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この世界の裏側で誰かが何かをしている〜最強のモブと自重出来ない美少女双子妹〜  作者: 涼月 風
第一章

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第7話 癒しの場所




 あれから数日間、俺は(かのえ) 絵里香の動向を陰ながら見守っていた。

 学校生活では、一般の生徒としてきちんと過ごしている。

 問題は、夜中だった。

 何度か出かけようとしてお手伝いさんに止められていた。


 そのせいか、ここ数日の庚はストレスが溜まっている感じだ。

 大きなため息を何度もついて、少しイラついた様子が伺える。


 その週の金曜日、庚のストレスがピークに達して部活中に稽古相手をのしてしまったようだ。


 やり過ぎた感があるようで、落ち込んでいる庚を見てるとそろそろ何とかしなくてはと思う。


 で、今、家で妹達とその件で作戦会議を開いている。


「一回、強い邪鬼と戦わせたら? 」

「上級は滅多に出てきませんが、中級なら里にあるポイントに出てきますしね」


「今のところ都内では低級しか出会っていない。わざわざ里まで庚を連れて行くのか? 」


「そうよ。転移してけば一瞬じゃない」


 陽奈、転移なんて使えませんが?

 寧ろ、使えたらどんなに便利か、その能力があるなら欲しいわ!


「里のポイントとこちらのポイントをゲートで繋げば、わざわざ転移をしなくても、こちらで里の中級邪鬼を倒せますよ」


 瑠奈、ゲートなんてないから!

 それって転移と同じだよね。理屈的には……


「妹達よ。忌憚のない意見が欲しいと言った俺が馬鹿だった。もっと現実的な意見はないのか? 」


「このカルパッチョ味のポテチって、結構ハマるね」

「そうですか? 私は、きのこの森の方が今日の気分に合います」


 う~~む、聞いてないな……


「そうだ。里の山にいる太郎を連れて来ればいいんだよ。久々に会いたいし」

「それは、名案ですね。ミスリルの鎧を付ければオークジェネラルのようになりそうです」


 里の太郎って、陽奈のペットの熊だろう?

 熊が都内に出たら大騒ぎになるってわかってるよね?

 それに、この世界にミスリルという金属はありませんが?


「妹達の意見はわかった。会議は終了とします」


 これ以上は無意味だ。

 妹達の話を聞いていると胃が痛くなってくる。


 しかし、実際、ヤル気になっている人間を思い留まらせる事は難しい。

 強敵と対峙しても、自分の未熟さを嘆き更なる修行に励む可能性もある。

 これは俺達の実体験だが……


 まぁ、やりたいようにやらせて飽きるまで待つか……

 その間のサポートはするつもりだけどね。


「そうだ! 庚さんが討伐よりも夢中になるものを用意してあげればいいんだよ」

「う~~ん、夢中になれるものですか? 女性なら恋愛とかでしょうか? 」


「そうだよ。お兄に庚さんを籠絡させればいいんだよ。それも、メチャクチャにしてさ」


 陽奈がとんでもない事を言い出した。


「陽奈……庚さんを籠絡させることには意見がありませんが、その対象が何故、兄様なのですか? 28文字以内で答えて下さい」


 何て半端な数を指定するんだ?


「だって、私達は『霞の者』だよ。そう言った任務もあるわけだし」


「理由になってませんね。それに句読点を入れれば字余りです」


 瑠奈の眼つきが怖いのだが……


「それはダメだ。俺は、庚と直接接触するつもりは無い」


「流石、兄様わかってますね」


「え~~、何でよ! 籠絡は無理でも友達になって危ない事はやめた方がいいって言ってあげるのもダメなわけ? 」


「俺は空気のように大衆に溶け込むつもりだ。余計な行動はしたくない」


「それって、お兄が読んでたラノベの主人公の設定だよね。もしかして、設定がカッコいいとか思っちゃったわけ? 」


 ぐぬぬぬぬ、断じてそんな訳はないと言いたいが……少しは思ってる。


「違う! 俺は『霞の者』としてだな~~、そういう風に陰に隠れるのが当たり前なんだ」


「でも、お父さんはそんな事してなかったよ」


 ぐぬぬぬ、反論が~~反論できない……


「とにかく、そうなんだ。そう、決めたんだよ」


「お兄って、中二病を拗らせてない? なんか見てて痛いんだけど」


 陽奈の暴言が俺を襲う。

 このままでは、兄としての威厳があああ……


「陽奈、兄様になんていう事を言ってるのですか。兄様は病気なのではありません。考えが子供なのです。幼いのです。私達しか話し相手のいないボッチ生活を長年続けてきたのですから世間知らずに育ってしまっただけなんです。罪は無いんです」


 瑠奈、勘弁してくれ!

 これ以上は俺の精神が耐えられない……


 俺は居たたまれなくなって、逃げるようにその場から立ち去った。






 双子妹による精神攻撃により、俺のHPは枯渇寸前だ。


「癒しが欲しい……」


 俺はトボトボと歩いていると、いつの間にか朝刊配達のルートを歩いている事に気が付いた。


「何で、こんな時にバイトの道順なんだよ~~」


 暫く歩いていると結界が張ってあった桜の古木のある公園に辿り着いた。

 俺は、公園のベンチに腰掛け何を見るでもなくボーッとしていた。


「里が恋しいなぁ~~。あぁ、帰りたい……」


 郷愁の念が湧き上がるといてもたってもいられなくなる。


「ダメだ。俺はここで任務を遂行しなければならない」


 双子妹達に罵られるのは何時もの事だ。

 だが、俺のアイデンティティを傷つけられるのは、耐えられない。


「ふぅ~~」


 短いため息をつきながら周りを見渡す。


「随分、桜の木があるんだな。それに、池もあるし、そうだ! ここで絵を描こう。美術部の作品も提出しなければならないし」


 俺は、バイト中に見つけた駅前の本屋さんでスケッチブックと色鉛筆を買う。

 家にもあるが、これは必要な経費だ。

 断じて無駄遣いでは無い。


 スケッチブックを片手に、池と桜の木が見える場所に移動する。


「桜が咲いてないけど、まぁ、仕方がない」


 スケッチブックを開いて下書き無しで直に色鉛筆でその風景を模写し出した。

 何かに打ち込んでいれば余計な事を考えなくて済む。


「これは、いいかも……」


 時間は夕方だが、暗くなるにはまだ時間がある。

 こうして、一時間程度で大凡の模写を描き終えた。


「あとは細かい部分を丁寧に仕上げていけば……」


『優しい感じの絵ですね』


 突然、背後から声をかけられた。

 気配を察知できないとは、忍びとして恥ずかしい。


 俺は、声の主に顔を向けると、


「えっ!? 転校生君だよねー。確か霞君だったっけ? 」


 俺に声をかけたのは、クラスメイトの水沢 清香だった。


「えっと、水沢さんですよね? 」


 名前と顔は知っている。

 因みに、バイトで家に朝刊も配っている。


「私の名前知ってたんだ。霞君、絵が上手いんだね。それに家はこの近くなの? 私の家も直ぐそこだよ」


「家は池フクロウの駅から歩いて10分程のマンションです」


「そうなんだ~~割とここから近いけど、どうしてここに? 」


「絵を描こうと思って歩いていたら、この場所が気に入ったので」


「そうなんだ。なんか嬉しい」


「えっ!? 」


「あ~~深い意味はないよ。私が好きな場所を気に入ってくれて嬉しかったって意味だから」


「わかってます」


 この水沢 清香は隠れファンがいそうなタイプの危険度Bの人間だ。

 これ以上の接触は、モブ化の障害になりかねない。


 俺は、スケッチを辞めて道具を片付け出す。


「あれ、もう、辞めちゃうの? せっかく素敵な絵なのに」


「ええ、あとは細かい部分なので家でもできますから」


「そうなんだ。もし、良かったら家に寄ってく? お茶ぐらい出すよ」


「はい!? 」


 何て無防備な子なのだ。

 俺が悪人だったら、とか考えていないのか?


「あ~~そうだよね~~ちょっと家に誘うのはマズイよね~~」


「俺もそう思います」


「何か、霞君と話せて楽しかったというか、もっと絵を見せて欲しかったというか。私、変だよね」


 変だと思うが、これは言葉に出せない。


「そんな事ないですよ。ありがとうございます。気を使ってくれて。俺は、もう、行きます」


「うん、じゃあ、来週、学校でね。バイバイ」


 水沢 清香は、家に向かって歩き出した。


 クラスメイトと意外な接触をしてしまった。

 あの子の天然さは男に誤解を与える危険なレベルだ。


 俺は、二度と関わらないようにしようと心に決めた。





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