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第68話 奉納神楽舞踊






 翌日、神楽舞を奉納する壬 琴葉とその一行は、門前町にある下の神社から出発した。

 駕籠に乗って、門前町の表参道を通り、大きな鳥居を抜けて壬家のある奥社の神社に向けて練り歩く。


 街道沿いには、多くの見物人がおり豪華な巫女装束に身を包んだ琴葉が手を振りながらみんなの歓声に応えていた。


 そんな様子を戊家の執事セバスは、見物客に紛れて見ていた。


「あれが壬 琴葉ですか。付き添いは、壬 籐子と神主が一人。その後ろと前には氏子の役員の方ですな」


 セバスは、その行列を見ながらターゲットである人物達の動向を注視していた。


「裏は取れましたから、後はお嬢様にお任せ致しましょう」


 セバスは、その駕籠の行列を追いかけるように移動する見物客と共に自身も移動するのだった。





 一晩、壬家の家に泊まった俺達は、朝、水で身体を清める禊をして神職が着用する着物と袴をはかされた。


「流さん、神主さんでもないのに何でこんな格好するの?」

「御神体の前まで行かれると聞きました。今、リズ様、陽奈様、瑠奈様も同じように着替えおります」

「あれ、ルミネさんは?」

「神霊術を使えない部外者は入れません。神霊術は、神から授かった力。神職ではなくとも同義とみなされます」

「では、流さんも入れないと?」

「はい、残念ながら」


 うむ、壬家の価値観は俺達とは違うようだ。


「静葉はどうするの?今回は妹さんの琴葉さんだっけ、舞を踊るんだよね」

「静葉様は、身体が弱ってますので、今回は霞様達と一緒に背後に控えさせておくと龍子様がおっしゃいました」

「そうなんだ」


 大変なんだな。静葉の家は……


 流さんと話し込んでいると、リズ先輩や妹達それと静葉がやって来た。

 静葉だけは、自前の巫女衣装を着込んでいるが他のみんなは一緒の衣装だ。


「霞様、帯刀を許すと龍子様からお言葉を頂きました」

「そうなんだ。妹達も?」

「ええ、その様に聞いております」


 そんなに暴れん坊の酔っ払いがいるのか?

 まあ、警備員なら武器は必須だけどね。


「わかりました」


 リズ先輩も手には、メイスを持っている。

 何か物々しい感じだ。


「琴葉様が山道を登り始めたようです。皆様、外でお待ち下さい」


 流さんの案内で、壬家から神社に向かう。

 神社では、神職が並んで待機していた。


「厳粛な感じですわね」

「ええ、何か嫌な感じがします。お嬢様、私が近くにいられませんので霞様の近くにいる事をお勧めします」

「大丈夫ですわ。ここには、静葉さんもおりますから」


 俺は、静葉を見ると緊張しているのか、普段にまして顔に表情がない。

 何かに怯えているような感じさえ受ける。


 この儀式は、御神体の前で神楽舞をするとしか聞かされてない。

 緊張する意味がわからない。


「お兄、私の袴姿どう?」

「兄様、私は似合ってますか?」


 陽奈も瑠奈も俺と一緒の白い着物に白袴。


「うん、陽奈も瑠奈も似合っているよ」


 そう言うと喜ぶ妹達は平常運転だ。


 神社の外で並んで待っていた俺達は、働いてる神職の人に邪魔にならないように後ろに下がる。神職達は、お供え用のお酒とか野菜、果物、それに鯉を白木作りの神饌箱の中に入れていた。


 観光客は、張り巡らせたロープの外側にいる。

 目を光らせている本物の警備員もたくさんいた。


 すると、神官衣装に身を包んだ壬 龍子が姿を現した。

 俺の方をチラッと見て、直ぐに神職の先頭に立つ。


 山道の方から琴葉を乗せた行列の先頭部分が見え始めた。

 琴葉も巫女衣装で搭乗する。

 駕籠は階段下で降りたようだ。


 琴葉は、龍子婆さんに頭を下げて一緒に神社の中に入って行く。

 並んでいた神職もそれに続いて行ったので俺達も最後尾からついて行く。


 神社の中には、外から見えない渡り廊下があり、それは滝が落ちる岩肌へと繋がっていた。


 大きな扉を開けると、冷んやりとした空気が流れこむ。

 人ひとりが並んで入れる通路を抜けると、少しひらけた場所に出る。

 その先に鳥居があり奥には大きな門がある。


 楽士たちはここで演奏するようだ。

 ござを敷いて準備をしている。


 鳥居の前には、龍子婆さんと琴葉が一礼をしてその場にとどまった。

 俺達は、この洞窟内に並んでいる神職の背後にいる。

 一人の初老の神職が儀式を始めると、みんな平伏した。


 俺達も真似て平伏する。

 祝詞の奏上が始まったようだ。


 およそ、5分ほどだろうか、平伏しながら祝詞が終わるのを待っていた。

 儀式の終わり頃、もう一人の神職が鍵を大事そうに持ちながら門の前に行くと大きな南京錠の鍵を開けた。


 扉を開く係の神職が二人がかりで大きな門にある扉を開く。

 その時、楽士たちが演奏を始めた。


 龍子婆さんが、俺達を呼ぶ。

 リズ先輩、静葉、そして俺と妹達は、龍子婆さんと琴葉が背後に控えた。

 この門の先は、神職でも入れないようだ。


 並んでいる俺に向かって龍子婆さんは小声で『守ってもらうぞ』そう告げた。


 何やら嫌な予感がする。

 静葉を見ると青い顔をしてた。


 この奥に何かあるのか?

 酔っ払い相手のただの警備員ではすみそうもない。

 そもそも、酔っ払いはここには入れない。


 まさか、煎餅や饅頭、干し柿を貰っただけで偉い約束をしてしまったのではないかと、今更ながら思った。





 大きな門にある扉の中に入ると、そこは先程より開けた場所に出る。

 その中央に大きな岩が置いてありしめ縄が張り巡らされていた。


 琴葉は、緊張しているのか数歩前に出てそこで一礼をしている。

 後ろから見てると、足が震えていた。


 響く洞窟内では、ここまで楽士達の演奏が聞こえる。

 曲調が変わると、琴葉はそれに合わせて舞い始めた。


 俺は小さな声で静葉に尋ねる。


「ここはただの場所じゃなさそうだけど何なんだ?」

「お婆様に聞いてないの?」

「ああ、全く」


 婆さんと話したのはお茶請けの饅頭とかの話だ。

『美味い』とかしか言ってないし、婆さんも『そうか、そうか』とかしか聞いた覚えがない。


「ここは『封印の要石』がある場所。あの岩の下には大陸から渡って来た悪龍が封印されている」


「そうなんだ」


 静葉の話をリズ先輩や妹達も聞いている。

 みんなも何も聞かされてないようだ。


「3年に一度、封印の強化をする舞を奉納する。それが妹が踊ってるアレ」


 それを聞いたリズ先輩は、


「龍は神界の生き物。普通の封印では直ぐに解けてしまいますわ」


「大丈夫。封印をしたのは、この地に住んでいた白龍」


「すると、大陸から渡って来た悪龍とこの地に住んでいた白龍が戦ったわけ?」


「そう、白龍様は自身の能力の全てを使って封印した。壬家は、その封印を守る為にこの地に神社を築いた」


 それが、壬家の本当の姿なのだろう。

 まさか、龍と龍が戦ったなんて怪獣大戦争みたいな感じだ。


 琴葉の神楽舞は続いている。

 真剣に踊る姿を見ると、随分と練習をしたように思える。


「静葉は、3年前に踊ったの?」


「うん、その時初めてここに来て踊った。それまではお婆様がしていた」


 長い長い時間、琴葉は、ゆっくりと舞を踊る。

 時々響く鈴の音がこの空間に響き渡る。


 一曲目が終わったらしい。

 楽士が二曲目を演奏し出した。

 先程より、テンポが速い曲調だ。


『ゴロッ……』


 岩がズレたような音がする。


「この曲で一度悪龍が目を覚ますと言われている。岩が動くのはそのせい。だけど三曲目の踊りで完全に眠りにつく。この曲が無事に終われば儀式は終わったも同然」


 今日の静葉なよく話す。

 それにわかりやすい。

 この雰囲気が静葉をお喋りにしてるのかもしれない。


『ゴロッ、ゴロッ』


 岩が動く。


 俺が思うに、わざわざ眠りを覚ます曲など演奏しなければ良いと思うのだが。

 それを静葉に聞いてみると、


「目を覚ます周期を管理する為、ここで目覚めないといつ目を覚ますかわからない。そうなると危険」


 確かに、目を覚ます周期を管理できればそれに越したことはない。

 儀式の準備のない時に目覚めて封印が解かれれば、偉いことになる。

 そう言う意味のお祭りなのか……


『ゴロッ、ゴロゴロッ』


 岩が動いて少しズレた。

 ズレた場所から瘴気が湧き出る。


 すると、龍子婆さんが


『トウホウカミエミタメ、ハライタマイ、キヨメタモウ』


 龍子婆さんの神霊術だ。

 静葉とは違うが、言葉を述べた瞬間、清らかで細かい水滴が霧散する。

 その水滴は溢れた瘴気を浄化していた。


 だが……


『ゴロゴロッ……ブチッ!』


 岩が揺れたと同時に張り巡らせてあったしめ縄が切れた。


「ひっ!」


 神楽を踊っている琴葉が思わず短い悲鳴を上げた。

 次の瞬間。


『ドッカーーン』


 大きな音が響き渡る。

 岩が半分に裂けていた。


 龍子婆さんは、震えて立ちすくんでる琴葉を抱えた。


 そして、俺達の方を振り返ると、


「『霞の者』約束じゃ!」


 溢れ出た瘴気から邪鬼が湧き出る。

 裂けた岩からは黒いモヤが立ち昇っていた。


 マジか、いにしえの龍と戦えってか?


 干し柿の代償はとんでもないものだった。





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