが慌てて止めようとするも止める気配がない。

 今までビーツを睨みつけていたグラディウスの目が初めてオロチに向けられる。



「お前がマスターの前に立てる事はない。その前に私が殺す」


「クククッ、このダンジョンは死なない(・・・・)んじゃなかったのか?」


「ん。だから百回殺せる」


「ククク、ハハハハッ!いいなぁお前!オロチだったか?―――お前、俺のものになれ」



 あたふたするビーツと余所にオロチは怒りの籠った無表情で見つめている。

 グラディウスを殺すというオロチ。

 それに対しグラディウスは怒るどころか、何やら気に入ったらしい。突然勧誘し始めた。

 えっ、従魔を引き抜くとか出来ないんじゃ、と若干的外れなビーツを無視してオロチとグラディウスの会話が続く。



「お前は山でゴリラでも集めてろ、筋肉ゴリラ」


「クククッ……あー、ダンジョン攻略してダンジョンマスター様をぶっ殺すだけのつもりだったがなぁ、もう一つ来た理由が出来ちまった。お前を倒して俺のものにするぜ。お前、どこの階層に居るんだ?」


「言うわけない。でも攻略してたら必ず私と戦う事になる。そこで千回殺す」


「あーそうかい。んじゃビーツ・ボーエン、そういう事だ。邪魔すんぜ」


「は、はぁ……」



 グラディウスは笑いながら屋敷へと歩を進める。パーティーメンバーの四人も追従した。

 どうやらダンジョンカードの登録に行くらしい。


 残された者のうち、キリルと冒険者や一般人は「ふぅ~」と大きく息をつき、漂っていた緊張感からの開放に忙しい。

 そして疑問符だらけで困惑の表情を浮かべるビーツと、やれやれといった表情でビーツに近づくマーグリッド。【不滅の大樹】の残り四人も「やっと行ったか」という程度の顔だ。



「いやぁ災難だね、ビーツくん。あんなのに目を付けられるなんて」


「あ、いえ……【覇道の方陣】の皆さんが挑戦してくれるのは嬉しいんですけど……。あ、マーグリッドさんとグラディウスさんってお知り合いだったんですね」


「まぁ昔にちょっと会ったくらいさ。とにかくガサツで自己中心的なやつさ。その上で理知的だからタチが悪い。オロチくんも気を付けたほうがいいよ。まぁ言うまでもないと思うけどね」


「ん」



 憧れの有名冒険者たちとの初顔合わせが思いもよらない方向に行ってしまった。

 その事に苦笑いのビーツだった。




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