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109:【氷神鞭】と【雷神斧】とその他



「切っ掛けは【白爪】ベンルーファス前獣王陛下と【アイテムマスター】レレリアを、アラクネのジョロが倒した事だ」



 もう二か月近くも前になる。

 運悪く四九階層の従魔戦でジョロを引き当てた二人が為すすべなく敗れた事。



「ただの敗戦ではなく何も出来ず、一撃も与えられず、一方的に敗れた。それも世界的に有名な【白爪】が、だ。レレリアもドワーフとしては有名人だが知名度では【白爪】陛下に随分と劣る。力を奉ずる獣人国の最強戦力……現役を退いた今でも『獣人最強の前衛はベンルーファス陛下では?』という声があるほどだ」



 ビーツたちもその強さはよく知っている。

 今でこそ「ベンさん」などと呼んでいるが、その力は間違いなく過去【百鬼夜行】に挑んだ探索者の中でも最強の部類だ。

 ただジョロがそれを上回っていただけで……。



「一部の有力者たちはこう考えた。『【白爪】を下したアラクネを自分の下に居る強者が倒せばそれは強さの証明になる。そしてその強者を囲っている自分の価値も上がる』とな。要は手っ取り早く名声を得るチャンスと捉えたのだ。【白爪】陛下の力は現役時代に比べ劣り、それでも尚知名度が高いという考え、それを利用してな」



 実際に劣っているのかは分からないが、と伯爵は続けた。

 ビーツたちは全盛期のベン爺の強さを知らない。

 だがゴブリンキングとの模擬戦(死んでも双方生き返るので真剣勝負という名の模擬戦)を経て間違いなく強さが増しているのは事実。

 その現在が、果たして過去未満の強さなのか、過去以上の強さなのか、それは本人にしか分からないだろう。



「ともかく【白爪】陛下を上回ろうと画策し出した貴族……いや、各国勢力があった。そうして準備していた所で、例のドラゴン騒動が起こった」


「「「「あー……」」」」


「言うまでもなくドラゴン討伐となれば最良の誉れ。名誉の象徴のようなものだしドラゴンバスターという夢の称号も付いてくる。市場にわずかに流れるドラゴン素材はそのほとんどが死骸から剥ぎ取ったものだ。生きているドラゴンと合いまみえる事などそうそうない。ましてや戦える事などもっとないし、倒す事などそれだけで英雄譚ものだ」



 どこに住んでいるのか、どのくらい強いのか、見つけ戦えたところで勝てるのか、そんな事は誰にも分からない。

 誰もが知っている存在なのに誰も詳しくは知らない頂点の魔物。

 だからこそ畏怖の象徴であり、力の象徴でもあるのだ。



「『【百鬼夜行】へ行けばそこにドラゴンが居る』そう考える者が多くなった。今まで【百鬼夜行】とボーエン卿の力に懐疑的だった他国の者たちもだ。それほどまでにドラゴンという魔物の魅力が高かったのだろう。なにせ貴族からすれば『私の下に居る冒険者はドラゴンバスターだ』と声高々に言える機会だからな」



 やれやれといった表情で伯爵はそう語る。

 伯爵はエジル国王たちと同じように、そういった『金と権力と見栄にまみれた貴族らしい貴族』ではない。むしろ辟易しているくらいだ。

 まぁだからこそこうして英雄爵の近くへと歩み寄り話しているわけだが。



「アラクネを倒せば【白爪】を越える。より深くに潜れば強さの証明。ドラゴンを倒せばドラゴンバスター。……今の【百鬼夜行】には力にも名誉にも引っ掛かる大きな釣り針が垂れているのだ。力を証明したい、名声を得たい、そんな貴族や冒険者を集める地盤が出来上がった」


「意図してないんですがね……」



 ビーツは頭を抱えながらそう呟いた。

 伯爵も苦笑しながら続ける。



「だからこそ私も【交差の氷雷】を出すのだ。近々強者が溢れるであろう【百鬼夜行】が、このままでは他国による上位独占状態になる。本拠地である王国がアダマンタイトを出さないわけにはいかない、とな。まぁ国王陛下からのご希望でもあったわけだが【魔獣の聖刀】を潜らせるわけにもいくまい」


「なんかほんとすみません……」


「ふふっ、とまぁ愚痴はここまでだ。私としても【交差の氷雷】がどこまで行くのか楽しみな部分もある。ボーエン卿、そういったわけでヤツらが行った際はよろしく頼む」


「はいっ。分かりましたっ」



 長話しすぎたな、とマハルージャ伯爵は離れた。

 伯爵の地位に居る者が英雄爵の面々と長話するというのは聊か外聞が悪い。

 ましてや伯爵から出向いているのだから尚更だ。


 伯爵が抜けたスペースを埋めるように待ち構えていた貴族がすぐに【魔獣の聖刀】へと話しかける。

 さすがに伯爵の話の邪魔は出来なかったが、ここぞとばかりに英雄たちに近づきたいという貴族が多いのだ。

 ビーツは取り繕った貴族としての顔に戻しつつ、頭の中では貴族との会話に集中出来ず、先ほどの伯爵との会話が残り続けた。



(スノウさん達はいいとして、他に誰が来るんだろう……)



 それはダンジョン攻略の危機や、オオタケマルを周知させた事による対処などではなく、ミーハーな冒険者目線での楽しみであった。





「拠点変更な……いや、まさかお前らが来るとは思わなかったよ」



 冒険者ギルド王都支部、ギルドマスター執務室にてソファーに座るユーヴェの対面には五名の冒険者たちが座っていた。

 【交差の氷雷】である。

 まずはマハルージャから王都への拠点変更の申請だとギルドを訪れたわけだが、有名人である彼らの登場にギルド内は当然騒ぎになった。

 仕方なくギルドマスターのユーヴェ自ら変更手続きを行うはめになったわけだが、現在王都は建国祭の真っ最中。人で溢れ、喧嘩や小競り合いなど小さな問題が多発する中、わざわざ自分の手を煩わせるんじゃないと、若干溜息交じりに応対した。別に知らない間柄でもないし。



「そうか。私は分かっていたぞ、この地を訪れるのが運命だとな」


「さっすが姉ちゃんだぜ!何でも知ってるんだな!」


「「「……なんかすいません」」」


「お前らも大変だな……苦労は察するよ」



 ユーヴェの皮肉を全く意に返さない姉と姉馬鹿な弟。

 それを支えフォローする三人の幼馴染。

 ユーヴェはその三人の方に同情した。


 魔法と武技、共に常軌を逸した才能を誇る天才姉弟。


 姉【氷神鞭(ひょうじんべん)】スノウ・スプリングフィールド。二七歳(独身)。

 氷属性魔法と鞭が武器の中衛。灰色の長い髪と華奢な身体、一五〇センチほどの冒険者としては恵まれない体躯(絶壁)。我は強いがいつもどこか抜けている女性。


 弟【雷神斧(らいじんふ)】サッズ・スプリングフィールド。二五歳(独身)。

 雷属性魔法とポールアクスが武器の前衛。同じく灰色の髪に一九〇センチ近い筋肉に覆われた肉体。見た目と裏腹に少年の心を忘れないシスコン。精神年齢五歳。


 その他、回復術士の男性・ソルト、狩人の女性・セシリア、魔法使いの男性・シルバ。

 共に姉弟と幼少期から付き合いがあるおかげで苦労し続け、婚期を逃し続ける三人である。

 ちなみにパーティーリーダーはソルトであり、断じてスノウではない。



「ま、とりあえず変更許可はしておくから頑張って探索してくれ」


「ああ、任せろ」

「姉ちゃんに任せろ!」


「いや、俺がリーダーだから、スノウ、サッズ……」



 ソルトの呟きは最早定番であり今さら反応する者はこの場に居ない。




春雪と春雷。

交差の氷雷は「イニシャルS」縛り。

サッズ、シルバ、スノウ、セシリア、ソルト。

最初はサッズじゃなくてサンダーでいいじゃんと思ってたがイニシャルがSじゃないと気付き変更。

危うくバカを露呈するところだったぜ……。

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