表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/71

第65話 静葉は家出娘?






「旦那様、お、お腹空いた」


 久々に会った壬静葉は、鉄格子の中に閉じ込められながらそう言った。


「団子あるけど食べる?」


 勢い良く首を上下させる静葉。

 団子を一本取り出して、檻の中に突き出してあげると手を使わずいきなり口に含んでむしゃむしゃとかじりついた。


 あっという間に、俺が握っていた団子は串だけになった。


「もう一本食べる?」


「うん、うん」


 先程と同じように団子を食べる静葉。

 何だろう?この感じ。

 そうだ。ペットに餌をあげてる感じににてる。


 そうこうしてるうちに10本あった団子は、串だけが残った。

 満足したのか、静葉はお腹を抱えて笑みを浮かべている。


 はて!?静葉は何でこんなところでお腹を空かせているのだろう?

 静葉の周りには、ペットボトルの水が数本、パンが包まれていた包装紙が散乱していた。


「ところで静葉、何か悪い事したのか?」


 そう聞くと『う~~ん』と唸って『してない』と答えた。


「何でこんなところにいるの?あっ、そういう趣味なの?」


 俺が癒しを求めて、一人になりたかったように静葉も自分なりのストレス発散方があるに違いない。

 静葉が監獄軟禁プレーが好きでも俺はそれを咎めたりはしない自信がある。

まあ、俺だったらこの状況は余計ストレス溜まりそうだけど。


「違う」

「そうなんだ」

「そう」


 流さんという言語翻訳アプリがないと静葉との会話は理解しづらい。

 俺は悩んでいる。

 状況は静葉の望んだものではないようだ。

 とすると、面倒な事に巻き込まれてしまうのではないかという俺の危機感知が警鐘を鳴らしている。


「いつまでここにいるの?」

「知らない」


 知らないそうだ。


「ここから出る?」

「出る」


 出たいそうだ。


 なら、お望みどおりここから出てもらおう。

 後はどうにか自分の力で乗り越えてほしい。

 これは、試練なのだから。

 俺には、休息が待っている


 俺は、愛刀夜烏を筒状のケースから取り出す。


「静葉、危ないから下がってろ」

「うん」


 デカくて時代物の南京錠を目掛けて刀を抜いた。


『ガシャン』


 この洞窟内に金属音が響き渡る。

 鉄格子の扉が開かれ、壬 静葉は、中腰でノコノコと俺のところまで出てきた。


 思いっきり伸びをする静葉に俺は、


「さて、どうするかな」

「旦那様、おんぶ」


 うむ、理解が及ばない。

 思考を巡らしているとちょこんと静葉がおんぶしてきた。


 まあ、仕方ない。

 とにかく外に出るか……


 狭い階段を上り、祠を出て外に出る。

 澄み切った空に団子のような雲が浮かんでいた。





「さて、どうするか?」


 背中におんぶしている静葉は、辺りをキョロキョロして、この場所がどこなのか確認しているようだ。


「ここどこかわかるか?」

「多分」


 およその場所の検討はついているようだ。

 静葉の様子から自分でここに来たのではないとわかる。

 つまり、誰かに連れられてあの場所に監禁されたようだ。

 水や食料があったことから、殺すつもりは無かったようだ。

 だが、誰がどうしてそんなことをしたのかは不明だが。


 おんぶされてる静葉は、夢中でくんかくんかと自分の匂いを嗅いでる。

 たまに俺の後頭部の匂いを嗅いてるけど無視しよう。


 そして、静葉は思いたったように


「旦那様、あっち!」


 俺が休んでた岩とは反対方向を指差した。


「ん、向こうに行くのか?」

「そう、大至急」


 地元の静葉が言うんだ。

 家の方角なのだろう。


「わかった。しっかり掴まっていろよ」

「任せて」


 俺は、静葉を背負って走り出す。

 どうやら、俺の癒しの時間はこれで終了したようだ。





「「「「家出ーー!!」」」」


 壬 龍子は、唐突にそう言った。


「龍子様、静葉お嬢様はそんな事をしません。何度も言ってるではありませんか」

「流よ。書き置きがあった以上、覚悟を持って家を出たのじゃ。それなら仕方ないと思うしかない」


 流さんは、龍子の意見に食い下がっている。


「何がどうなって、そういう状況になったのですか?」


 リズは、状況が理解できないようだ。


「それは、私がお話しします。現在行われている秋の大祭は、3年ごとに御神体のある神前で神楽を踊る事になっております。ところが、静葉様の妹にあらせます琴葉様が今年は私が踊りたいと申し出たのです。琴葉様は神霊術が使えなせん。神前の舞には相応しくないと反対する者もおりました。身内の不祥事を公にするのは気が引けるのですが、そのような諍いの最中、静葉様が琴葉様を指名する書き置きを残して家出されたのです。私は静葉様がそのような蛮行に及ぶはずがないと何度も申し上げてるのですが、お取り上げくださらない状況なのです」


 流さんの話を聞いて、リズは答えた。


「まず、静葉さんを探し出してからのお話だと私は思います。行き先はわかりませんの?」


「心当たりのある場所は探したのですが、見つからなくて……」


「奉納の舞は今夜じゃ。今から探し当てても間に合うまい」


「ですが、神霊術が使えなければ、アレを鎮めることはできません」


「わしがサポートする。それしか手はない」


 話の内容からリズ達は、この大祭の中で行われる神前神楽は何かを鎮める為に行われると判断する。


「壬家のお祭りや儀式を部外者たる私達がどうにかできるとも思えませんので、静葉さんを探す事に全力を注ぎますわ」


 リズは、ルミネさんと一緒に流さんに探したとされる心当たりの場所を聞いていた。

 瑠奈は、スマホを取り出して電波が届いていない事を確認する。

 そんな中で陽奈は、ボーッと庭を眺めていた。


 娘達4人は、壬家を後にして二手に分かれて静葉を探すようだ。


「私とルミネは街まで下がります。セバスと合流して街の中を捜索しますわ」


「え~~と、私と瑠奈は山には慣れているんで神社周辺から山の中を探してみますね」


「わかりました。山は危険ですから気をつけてくださいませ」


「ありがとう。後で合流って事でよろしくお願いします」


 娘達の静葉捜索が始まった。

 そんな中で、瑠奈が元気がない。


「瑠奈、どうしたの?」

「電波が届かないの……」

「そうか~~瑠奈の本領が発揮できないんだ。だから悔しがってるの?」

「違う。兄様との約束が果たせないからよ」


 落ち込んでる瑠奈を見て陽奈は、


「もう直ぐお兄も来るだろうし、この状況は理解してると思う。お兄はそんな小さな事で瑠奈を嫌いになったりしないよ」

「そうでしょうか……」

「そうだよ。あっ、いたいた」


 陽奈は、境内にいたカラス達に声をかける。


『ここの娘さん知ってる?水色髪の?』


 カラスは、首を縦に振っている。


『悪いけど探してほしいんだ。お願いできる?』


 カラスは一声『カー』っと鳴いて空に飛び立った。


「瑠奈、カラスさんも探してくれるって?たまには、一緒に山に入ろうよ。里の時みたいに気分が落ちつくよ」

「そうよね。わかったわ、陽奈」


 陽奈と瑠奈はそのまま山に入った。

 里を思い出した二人は、山の中を走り出した。


 山に住んでた獣達が陽奈と瑠奈の周りに集まってくる。

 その獣達に陽奈は、静葉の捜索を頼んだ。

 喜んで四方に散らばる獣達。

 山に入った二人は、嬉しそうに笑みを浮かべていた。

 落ち込んでた瑠奈も心配ないようだ。





「旦那様、あれ」


 静葉が指差したのは、いつの間にか俺達の周りを飛んでいたカラスだ。


「カラスがどうかしたか?」


「あのカラス。神様の御使い」


「どうみても普通のカラスだが?」


「足が三本ある」


 飛んでるカラスを見ると身体にさっき静葉が食べた団子の串が引っかかっていた。

 きっと、さっきの祠の近くに捨てた串を漁ったのだろう。

 食べかすが串に少し残ってたから。

 食い意地の張ったマヌケなカラスだ。

 まあ三本足に見えなくもない。

 静葉がそう思うのなら真実を言うのは野暮だろう。


 俺達がカラスを見てるとどこかに飛んで行ってしまった。


「凄い、初めて見た。八咫のカラス」

「…………」


「それでどこまで行くんだ?」

「もう着く。それに匂いもしてきた」


 確かに硫黄の匂いがしていた。


「そうか!温泉があるのか?」

「うん、地元民しか知らない。ここまで来る人は滅多にいない」


 温泉か~~癒しの最高スポットだよ。

 うんうん、温泉入ってのんびりする俺。

 最高かよ!


「静葉、スピード上げるぞ」

「うん」


 俺はありったけの速度で温泉を目指した。

 静葉をおんぶして……





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ