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110:英雄の献上品爆弾・前編



 エジル国王への誕生祝い――贈与品の献上と挨拶は順次行われていった。

 ある貴族は自分の領地の特産品、ある貴族は商人から買い付けた豪華な絵画など、その個性がよく表れている。

 贅を尽した貴族らしい貴族に嫌気が差しているエジル国王も「この壺は高かったんですよ!」とにやけ面で持ってくる貴族に対して嫌な顔もせず「うむ、今後とも忠義に励め」と淡々と返す。

 例え心中で「そんな金あるなら民に還元しろよ」と思っていてもだ。


 その一方で特産のワインなどを持ち込んだ領主には「楽しみにしておったのだ、今年の出来栄えはどうだ?」など食いつきを見せる。

 そうする事で「自分は壺や絵画より特産品とかの方が嬉しいですよ」とアピールしているつもりなのだが、それを理解出来ない貴族もまた多い。例年のごとく高価な品々を持ってくるのだ。顔には出さないが辟易する。



 そして最後に英雄爵の四人の出番がやって来た。

 一人一人挨拶するのではなく、【魔獣の聖刀】の四人が横並びで頭を下げる。

 代表で挨拶するのは当然アレクだ。この場はデュークではない。



「陛下、改めてお誕生日おめでとうございます」

「うむ」

「早速ですがお祝いの品をご用意しました。どうぞお納め下さい」



 アレクの元に王城の使用人が贈与品を持ってくる。登城した際に事前に渡していたものだ。

 それは紐で巻かれた羊皮紙のスクロール。

 周りで「今年の英雄たちは何を贈るのだ?」と興味深々で目を光らせる貴族たちがそれを目にすれば、すぐに「新たな魔法を開発したのか!」「さすが【消臭王】!」と小声で反応する。

 アレクの消臭魔法を利用している貴族は驚くほど多い。すでに王都では一般家庭にまで使われているのだ。地方貴族であっても知らないはずがない。



「ふむ、あらたな消臭魔法か?」

「いえ、今回は『洗浄魔法』です」



 若干ドヤ顔のアレクに対し、一歩下がって並ぶパーティーメンバーの目が開かれる。

 「洗浄魔法ってまさか!」「完成したの!?」「ファンタジー定番のヤツ!?」と。

 驚く三人とは逆に、洗浄魔法の意味が分からないエジル国王や周りの貴族たち。


 それを見たアレクは「試してみましょう」と近くに置かれたワイングラスを手に取り、自分の礼服にぶちまけた。


『なっ!?』


 突然の奇行に騒めく会場。王の前で粗相というレベルではない。

 エジルとしても怒っていいのか判断がつかない。

 そんな事はお構いなしに、アレクは詠唱を始め、スクロールに書かれた魔法名を口にする。


「―――クロスクリーン」


 手のひらが光り、それを礼服に当てると、ワインで紫に染まったはずの服がたちまち元通りになった。

 一番近くで見ていたエジル国王の目が再度見開かれる。



「なんと!」


「これは衣服や靴に付いた汚れを落とす魔法です。泥や血も消えます。先ほどのワインの汚れも消えすでに水分もなくなっています」


『おおっ!』



 つまりは瞬時に洗濯・乾燥したという事。

 エジル国王だけでなく他の貴族からも感嘆の声が上がる。

 一方、後ろの三人は「なんだ身体は洗えないのか」「お風呂いらずじゃないのね」「ホッとしました」と真逆の反応を見せ、その小声にアレクの口元がピクつく。

 お前らこれを開発するのにどれだけ苦労したと思ってるんだと。

 身体の汚れとか必要な細菌を殺したらどうするんだ、無理に決まってるじゃねーかと。



「さすがだなアルツ卿」

「恐れ入ります」

「して……余にも使えるのか?必要適正は?」

「水と風と光です」

「…………そうか」



 「三属性必要とか早々居るかい!」とは貴族たちの心の叫びである。

 普通の人間は適正ゼロという者は居ないものの、大抵が属性一つか二つの適正である。

 三属性持ちが稀な上に、狙ったように水・風・光の適正を持つ人間など滅多にいないだろう。

 ちなみに【魔獣の聖刀】ではクローディアが風・土の二属性。ビーツが闇・水・土の三属性。デュークが光・火・水の三属性。アレクが全ての六属性であり、とんでもない優秀な魔法適正揃いである。



 何はともあれアレクの献上は終わり、続いてクローディアとなる。

 アレクと入れ替わるように前に出たクローディアがカテーシーで簡礼を行い、使用人がその前に箱を置いた。



「こちら(わたくし)からの贈り物にございます。どうぞお納め下さい」

「うむ」



 そう言ってクローディアは箱の中から二枚のカードと、二体の人形を出した。

 それを見たエジル国王の顔がピクンと一瞬険しくなる。

 一方で周りの貴族の一部が騒ぎ始めた。



「本日発売されたばかりのオオタケマルフィギュア、人化バージョンと竜化バージョンの二体、それとトレーディングカードも同じく二種類。(わたくし)が製作に協力したものでして成果としてご笑納頂ければと」

「うむ……」



 エジル国王はフィギュアやカードを収集しているわけではない。

 ただ今や王都の名物化しているのは承知しているし、【三大妖】のフィギュアなどとんでもないプレミアが付いているのは知っている。

 カードにしてもオークションでもない限り、普通に購入して狙ったカードを入手するのは困難で、これまたプレミアが付いている。

 その証拠とばかりに周りの収集癖のある貴族が五月蠅い。金を積んで手に入るものではないのだ。

 つまりは王都の″特産品″であり、クローディアの″仕事の成果″でもある。貴族として王に献上するのに何の問題もない。


 ……しかしエジル国王は例のドラゴン騒動のせいで今も尚対処に追われている真っ最中である。王都民への周知は徹底させたものの対国外についてはまだ未完といった所だ。

 それなのに件のオオタケマルグッズを持ってくるとは……クローディアの性格からして悪気があるわけではないだろうが、エジル国王としては複雑な心境だ。



「…………ふむ。見事な出来だな。今後とも忠義に励め」

「はい」



 そう言うのが無難だと思った。

 やりきった感のあるクローディアの顔に若干イラッとした。




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