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107:とあるエセ貴族の登城

00話に第六章終了時、106話までの登場人物紹介を更新しました。



 建国祭初日。

 王都はいつも以上の人で溢れかえる。

 つい二〇日ほど前にスタンピードとドラゴン騒動で恐怖に包まれていた街とは思えない、活気ある盛況ぶりだ。


 大通りには露店が隙間なく立ち並び、歩道を挟んだ店舗でも大々的に呼び込みを行っている。路上パフォーマンスをする芸人や、リュート片手に歌い上げる吟遊詩人も居る。

 王国各地や他国からも行商人が集まり、各地の特産を売り、また王都の名物を買いあさる様も見受けられた。


 いつもはダンジョン【百鬼夜行】に潜っている冒険者たちも祭りの期間は楽しもうと、探索するパーティーは少ない。

 とは言え全く探索者が居ないなんて事はありえないし、この機にダンジョンへと訪れた人々は噂に聞く【百鬼夜行】の様子を知りたいと庭園のモニター前に集まる観客はいつも以上に多いのだ。

 実況のポポルは長時間に渡る実況を強いられる始末。それも探索者減少の中で盛り上がりに欠ける中途半端な階層の中途半端なパーティーを実況せざるを得ない状況で、それでも実直な彼は「せっかくの祭りだから貢献せねば」と気を吐いていた。


 柵門から庭園に向かうまでの露店でも【百鬼夜行】グッズが飛ぶように売れている。

 フィギュア、トレーディングカード、ホールに張られた巨大絵織物をA3サイズほどにした一枚絵(印刷物)なども売っていた。

 中でも目玉は『オオタケマルフィギュア(人・竜バージョン)』と『建国祭限定・従魔カードパック』である。

 ここぞとばかりに売り出したフィギュアはすでに初回ロットが売り切れである。

 カードパックは今まで出た従魔カード(レア扱い)に加え、オオタケマルも追加したもの。つまりハズレなしのオールレアである。一つのパックに十枚入りなので運の要素はあるが上手くすればオオタケマルGETのチャンスである。

 通常の五倍の値段を付けたがそんなの関係ないとばかりに売れた。

 ギョーブの笑いが止まらない。



 そんな祭りの様子とは裏腹に、ダンジョンマスター・ビーツは浮かない顔をして屋敷の前に佇む。

 いつもの中級冒険者風のローブ姿とは違い、貴族の礼服に身を包んでいる。

 その横にはこれまたいつもと違い白銀の近衛兵風の鎧を身にまとったシュテンが控えている。当然、鬼炎弐式も持っていない。代わりに何やら大きな手荷物を持った状態だ。



「はぁ……じゃあ行ってくるね」

「はい。お気をつけて。シュテンお願いします」

「ああ、任せろ」



 見送りのジョロに溜息交じりに声を掛け、柵門に向かう。

 すでに大通りに横付けされていた馬車へと二人は乗り込んだ。

 サガリの馬車ではない。王国の国章が刻まれた、王城からの迎えの馬車だ。

 ビーツとシュテンが街中を歩くと混乱を招く為、わざわざ迎えをよこすという好待遇。ビーツは感謝こそすれ、溜息をつくなど言語道断である。


 そう、建国祭の初日は国王エジルの生誕祭である。

 一般都民は同じ祭りに違いないが、貴族にとっては王城で行われる祝賀パーティーに出席する義務がある。

 パーティーなど年に一度のこの日か新年祝いなどにしか顔を出さないエセ貴族のビーツにとっては胃が痛くなる行事であった。





 馬車は大通りをゆっくりと進み、王都北端にある王城へと入る。

 四九階層でゴブリンキングが陣を布いていた場所と同じ王城前広場をぐるりを回ると、王城への入口に馬車は止まる。ビーツたちがすぐに入城出来るよう横付けした格好だ。


 城に仕える使用人たちの出迎えを受け、シュテンの大きな手荷物を渡し運んでもらう。

 すでにビーツは貴族モードを装っている。出発前に見た憂鬱そうな表情はない。

 幼い顔立ちながら精一杯キリッとし、胸を張り、優雅に歩く……なるべく。


 ビーツはすでに何度も足を運んでいる王城だけに案内の必要などないが、マナーと言うべきか貴族の矜持と言うべきか、王城仕えのメイドがビーツとシュテンの前を歩いた。



「近衛の方はこちらの待合室でお待ち下さい」

「分かりました。シュテン」

「ハッ。ご武運を」



 一体何の武運を祈るというのか、戦いに赴くわけじゃあるまいし。

 しかしビーツはシュテンのその言葉に頷き返した。これからは貴族としてただ一人の戦いである。そんな心構えであった。


 貴族の集まるパーティー会場に近衛を連れだって入る事は禁じられている。

 せいぜいが招待された貴族の家族だ。その家族もまた招待されていなければ入る事は出来ない。

 ビーツの近衛として付いてきたシュテンなど最たるものだ。従魔とは言え魔物。それも災害級の魔物を会場に入れるわけにはいかない。

 従って、いつもの如く護衛に付いていたオロチはビーツの影からシュテンの影に移動。

 クラビーもうねうねとシュテンの鎧の中に移動した。

 これでビーツは久しぶりの″身一つ″状態である。心構えはさらに強くなる。



 会場となるホールは王城の二階にあった。

 学校の体育館を思わせる広さの会場にはあちらこちらにテーブルが置かれ、すでに料理が並んでいる。

 入って早々に給仕の男性にウェルカムドリンクを渡される。ビーツはお酒が飲めないので果実水だ。


 辺りを見回すと、まだ貴族の数は多くない。

 ビーツは『英雄爵』。一代限りの名誉爵位である。貴族位においては男爵のさらに下、騎士爵と同等であり、新参である事を踏まえれば最下位となる。

 そんなビーツが後から悠々と会場入りするわけにはいかない。新参らしくなるべく早めに来たのだ。



「ビーツ!」



 その声に顔を向ければ、隅のテーブルを囲む三人の『英雄爵』の姿があった。つまりは【魔獣の聖刀】である。どうやらビーツが一番最後らしい。

 パーティー会場という戦地において仲間に会えた喜びに、ビーツは若干小走りに駆け寄った。貴族の振る舞いとして優雅に歩く事を心掛けて欲しい。



「みんなおまたせ。早かったね」

「デュークが一番早かったよ」

「そういうアレクこそ、宮廷魔導士長様なんだから遅れて来たっていいものを」

「宮廷魔導士長様だからこそ早めに来ないと五月蠅いんだよ。宮仕えの連中が」

「うわぁ大変ねぇ。私絶対いやだわ」



 小声ながらも貴族らしからぬ会話に花を咲かせる。

 アレクはいつもの紫ローブではなく、デュークも法衣ではない。目立たない程度の貴族用礼服に身を包む。

 クローディアは真っ赤なドレス。前世の影響からか幼少時代でもレギンスのようなパンツスタイルだった彼女はスカートが苦手である。それでも貴族らしくパーティーの席ではドレスを身に纏っていた。五センチほどのヒールも履き、アレクと変わらない身長になっている。

 男性の貴族は爵位の優劣を意識して、上の方――公爵に近づくほど派手で目立つ意匠となるが、女性貴族の場合は別である。英雄爵であっても派手で嫌味が出る事はない。

 ここら辺の機微は貴族となった当初、エドワーズ王子からレッスンを受けていた四人であった。



 やがて続々と王国貴族が会場入りしてくる。

 緊張とは無縁の三人を余所にビーツは固まっていった。



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