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王都ダンジョン【百鬼夜行】へようこそ!  作者: 藤原キリオ
第一章 ダンジョンのある日常
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09:とある新人斥候コンビの遭遇



「よっし、おつかれ!」



 帰還部屋へと転送されたヒューズが安堵の声と共に労う。

 【純白の漆黒】の五人は本日、地下三階層をクリアし、地下四階の転移陣から帰ってきたのだ。

 新人冒険者がダンジョン【百鬼夜行】に挑戦し始めてから一週間で地下三階層をクリアというのは、やや早いペースである。

 

 というのも、一番年少のロビンが十歳の新人冒険者というだけで、他の四人は十一歳と十二歳であり、ロビンよりも一足先に冒険者として活動していた実績がある為である。

 村の仲良し五人組は、英雄パーティー【魔獣の聖刀】に憧れ、幼少期は遊び半分ながら修業に費やし十歳になった者から冒険者登録をして活動を始めた。

 しかし【百鬼夜行】へとダンジョンアタックするのは最年少のロビンが冒険者登録してからと全員で決めていた。

 それはダンジョン探索をする際に斥候役が必須であり、ロビンの狩人としての力を四人が信頼していた為である。


 そういった経緯もあり順調に地下三階層をクリアした【純白の漆黒】の本日の探索は終了である。


 帰還室からホールへと出たロビンは、ちらりと左側のホール奥を見やった。

 広々としたモニター観戦用ホールの最奥には屋敷の二階に上がる広い階段がある。

 が、冒険者であれ、職員であれ、二階に上がることは許されていない。


 屋敷の二階はダンジョンマスターであるビーツ・ボーエンに認められた来客用の応接室があるとされており、その詳細は不明だ。

 冒険者内の話では、王族が来たとか、英雄パーティーが来たとか、よく分からないおっさんが来たとか言われているが、少なくともロビンたちは二階に上がる人を見たことがない。


 荒くれ者の多い冒険者でも試しに上がってみようという愚か者もいない。

 二階へと上がる階段の踊り場に、常に一体、ビーツの従魔が門番の如く居座っているからだ。

 時には初心者御用達の魔物であるデュアルホーンラビットであったり、巨大なサイクロプスが居座っていたり、スケルトンが眼球もなしに本を読んでいたりする。


 ダンジョンオープン直後はデュアルホーンラビットなら行けるだろうと酔っ払いの冒険者が二階に上がろうとしたらしいが、どういった経緯か帰らぬ人となったらしい。

 それ以来、階段に近くの席はベテラン冒険者の観覧席となっており、誤って階段に近づく新人冒険者たちの牽制も兼ねているのだ。



「うわ……」



 階段の踊り場を見たロビンが、思わず声を上げた。

 そこには白銀の体毛を輝かせた大きな狼が寝そべっていたのだ。



「フェンリルだよな、初めて見たぜ」

「来た時はスレイプニルだったわよね」



 そう言って盛り上がるのは、フェンリルという誰もが聞いた事のある強大な魔物を目にし、ある意味ミーハーな気分になっているせいである。

 もっとも、ベテラン冒険者からすれば見た事のない魔物や、強すぎて逃げたくなるような魔物が間近にいるダンジョン【百鬼夜行】という環境に慣れてしまったせいで、感覚が麻痺している事も否めない。

 フェンリルを見て素直に驚いている【純白の漆黒】を「俺らもかつてはああだったなぁ」と温かい目で見ているのだ。


 そんな話をしながら【純白の漆黒】は本日解散となる。

 モニター観戦をする者もあれば、消耗品の補充に店を巡る者、宿に戻って武器の手入れをする者などに分かれる。

 ロビンはどうしようかと迷った所で「よお」と声を掛けられた。



「クライスか、おつかれ」

「おつかれ。今、探索終わりか」

「ああ、四階まで行けたよ」

「早いな!俺のとこはまだ三階だ」



 クライスとロビンは初心者講習で一緒だった完全な同期であり、また年齢が近いこともあってよく話す仲になっていた。

 クライスは召喚士であり、従魔のファングラット(大きいねずみ)がパーティーの斥候役である為、同じ斥候役のロビンと情報交換する目的もある。

 じゃあ二人でモニター観戦でもしながら話すかとホール内を歩いていると、突然、周りの冒険者たちが騒ぎ始めた。



「「「「うおおおおおおお!!!!」」」」


「な、なに!?」



 何が起こったのか、モニターで映された冒険者に何かあったのか、慌ててモニターや周りの冒険者を見まわし、すぐにその答えが出た。


 フェンリルが道を譲るように二階から階段を下りてきた人影。

 すらりとした長身で白金に輝く長い髪からは大きな狐耳がピンと立ち、この世界にない和服(着物)の襟口を広げる事で両肩と豊満な胸の上部が露わとなっている。

 汚らしく着崩しているわけではなく、妖艶であり白の色彩と相まって神々しくも見える。

 ただの狐獣人と違うのは腰から生えた九本の尾だ。一本一本が太く大きく、それが九本も束になっていると、正面から見た時、まるで後光をさしているかのように見え、さらに神々しさを増しているのだ。



 「タマモ様ああああ!」「タ・マ・モ!タ・マ・モ!」「ありがたやありがたや!」「よっしゃ!見れてラッキー!」「好きだ!結婚してくれ!」「てめえ!表出ろや、コラ!」などなど男性冒険者の声がホールに響く。

 騒ぎを聞きつけ屋敷外から見に来る一般客や露天の商人も現れ、騒ぐ人、泣く人、祈る人までいる始末。

 神聖国に神が実際に降り立ってもこうはならないんじゃないか、とロビンは思った。


 ビーツ・ボーエンの最初期の従魔三体、通称【三大妖】。

 斥候役で蛇軍長のオロチ。火魔法を自在に操る狐軍長のタマモ。特大の刀を振り攻撃も守りもこなす鬼軍長のシュテン。


 ビーツ・ボーエンの従魔として特に有名な三体【三大妖】の一体であり、もちろんロビンも知っている。

 タマモの容姿も絵本やら屋敷内の絵織物で見ているのですぐにタマモと分かったのだが、実際に見るその姿は、なるほどこれは人気があるわけだと納得する他なく、しかしそれ以上に周りの熱狂的な反応に若干引いてしまっていた。


 当のタマモは冷めた目で前を見据え、騒ぐ者共など見向きもしないで歩みを進める。

 一部の熱狂的ファンが率先してタマモの通り道を確保し、冒険者との接触を避けるために動くその姿は、さながらVIPの護衛につく警備員のようであったが、タマモはそんなファンの事すら見ないで悠々と歩く。

 やがて受付近くでギルド職員の女性と少し会話をして、二階へと戻って行った。


 なんだかんだでその様子を見続けてしまったロビンは、ダンジョン探索以上に疲れた様子で大きく息を吐いた。



「……すごかったね。あれがタマモか」

「一番人気とか、タマモ信仰とか聞くのも分かるな」

 

 どうやら宗教化しているらしいというのをロビンは初めて知ったが、あの騒ぎを見た後では納得せざるを得ない。



「やっぱり召喚士としては、ああいう従魔に憧れるものなの?」



 そうロビンはクライスに聞いた。



「そりゃ憧れるけど次元が違うからなぁ。ナインテイルなんて伝説の存在だし、野生の魔物としてどっかに出たら村とか町は壊滅だろうよ。まさしく災害級の魔物だな。そんな魔物が普通に歩いているこのダンジョンが異常なんだ」



 その言葉に階段の踊り場で寝ているフェンリルをちらりと見て、その通りだなと頷く。



「ルビーフォックスから進化を繰り返してナインテイルになったって話だけど、召喚士として言わせてもらえば、ありえないって皆言うだろうよ」


 

 ルビーフォックスは額に赤い宝石のある子狐の魔物で、それこそ新人冒険者でも狩る事が出来、最近はタマモの影響でペットとして需要が高まっていると言われる。

 タマモは、その最下級の種族から進化したというのは英雄譚にも描かれており、ロビンももちろん知っていた。



「やっぱ従魔の進化って難しいのか」


「ほとんど聞かないな。と言うか、召喚士自体が少ないから事例が少ない。研究しようにも、大召喚士と呼ばれる極一部の人間でさえ、従魔は最大で三体だ。百体も従魔にしてそれを進化させるまで育てるとかビーツ・ボーエン以外には後にも先にも居ないだろうよ」



 俺は一体だけだしな、と少し拗ねたようにクライスが言った。

 今まで周りに召喚士という存在の居なかったロビンは、その話を受けて、改めてビーツ・ボーエンの規格外さを知った気がした。



「やっぱ英雄ってのは違うんだな」


「ああ、だから俺はタマモとか従魔に憧れるんじゃなくて、ビーツ・ボーエンに憧れるのさ。召喚士としては一度会いたいし、話してみたい。

 従魔のこともそうだし、このダンジョンにしたって規格外の事ばかりだろ?作りだとか、モニターとか、死なないとか、なんで王都の真ん中にとか……常人には思いつかない発想とそれを実現できる力がある。正直、英雄譚であった魔族討伐とかより今のこのダンジョンの状況の方が信じられないぜ」



 それは確かに、とロビンも思う。

 魔族討伐もそれまでの歴史を塗り替える信じられない事で、ロビンは幼少の頃から夢のような非現実的な物語として聞いていたが、言われてみれば現在のロビンの周囲にあるダンジョンの状況の方がよほど非現実的である。

 ダンジョンの事を知らない人に「死んでも死なないんだ」と言ったところで鼻で笑われるだろう。寝言は寝て言えと。



「それもそうだな。前に会った時に聞いておけば良かったよ」


「…………えっ」



 たっぷり沈黙した後に、クライスはロビンの胸倉を掴み、顔を近づける。



「お、お前、会ったの?ビーツ・ボーエンに?」

「あ、あぁ。初心者講習の日に屋敷の外で……」

「どうだった!?何か話したのか!?おい!」

「い、いや、ダンジョンを楽しんでとは言われたけど、ただの子供かと思って……ビーツ・ボーエンだって分からなかったんだ」

「かぁ~~!お前まじか!分かれよ!ってか何激励されてんだよ!羨ましいんだよ!」

「いや、そう言われても……」



 首をがくがくと揺らされながら、ロビンは苦笑いした。

 十歳の自分から見ても、ビーツ・ボーエンは本当にただの子供に見えるし、あの状況でクライスが見かけても気付かないんじゃないかな、と。




■百鬼夜行従魔辞典

■従魔No.34 カジガカ

 種族:フェンリル

 所属:狐軍

 名前の元ネタ:鍛治が嬶(かじがかか)

 備考:元ネタが五文字なのにビーツの謎の四文字縛りの犠牲となった可哀想な狼。

    さらに言えば最初は「狗神刑部」から取ろうとしたが「ありゃ狸か」と思いとどまった。

    屋敷警備に就く事が多いが、それ以外の時は住処にしている階層で狼たちを育成・統率している。


■従魔No.2 タマモ

 種族:ナインテイル

 所属:狐軍(狐軍長)

 名前の元ネタ:玉藻前

 備考:ビーツが二体目に従魔にした子狐が進化を繰り返した個体。

    人型をしているのは固有魔法「変化」によるもので、オロチの「幻影」とは異なる。

    その美貌から一般人の好きな従魔ランキングは不動の一位。

    だが主以外の人間には無関心・冷徹であり触れようものなら即座に燃やされる。


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