102:ビーツ、事後処理に追われる
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先日、王都上空に現れたドラゴンは私、ビーツ・ボーエンの百番目の従魔です。
エンシェントドラゴンという種族で、名前はオオタケマルと言います。
当ダンジョンにおけるダンジョンボスを務めており、百階層まで辿り着けば戦えるかもしれません。(従魔スロットによる従魔戦には出ない予定です)
人型を模する魔法も使えます。
その姿を見た方も多いと思いますが完全な人型ではない為、王都に紛れ込むという事はありません。
むしろ表立って出る事は通常ありませんので、今後見る事は稀だと思います。
今回は魔物の群れが接近した事により緊急的に参戦させましたが、突然の事に驚かせてしまい申し訳なく思います。
オオタケマル共々、今後ともダンジョン【百鬼夜行】をよろしくお願いします。
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そんな告知が為された立て看板が、ダンジョン【百鬼夜行】の柵門付近に立てられた。
ビーツが帰還して翌日、王城へと召集命令が出て、頭を下げに行ったビーツ。
うちのオオタケマルがすみませんでした。僕の監督不行き届きでした、と。
エジル国王としてはそれに関して怒るつもりはない。小言を言いたい気分だったので軽く注意はしたが。
結果として魔物の群れに対してオオタケマルが大打撃を与えたのは明らかであり、それにより死亡者どころか重傷者も出ない大戦果となった。これは予想を大きく上回る結果であり、貢献度として見ればオオタケマルは表彰でもされるべきものである。
しかしながら『従魔が召喚士の思惑を外れた行動をとった』とも言える。しかもよりによって畏怖の象徴たるドラゴンが、だ。
都民は恐怖し、一部の貴族もここぞとばかりに騒ぎ出す。
「召喚士が制御できてないじゃないか」「ビーツを王都から追放すべきだ」「英雄爵など取り上げろ」「危険分子に他ならない」などなど、さすがに他国からはまだ話しが来ていないが、おそらく同じような話しが出ると思われる。
エジル国王としては貴族は黙らせるつもりで居るものの、他国への対応や一般都民への周知に向けては早急に考えなければならないと、ビーツを呼んだわけだ。
閣僚を揃えた協議の中で出した結論は
一、『竜人化』という表現の秘匿
二、ビーツが出撃させた体にする
三、他はすべて周知させる
というものだった。
『竜人化』については歴史的に『竜人』という滅んだ『人種』が居たという背景がある為、これをバラすと世界中の歴史書自体を変える必要が出る。この混乱時にそんな手間まで掛けたくないというのが本音だ。
つまりオオタケマルが『人化』しているのは、タマモと同じような『変化』魔法であるとする。エンシェントドラゴン自体が知られていない種なので、固有魔法や特性についてはいくらでも誤魔化せるだろうという判断だ。
ビーツが出撃させた体にするというのは、あくまで『ビーツが指示して迎撃させたのですよ』『決して従魔が勝手に暴れたわけではないんですよ』という安全性アピールだ。
これを言わないと都民からの不安や、貴族からの批判が相次ぐ。ビーツも当然これを受け入れた。
それ以外全てを周知させる……つまりダンジョンボスの情報公開である。
ヴェーネスに言わせればダンジョンマスターとして暴挙であるそれをビーツは了承した。
元々、ビーツは長年かけて探索者が百階まで降り、さあラスボス戦だ!という所で「実は百番目の従魔はドラゴンだったんですよ!」「な、なんだってー!」とやりたかったのだ。
秘匿していた理由は、ただそれだけである。
ラスボス戦のインパクトが減った分、楽しみが前倒しになった感じだ。
もちろん能力の全てを晒すつもりはないが、一般人にドラゴンの生態などを知ってもらう良い切っ掛けになるのではないか。
つまり、モンスター図鑑の次巻はドラゴン編になるのではないか。
すでにビーツの頭はそちらにシフトしていた。
こうして協議の翌日、立て看板による周知が為された。
当然、通行人やモニター観戦者の反応がすごい。
「おいっ!百番目の従魔だってよ!」「あのドラゴンがか!」「あんなの従魔にしたってのか!」「エンシェントドラゴンって何だよ!」「俺、人化したの見たぞ!」「ダンジョンボス!?まじかよ!」「無理無理無理!あんなの倒せるか!」「従魔戦出ないのかー」「ちょっと見たいけどなー戦ってるとこ」「ブレス一発で何千って魔物が消えたって聞いたぞ」
延々と騒ぐ人々。
この分だとすぐに王都中に広まるだろうとビーツはとりあえず安堵した。
まだ不安に思っている人も居ただろうし、これで少しは和らぐといいなぁと。
シェケナベイベータイムズの新聞記者、ニャニャシーも急いでアポイントを取りに来た。
オオタケマルの記事をどうしても書きたいらしい。
ビーツとしては渡りに船である。最初から周知させる為に新聞を利用するつもりでいたのだから。
なので、本人不在のインタビューで良ければと返答しておいた。オオタケマルが十日やそこいらで起きる事などないだろうと。
他にも「フィギュア化はよ!」という声や「カード化はよ!」という声が上がる。
これも順次対応していかなければならない。
というより、盛り上がりすぎて早くやらなければという焦燥感さえ覚えるビーツであった。
まぁどちらもクローディアの協力が必要なので、それ次第なのだが。
ちなみに屋敷内ホールの天井に張られている巨大絵織物のオオタケマルの姿にはゴツゴツとした尻尾が描き足されている。いや、描くと言うより織るなのだが、ジョロにその部分だけを修正してもらった。
これで現在の正確な『ビーツと【百鬼夜行】の姿絵』となったわけだ。
うんうんと満足気に見上げるビーツを見て、ジョロも自己嫌悪から完全に払拭されたらしい。
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ビーツの仕事はまだまだ終わらない。
立て看板による周知の翌日。
管理層の会議室にて六名の男女が円卓を囲んでいた。
『魔物を集団洗脳させる魔道具って造れるの?』会議である。
一人目はビーツ・ボーエン。言わずと知れたダンジョンマスター。今回は実際にダンジョン機能にて魔道具製作を試みる担当である。
二人目はモクレン。ダンジョンのトラップデザイナーにして鍛冶師である。魔道具製作ならば従魔内随一。
三人目は【鬼軍副長】ヌラ。八百年前の古代魔法知識を有する従魔界の生き字引。いや、死に字引。その知識量は千年以上生きるマモリをも上回る。
四人目は【大魔導士】アレキサンダー・アルツ。人間種きっての魔法使い。独自の発想の元、新魔法を作る手腕はまさしく″魔法バカ″。
五人目は【陣風】クローディア・チャイリプス。賑やかし担当。
六人目は【聖典】デューク・ドラグライト。今回の会議の議長兼、書記兼、エジル国王向けの報告書作成担当である。
「……うわっ、俺の仕事多すぎ!?」
「しょうがないよね、デュークだし」
「扱いが酷いわ!って言うかクローディア働け!」
「私、茶々入れる役目だから」
「そんな役目は存在しない!」
「アハハ……。ま、まぁデューク君も落ち着いて」
久しぶりに四人揃った【魔獣の聖刀】。
結局昔から変わらないノリで会議も進展しないのだが、ビーツはそれが楽しいと感じていた。
やっぱこの三人がパーティーメンバーで良かったな、と。




