第62話 リズ先輩と一緒に
「それは……」
リズ先輩の面持ちが変わった。
俺は思わず警戒する。
マジで厄介な用事なのか?
理事長の依頼で『眠り病』の調査もある。
継続的に邪鬼は討伐している。
『紅の者』の存在も心配だ。
これ以上の厄介事は、今の俺には耐えられないかもしれない。
癒しを求めて試行錯誤していたせいか、すっかり俺の頭は休息モードになっている。
修行不足と笑われてもいい。
今、俺に必要なのは『癒し』なのだから。
「お嬢様、そろそろお乗り換えの準備を」
「そうでしたわね。霞 景樹。理由は、そちらで話しますわ」
用事の現地に到着したのか?
でも、さっきルミネさんが乗り換えがどうのとかいてたけど……
「霞様、念の為これを付けてください」
ルミネさんから渡されたのは、目隠しだ。
「付けるんですか?」
「はい、お願いします」
別に目隠しぐらいは構わないけど、何で付けるの?
まあ、何かあっても気配でわかるし、問題ないか……
車が止められ、ドアを開く。
「えっ!?」
「さあ、行きますわよ」
「霞様、こちらです」
「はい」
リズ先輩とルミネさんに案内されるまま、階段を上り席に着いた。
すると、ガタガタと振動が響く。
『ゴーー!!』
それは、爆音を上げてもうスピードで進んだ。
一瞬の浮遊感。
機体は大空に向かって飛び立ったのだ。
「えっ、えっーー!!」
◇
「リズ先輩、どこに行くんですか?」
「霞 景樹、シートベルトを忘れていますわ。それと目隠しは外して構いませんわ」
「そうでした」
「安全運航ができる高さまで気を抜かない方が身の為ですわ。機長はセバスですから」
マジで……
飛行機の運転できるんだ。マジ、パないです。セバスさん。尊敬……
この飛行機は、きっと戊家のプライベートジェットなのだろう。
機内には、俺達しかいないし、内装も普通の旅客機と比べて座席数が少ない。
おまけに豪華なソファーまであり、飛行機の中という事を忘れてしまいそうだ。
「安全航行可能な高度に達しました。申し遅れましたが、本日の機長はセバス。お嬢様、霞様の快適な空の旅をお過ごし頂けますようヘルプさせて頂くのは客室乗務員のルミネが担当致します。何かありましたらご遠慮無くお声がけ下さいませ」
ルミネさんは、いつの間にメイド服からCA服に着替えている。
そして、ワゴンを押して俺達のところに来た。
「おしぼりで御座います。お飲み物は何に致しますか?」
「じゃあ、紅茶で」
「私も同じ物を頂きますわ」
ルミネさんは、紅茶を差し出すと、ワゴンを押して戻っていった。
「ねぇ、リズ先輩。この飛行機どこに向かってるんですか?」
「大サカですわ」
「あの~~何で大サカに向かってるのでしょうか?」
「それは、ルミネがそう言ったからですわ」
「つまり、ルミネさんが大サカに行くと言ったんですね」
「そ、そうですわ。紅茶が冷めてしまいますわよ。いただいた方が宜くて?」
「そうですね、いただきます」
俺の気のせいかもしれないけど、リズ先輩は、大サカに行く用事を言いたくないように思える。
ここまで来たんだ。
無理に聞く必要もないだろう。
着けば否応無しにわかる事だ。
それよりも、目隠しは何故?
「リズ先輩、何で俺に目隠しをさせたんですか?」
「それは、逃げられないように……紳士の嗜みですわ」
思わず本音が出ちゃったようだ。
ちゃんと話してくれたら逃げないのにね。
快適な大空の旅?は、僅か1時間20分程で終わりとなった。
◇
「ここが目的地ですわ」
両手を腰に当て、胸を突き出して誇らしげにしているリズ先輩の背後には、『うまいでっせー、直手打ちラーメン メンココ亭』と書かれた看板がある。
「はあ!?」
「何ですの?貴方がラーメンを食べる時は付き合いますよ、と言ったのですから付き合ってもらいますわ」
ラーメン食べたいがゆえに、目隠しまでして大サカまで来たの?
「そうは言ったかも知れませんが、大サカまで来なくても~~」
「美味しいものに国境はありませんわ」
「確か、ルミネさんが来たいと言ってましたよね。飛行機の中で」
「はい。お嬢様が以前霞様と食べたラーメンが美味しかったと自慢するものですから、『食べロック』と言うサイトで探しました。大サカ1らしいです」
「わかりました。そこまでの熱意を向けられたら、俺は何も言いません。でも、大サカ1なら行列が出来てるんじゃないですか?」
すると、セバスさんが、
「この時間は貸し切りとさせて頂きました。少し肌寒くなってまいりましたので中にはいりましょう」
はあ、お金持ちの考えはよくわからん。
嬉しそうに店にはいる戊家の面々。
俺はその後を下僕のように付いて行った。
結果……
ラーメンの味は、最高だった。
鶏ガラの醤油味で、シンプルな感じのトッピング。
透明感のあるスープは、あっさりなのだが、旨味が凝縮されている。
自慢の麺も程よい硬さ、風味、太さで文句をつけるところなど何も無い。
食べ終わり、店を出て空港に向かうリムジンの中、あっ、このリムジンは、戊家が大サカで調達したものなんだけど、内装が少し派手な大サカ仕様にしているらしい。
リズ先輩とルミネさんは、二杯おかわりして満足してる。
因みに、俺も二杯食べた。
ここからなら静葉の神社も割と近い。
駅で降ろしてもらおう。
「リズ先輩、俺用事があるので大サカ駅で降ろしてもらってもいいですか?」
「そう言えば用事があるとか無いとか言ってましたわね」
「はい、実は壬静葉からこんなメッセージをもらいまして、気になって様子を見に行こうと思ってたんです」
静葉に送ったメッセージの既読はついていない。
俺はスマホをリズ先輩に見せた。
「確かに気になりますわね。それが用事でしたのね」
「ええ」
ひとり自然を満喫して癒されたいとは、言えなかった。
「わかりました。壬家の神社は確か和カヤマ県でしたわね。今日は遅いので大サカに泊まり明日行きましょう」
「はい!?リズ先輩も行くんですか?」
「勿論です。静葉さんは友人の一人です。共に敵と戦った中でもあります。その友人の窮地に私が行かないわけがないではないですか?」
マズい、俺の癒しが遠のく……
「リズ先輩は、俺と違ってお忙しい身の上。そもそも私の用事ですのでリズ先輩は来る必要はありませんよ。壬もそんなたいした事ではないでしょうし」
「セバス、予定変更です。今日は大サカに泊まり明日、壬家宅まで行きます」
「かしこまりました」
えっーー!かしこまらなくていいよ。セバスさん。
どうしよう。俺の癒しが~~
「お嬢様、ホテルを押さえました。壬家神社では秋の大祭が行われているようです」
「ちょうど良かったですわ。お祭り見物もできますわね」
「楽しみです~~」
ルミネさんまで……
セバスさん、仕事出来過ぎですよ~~。
どうやら俺の意思は行き場所をなくしてしまったようだ。
◇
大サカのホテルのバーのカウンターで老年の紳士と年若い女性がグラスを傾けていた。
「どうだった?霞 景樹君は?」
「掴み所のない男性ね。実力があるのはわかるけど見た目ではまず判断できないわ。表面上では、雑魚の男性を演じているけど、本当の彼はクールで血も涙もない鬼のようだと感じたわ」
「そうか、ルミナはそう感じたのか……」
「ええ、とっても怖かったわよ」
ブランデーを片手にしている老年の紳士は、セバスチャン。
戊家の執事であり、年若い女性はその娘ルミネだった。
「パパは、霞 景樹と戦ったのでしょう?パパが負けたって聞いた時は、信じられなかったけど」
「私も歳だからね。それに彼の強さは本物だよ。手加減もされていたしね。既に人という存在を超越している」
「それ程なんだ……」
ルミネは、オレンジをベースとしたカクテルを飲んでいた。
「それで、壬家の事は何かわかったかい?」
「ええ、壬家には、静葉さんより2つ年下の腹違いの娘がいるわ。その母親が現当主に色々と知恵を入れているみたいね」
「つまり、その娘を次期当主にと考えて行動しているのか」
「現当主はそこまで馬鹿じゃないわ。実力こそがこの世界の掟だもの。でも、それすらわからぬ継母が騒いでると言うことかしら」
「それに賛同する者もいると?」
「少なからずね」
「色ですか……」
「私には理解できないけどね」
「頼みますよ。私の娘がそんな事になってしまったら亡くなった妻になんと詫びれば良いか検討もつかない」
「ママなら地獄のそこまで追ってきそうね」
「そうだな……」
「ところで、お嬢様の様子はどうだ?」
「様子って?」
「決まっているだろう。霞君との関係だ」
「う~~ん、確かにリズ様は、男性に対しては厳しい方だけど、霞様に対しては柔らかい対応をしてると思うわよ」
「それは、恋愛感情なのかね?」
「そこまでは、いってないと思う。多分、弟のような感覚なんじゃないかな」
「弟ですか……」
「わかんないわよ。私が見てそう思っただけだから」
「まあ、ルミネもまだ子供と言うことかな?」
「パパ、私は今年で20歳になったのよ。いつまでも子供扱いしないでよね」
「わははは、そうだったね」
2人は夜遅くまで、久しぶりの親子の会話を楽しんでいた。




