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100:ビーツ帰路に着く

祝100話!目標にしていた数字なので嬉しいです!

これからもぼちぼち進めていきますのでよろしくお願いします!



 『王都上空に現れたドラゴンは【百鬼夜行】の所属にある。

  詳しい発表は後日行われる為、安心されたし』


 その告知はガストール軍務卿から騎士団へと伝わり、王都各地で報じられた。

 そもそもオオタケマルの存在を知っていたのは【魔獣の聖刀】の他に、エジル国王、エドワーズ王子、ギルドマスター・ユーヴェ、ビーツの師匠であるシュタインズ、【怠惰】のフェリクス……くらいしか居ないのだ。

 一番国王に近いベルダンディ宰相でさえ知らない。

 故にエジルから告知内容を受けたガストール軍務卿も大そう驚いた。


 ガストールからすれば騎士団を率いる立場で、王都を守護すべく志を高く持っている。

 その守るべき王都に、よりによって畏怖の象徴たるドラゴンが住まっていたとは……。


 ダンジョン【百鬼夜行】が出来た当初も色々と問題視され、騎士団の在り方が問われた。

 なにせ幹部勢は(マモリを除き)全て″災害級″であり、一体でも姿を現せば国を挙げて対処を迫られる魔物である。それが自由に往来を闊歩しているのだ。従魔とは言え。

 これはビーツの英雄としての知名度と英雄譚がすでに発売されていた事で、むしろ人気を博し、結果的に上層部の思っていた以上に国民に浸透した。

 今ではファンクラブやら信奉やらされるまでになっており、誰もその存在を危惧する事はない。……ごく一部で恐れや目の敵にしている所はあるが。


 しかしそれらの″災害級″とドラゴンでは意味合いがまるで違う。

 目撃例が少ないものの、最も恐ろしく、最も有名で、最も強いとされる魔物なのだ。

 そんな魔物だからこそ、ウィンドドラゴンを従魔にしたユーヴェがギルドマスターとして王国全土の冒険者の手綱を握っていても許されるのだ。単に前ギルドマスター・シュタインズの弟子だからというわけではない。


 兎にも角にもドラゴンが【百鬼夜行】に、王都に住んでいるという事実は変わらない。

 ガストールは自身の混乱を鎮め、新たに気を張り直し、騎士団へと通達を促した。



 ……思いの外、すんなり受け入れられた。


 王都中への告知に対し、住民からは「ああ、やっぱり【百鬼夜行】か」「だと思った」「またか」といった声が相次ぐ。

 危機感が麻痺しすぎではないのか?と逆に危惧するはめになった。

 このままでは万が一、野良のドラゴンが迫って来ても「どうせ【百鬼夜行】だろ?」と避難さえしない可能性がある。

 ガストールはその旨をエジル国王に報告し、エジルは再度頭を抱える事態となったのだ。





 そんな事はつゆ知らず、ビーツは念話でエドワーズ、アレクと軽く打ち合わせして以降は、相も変わらずヴェーネスとの【奈落の祭壇】魔改造を楽しんでいた。

 ビーツの持っていた魔物知識や、モクレン式のトラップ、ダンジョンマスター能力の活用方法などを教え、逆に探索者の行動予測、心理、ヴェーネスの発見したダンジョンマスター知識などを教えて貰う。

 そうして話し合い改造していく中で、新たな発見もあった。

 やはりダンジョンマスター同士で相談し合うというのは互いにとって有意義だと感じた瞬間である。



 ビーツがヴァレンティア王国へと来てから八日が経ち、王国へと帰る日がやって来た。



「随分と長居しちゃってすいませんでした」


「いえ、もっと居て下さっても良いくらいです」


「アハハ、また何かあれば随時通信鏡で連絡をとりましょう」


「そうですね。緊急連絡や相談でなくとも世間話でも出来れば幸いです」



 別れの挨拶をするビーツと、それに微笑むヴェーネス。

 ヴェーネスの「もっと居てくれ」というのは本音である。

 ビーツたちが【奈落の祭壇】に入ってから九日、【三大妖】による吸収魔力は従来のおよそ一年分以上にもなる。逃すのは本当に惜しい。

 それにビーツと共に行ったダンジョン改造はとても楽しく心躍るものだった。

 ミラレースら幹部に″神覚″の″貸与″を実践できた事も大きい。


 そういった様々な意味での名残惜しさを胸に、ヴェーネスはビーツを送り返した。

 地上部に探索者が居ない事を確認した上での転移である。

 ビーツと【三大妖】は軽く手を上げ、ヴェーネスと幹部たちに別れを告げると、その身は光に包まれ、次の瞬間には地上部へと着いた。



「さて、シュテン、この扉開けられる?」


「やってみます」



 四百年前、吸血鬼たちが避難する際に力を出し合い、ようやく一人分の隙間を開ける事に成功した石の扉。

 シュテンが両手で扉に触れ、腰を落とし、力を籠める。

 ゴゴゴ……

 ゆっくりと開け放たれる扉。ビーツも思わず「おおっ!」と声を出す。

 シュテンだから開けられて当然、というわけではない。

 あの(・・)シュテンが力を籠めないと開けられない扉なのだ。その力を知るビーツはむしろ扉のほうに驚く。何なんだこれは、と。

 開け閉めするのが扉としての機能のはずなのに、開けることを想定していない。では封印の類かと思えばなんの魔法も掛けられていない。ただただ重いのだ。


 やがて両開きの扉を完全に開けると、ヴェーネスからの声が響いた。



『シュテン殿、感謝します』


「いえ、なかなかの強敵でした」


『ビーツ殿、改めて旅のご無事をお祈りします。どうぞ良き旅路を』


「ありがとうございます、陛下もお元気で!お邪魔しました!」



 そう言ってビーツたちは【奈落の祭壇】の外に出た。もうヴェーネスの管轄外である。

 谷底に降りた時と同様に、シュテンにお姫様抱っこされた状態で断崖の上へとジャンプする。

 ビーツを抱えている影響か、さすがのシュテンも一五メートルの高さはジャンプ一つで到達する事は不可能。何度か適当な岩壁に足を掛け、ジャンプを繰り返して登り切った。タマモも同じように登ってくるが、シュテンよりジャンプの回数は少ない。どうやらジャンプ力はシュテンよりタマモの方が上のようだ。


 あとは辺境の森を抜け、サガリとショーラが待つ街道まで抜ければ良い。道順はオロチが分かる。



「どうしよっかなぁ。適当に木を伐採しちゃった方がいいかな」



 ヴェーネスに提案した『近隣の村からダンジョンまでの不便さ』を解消する為の処置である。全面的にヴェーネスに任せるつもりでいたが、どうせ木を伐採して獣道めいたものを作るのならば、自分たちが帰りがてら伐採しても同じではないか、と。


 思い立ったが吉日である。

 オロチが村までの真っすぐな順路を指定し、シュテンが鬼炎弐式でスパッと大木を斬り、次々に寝かせる。斬った木は何かに使うかもしれないし横にどけて置けばいいだろう。

 邪魔な切株はタマモが焼いて砕く。周りの木々に燃え移らせるようなヘマはしない。

 で、ビーツはその間の魔物退治だ。シュパンシュパンと鞭がうなる。

 これで土魔法でも使えればより通りやすい道を作ることが出来ただろうが、残念ながらビーツの土魔法では無理だ。土魔法のスペシャリストであるジョロならば楽勝だったであろうが……。


 こうして瞬く間に道が出来上がっていく。

 村まで開通させてしまうと目立ってしまうので、適当な所で切り上げたが、それでも随分と通りやすくなったとビーツは満足気に頷いた。



「ブルルルゥ」

「キキーッ!」

「サガリ、ショーラ、ただいま!大丈夫だった?」



 再会したビーツは二体に確認すると、何事もなかったらしい。

 近隣の冒険者ギルドでは何事かあったのだが、それを彼らが知る事はない。


 こうしてビーツは王都に向けて帰路の旅路に出た。




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