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114:とある観戦マニアの密談



 建国祭は初日の国王生誕祭を含めて三日間に渡り行われる。

 その間、地方や他国から人が集まり、ただでさえ人口の多い王都がさらに人で溢れかえる。


 騎士団や衛兵からすれば相次ぐ問題の対処に追われる期間であるが、商人にとっては一番の稼ぎ時。同じ忙しさでも地獄と天国である。


 王都のやや南寄りに並んで建てられているのは『ハンズの道具屋』と『ヒルトンの宿屋~渡り鳥の羽根休み亭~』。

 大通りに面しており中央区にもほど近い立地。

 当然のように建国祭最中は客足が多い。



 宿屋は十日ほど前から満室続きだが宿泊客は祭り見物に出歩いている。

 時間を見計らって休憩をとったヒルトンは、となりの道具屋へと足を運んだ。

 ヒルトンの宿屋に泊まる客は行商人や中~上級冒険者が多い。貴族区に近い北区の宿屋となれば値段も高くなり大商人や高ランク冒険者が泊まるが、南区はそれほどでもない。

 とは言え大通りに面していて安いはずもないので客のランクも高くなるのだが。


 そして行商人も冒険者も旅・野営の為に隣接するハンズの道具屋で買い出しする事が多い。相乗効果と言うべきか、ヒルトンの宿屋が儲かれば、ハンズの道具屋も儲かるというわけだ。

 案の定、ヒルトンが入った道具屋には普段以上に客が入っていた。


 ヒルトンはカウンターに向かい、店主に声を掛ける。



「ハンズ、忙しそうだな」

「お蔭さまでな。奥に行っててくれ、俺も休憩に入る」

「ああ」



 店主同士の仲は良く、休憩時間となれば店を抜け、二人で【百鬼夜行】のモニター観戦をするのが毎日の楽しみだ。共に観戦マニアを自称している。

 しかしこうも忙しいと【百鬼夜行】まで行く時間もとれず、店の中でお茶をしながら談笑するに留まっていた。

 商談室のような場所に入ったヒルトンは勝手知ったる部屋の如くソファーへと座る。

 やがてお茶を持ったハンズが入って来て、「ふぅ」と一息ついて向かいに座った。

 そんな様子を無視してヒルトンが話しかけた。



「おい、聞いたか?オオタケマルフィギュア、並んだと同時に完売だってよ」

「かぁ~っ!そんなこったろうと思ったよ。誰か商業ギルドから情報仕入れてるんじゃねぇか?」

「カードも残り少ないらしい。今回は全部従魔カードなんだろ?せめて一パックは買いたいんだが……」

「だよなぁ。せめて買いに行くくらい店開けても……怒られるか」



 早速【百鬼夜行】談義を始める二人。これも日常である。

 マニアの二人にとって、もはや休憩時間に観戦に行けない毎日はストレスである。彼らの家族もそれを分かっているが、この時期に働かないなど商人としてありえない。

 彼ら自身もそれを承知しているから、少ない休憩時間もこうして店で話すに留まっているのだ。



「それと聞いたか?『陣風の警告』ってやつ」

「なんだそれ」

「モニターで流れたらしいんだよ。いつもの探索風景じゃなくて【陣風】が「魔物への注意を払いましょう」って魔物解説する映像」

「本当か!うわぁ見たかった!」

「いや、どうやら同じ映像をこれから何度も流すらしい」

「……どういう事だ?同じ映像?」



 プロモーションビデオやコマーシャルといった概念がない人々は、ネガティブキャンペーンの映像を『陣風の警告』と呼んでいた。

 そして録画といった概念もないので、同じ映像が流れるというのもよく分からない。

 理解されないのはビーツもクローディアも承知しており、継続して流せば「全く同じ映像が流れているんだな」と観客も分かるだろうと踏んでいる。


 理解できない事が起こるのはダンジョン【百鬼夜行】の日常。


 観戦マニアとしてよく訓練された二人は、早々に考える事を諦め、「多分また流すんだろうな」「その時見られればいいな」という程度に抑えた。

 固定概念に囚われ思考を深くするのは、【百鬼夜行】という非常識を相手取るのに邪魔になる。二人はそこらの冒険者以上にそれを分かっている。



「―――で、さらに噂を仕入れたんだ」

「なんだよ改まって」

「絶対秘密にしてくれよ?」



 そう前置きしてヒルトンは小声になる。

 ハンズは訝し気にそれを見た。



「まず【交差の氷雷】がダンジョンに潜るらしい」

「はあっ!?本当か!」

「ああ、これはもう確定。すでに登録済みらしいし、祭り後にでも探索開始するんじゃないかって話だ」

「うわぁ!こりゃ楽しみだなぁ!」

「いや、もちろん楽しみなのは同じだが、それは確定情報だからいいんだ。問題はこの先だ」



 ハンズからすれば大ニュースなのだが、どうやらヒルトンの本題はこの先らしい。

 王国が誇るアダマンタイト級所属パーティーの挑戦以外に何があると言うのか、ハンズは身を乗り出した。



「とんでもない面々が祭り後に王都に集まってくる。すでに北区の宿屋に予約が入っているんだ」

「……お前、客の情報を横流しとか宿屋にあるまじき行為だぞ?」

「だから秘密だって言ってるだろ。向こうも【百鬼夜行】好きで俺が【百鬼夜行】好きだって知ってて流したんだ。誰かに言いたかったらしい。だいぶ興奮してたよ」

「うわぁ……ま、聞かなかった事にするわ。で、なんだよ。とんでもない面々って」



 共犯者を増やしたヒルトンがハンズに顔を近づける。

 まるで悪徳商会の密談だ。



「まず獣王国のアダマンタイトパーティー【白の足跡】、神聖国のアダマンタイトパーティー【天衣の砦】、樹王国のアダマンタイトパーティー【不滅の大樹】……」


「おいおいおい!待て待て!なんだそれ!有名どころのアダマンタイトパーティーばっかじゃねえか!」


「それだけじゃないんだ。悪名高い傭兵団の【黒竜旅団】とか、通商連合の国々からも来るらしい」


「……それは本当に【百鬼夜行】に潜るのか?ただ王都に来るって線も……」



 一般人でも知っている世界的に有名な冒険者たちが集結する。

 これは一観客として見逃せない。テンションが上がる。

 しかし傭兵団が来ると言われても本当に探索するのか?という話だ。

 話半分に聞こうとハンズは決める。



「ま、そんな連中が来るらしいんだが、最後に本命だ」


「ん?まだ誰か来るってのか?」


「ああ、【覇道の方陣】だ」


「!? 【覇央(はおう)】グラディウスか!?」



 ハンズは思わず立ち上がった。

 【覇道の方陣】――それはそれこそ世界中の誰もが知っている冒険者パーティー。

 ″世界最強の冒険者″【覇央】グラディウスが率いるパーティー……それが【覇道の方陣】である。

 その五人が大陸の逆側、帝国からやって来る。

 まさかの事実にハンズはしばらく呆然とし、ヒルトンは笑顔を浮かべていた。




ハンズとヒルトンは7話参照ですね。

決して百貨店やホテルチェーン店とは関係ありません。

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