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第43話 パーティー(2)




 パーティー会場で、双子妹に声をかけられて、注目を浴びてしまった俺は逃げる事も出来ずになすがままの状態になっていた。


「お兄、見て見て。こんな綺麗なドレス着るの初めてだよ~~」


「うんうん、似合ってるよ」


「兄様、私はどうでしょうか? 」


「うんうん、似合ってるよ」


 昔のロボットのようにおうむ返しをしているわけではない。

 妹達のドレス姿は、とても可愛かった。

 それしか語彙が見つからなかったのだ。


 すると、壬をはじめとするクラス女子も集まって来た。


「旦那様、どう? 」


「静葉、似合ってるよ」


「ねぇ、霞君、私は? 」「どうかな? 」「霞君に見られるのは、恥ずかしいけど、どう? 」


 集まる女子は、ドレスの感想を次から次へと聞いてくる。


 俺は、その度、


「うんうん、似合ってるよ」


 と、連呼していた。


 何で女子は感想を聞きたがるのだろうか?

 みんな似合っているのに……


 そんな中で、庚 絵里香だけは、少し距離を置いていた。

 赤いタイトなドレスを身に纏っている。


「庚さんらしい大人っぽいドレスだなぁ……うん、綺麗だ」


 声に出ていたようだ。

 庚は、顔を赤くしてこちらを睨んでいる。


 すると、突然、俺達に声をかけてくる人が現れた。


「おお、景樹君、モテモテだねぇ」

「うん、本当、凄いね」


 柚木兄妹だった。

 兄の優作さんに会うのは、赤サカ以来だ。


「麗華さん、優作さん」


 目立つ二人に声をかけられて、壁の彫像と化していた俺は、一気にパーティーの中心となっていた。


 会場からは「柚木兄妹と知り合いなのか? 」とか「あいつ何者だ? 」とか、クラスにいる時と変わらないヒソヒソ話が聞こえてくる。


 マジ、勘弁して下さい。

 早く帰りたいです……

 何度も言うが、まだパーティーは始まってもいない。


 クラスの女子は、優作さんの登場で一気にヒートアップしてる。


 流石、高学歴イケメンは一味違う。

 女子の接し方にも慣れている。


「ねぇ、景樹君は毒にやられたんだって? もう、具合は大丈夫なの? 」


 近寄って、囁くように声をかけてきた麗華さんは、胸元が開け過ぎだと思う程のドレスを着ていた。


「ええ、もう大丈夫です。壬、この子なんですが浄化をしてくれて後遺症はないです」


 俺は、近くにいた壬に目を向けて応えた。


「そうなんだ。壬家のお嬢様ね。お噂は聞いてるわ」


「あっ、旦那様を連れ去った家庭教師」


 そういう設定だった。


「ねぇ、あれってアイドルの〇〇じゃない? 」

「本当だ。ほら、あそこにいるのって俳優の〇〇だよ」

「あれって、有名なIT企業の社長さんじゃない? 」


 女子達は列席者の人達を見て盛り上がっている。

 そんな中で、一際目立つ人が現れた。

 全身からイケメンオーラを発している。

 その人物が、こちらに向かって歩いてくる。


「誰、あの凄いイケメン」


「あ~~見るだけで惚れちゃうわ」


 そう言ったクラスメイトの女子は彼氏持ちのぽっちゃり系女子 相崎 佳奈恵だった。


「よぉ~~優作、麗華。元気か? 」


 そのイケメンは、柚木兄妹の知り合いのようだ。


「帰ってきたんだ。久しぶりだね。誠治さん」


 優作さんは懐かしそうに挨拶する。

 一方、麗華さんは現れたイケメンを見て眉間に皺を寄せた。


「麗華は相変わらずだな」


「何で帰って来たの? ニィーヨークに一生いれば良かったのに」


「わははは、そうしたいのは山々だけど、こう見えても辛家当主の長男だからな。親父に言われれば帰って来ない訳にもいかないのさ」


 このイケメンは、辛家当主の息子らしい。

 そう言えば、赤サカの会食の時、辛家当主がそんな話をしてたっけ……


「おお、絵里香もいるじゃないか? 大きくなったな」


「ご無沙汰してます。誠治さん」


 庚 絵里香はちょこんと頭を下げた。

 内容から察するに知り合いのようだ。


 更なるイケメンの登場で「ここがパーティーの中心なの? 」と錯覚するような注目をされている。


 帰りたい……

 三度言うが、まだ、パーティーは始まっていない。


 続々と各界のお偉いさんが集まり、時間が来たのか、パーティー会場の照明が一度消された。


 そして、スポットライトが当たる。


 何と、そのスポットライトは、ゴンドラに乗って降りてくる戊当主とあの金髪お嬢様に当たっていた。


 え~~何でゴンドラなの?

 これって、結婚式か何か?


 注目を集める演出にしては、度が過ぎてると思う。


 会場の照明は再びついて、大きな拍手に包まれた。


 司会者は、民放の某有名なアナウンサーだった。


『本日はお忙しい中、戊家ご息女戊シャルロット・リズ様の帰国祝賀会にお越し頂きまして誠に有難う御座います。本日は肩苦しいことは抜きにしましておくつろぎ頂き、楽しいひと時を過ごして頂けばと、主催者である戊家当主 戊 圭吾様からお聞きしております。皆様、グラスはお手元に届きましたでしょうか? では、戊シャルロット・リズ様の帰国をお祝い致しまして『乾杯』……ありがとうございます。高いところからではございますが、本日の司会を担当させて頂きます〇〇です。皆様に楽しんで頂けますよう、精一杯務めさせて頂きます』


 乾杯をしたが、未成年の俺達は勿論ジュースだ。

 そして、今度はあの金髪お嬢様が何か話すようだ。


『御来賓の皆様、本日は私の帰国祝賀会にご臨席を賜わりまして誠にありがとうございます。お料理もお飲み物もたくさん用意しております。お腹の方も楽しんで頂ければ幸いですわ。本日お越しくださった皆様のご健康とご多幸を祈念し、私からのお礼のご挨拶と致します』


 金髪お嬢様が軽く頭を下げると会場は拍手喝采となった。


 これが、現在の戊家の姿か……


 かつては、穢れによって汚染された土地を浄化して領主や民達から豊穣の一族と言われた戊家は、現在では日本経済のみならず世界にも影響を与える富豪の一族となった。

 この戊家がたどってきた歴史を否定するつもりはないし、現在においては、正しかったとも言える。


 だが、俺は正直『こんな面倒な世界はごめんだ』と思っていた。


 パーティー会場は、会食の時間となった。


 会場を見渡すと挨拶を交わしてる者や名刺交換をしてる者、また、あの金髪お嬢様にプレゼントを渡している者達などそれぞれ色々な事情でここに集まっているようだ。


 お気楽なのは、妹達とクラスメイトの女子達だ。

 椅子やテーブルも用意されているが、基本的には立食形式である。

 取り皿を持って並んでいる料理を遠慮なしに皿に乗せている。


 女子は逞しいな……


 俺は、みんなが離れた隙に目立たない場所へと移動する。

 そして、会場の様子を眺めていた。


 列席者の選定を行なっているのか、各々が紳士・淑女的な行動をしている。

 ここに来れる人は、パーティーに慣れている人達ばかりのようだ。


 すると、声をかけられた。

 それも背後からだ。

 俺の気配察知を抜けてくる人物……誰だ?


「霞君、料理持ってきたよ」


 水沢 清香だった。


 この子は、何者なんだろう?

 忍びとして、また『霞の者』として修行に明け暮れ、山に篭って辛い鍛錬をしてきた。

 獣や小動物、虫さえもその気配を感じ取れる俺が、こうもやすやすと背中を取られるとは……


「ありがとう。よく、俺がここにいるってわかったね? 」


「うん、直ぐに見つかったよ。料理も食べずに一人でいたから霞君の分も持ってきたんだぁ」


 もし、この水沢が敵のクノイチだったなら、俺は死んでいただろう。


 まぁ、折角だし料理を食べるか……


 俺は、気にしながらも水沢が持ってきてくれた料理を食べ始めた。





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