第42話 パーティー(1)
金髪お嬢様に誘われて、パーティーに出席する事になってしまった俺は、一人でベンチに座って昼休みを憂鬱に過ごしていると、妹達に見つかり一気にベンチは満員電車並みの混雑になった。
「なぁ、狭いんだけど」
「じゃあ、お兄が退けば? 」
陽奈、俺が先に座ってたのですが……
「兄様、私の膝の上にどうぞ」
瑠奈、遠慮させて頂きます……
結局、俺がベンチを立って妹達の前に立った。
そして、今日はパーティーに出席すると伝えなければならない。
陽奈は何というだろうか……ずるいとか?
瑠奈は何というだろうか……怖すぎて想像できない。
「妹達よ。今日は、一緒に帰れないかもしれない。その~~何というか、どうしても断れない理由があってだな~~その、戊家のお嬢様のパーティーに出る事になったんだ」
理由を正直に言わないと妹達は何をしでかすかわからない……
「知ってるよ。私達も出るし、ねぇ、メグちゃん。瑠奈」
「えっ!? 聞いてませんが? 」
「あれっ、言ってなかったっけか? 」
陽奈や瑠奈そしてメグちゃんまで誘われてたのか……
言ってくれれば、緊張しなくても良かったのに……
「私なんかが、パーティーとかに出るのって、ちょっと場違いというか……」
「そんな事ないよ。メグちゃん可愛いし、ねっ。お兄? 」
「そうだぞ。俺より遥かにパーティーが似合いそうだ」
瑠奈はしきりに顎をさすりながら考え事をしている。
すると、突然、瑠奈が立ち上がった。
「決めました。兄様、今日のパーティーであの金髪悪徳令嬢に婚約破棄を申し出るのです! 」
「はい!? 婚約してませんけど? 」
「パーティーという表舞台で『お前がそんな女だとは思わなかった。俺は、瑠奈を選ぶ』と兄様が私を抱きかかえて言って下さい。あの金髪悪徳令嬢に公衆の場で恥をかかせるのです。そうすれば、あの金髪悪徳令嬢は、前世の記憶を生かして領地に戻り治世に没頭するでしょうから……」
何を言ってるのでしょうか?
あの金髪お嬢様、前世の記憶を持ってるの?
領地ってどこ?
「瑠奈、悪いけど全く、これっぽっちも意味が理解できないのだが……」
「とにかく、私の言う通りにして頂ければ、WINーWINの関係が築けるんです」
うん、聞かなかった事にしよう……
「じゃあ、みんなも行くんだね。でも、いつそんな話決まったの? 」
「昨日のお弁当の時です。兄様が休んでいましたので、みんなで一緒に食べました」
うん、みんなと仲良くなって良かったよ。
「そうなんだ」
「はい、陽奈をそそのかして爆裂魔法で一緒にいた女子を滅ぼそうかと思いましたが、動けない陽奈を抱えるのが面倒なのでやめておきました」
それ使えるのって、陽奈じゃなくってメグちゃんじゃないかな?
「瑠奈、私気絶しないよ。それに1日1回しか撃てない訳じゃないし何度でも撃てるし~~」
俺もそこにいるメグちゃんも唖然としている。
「メグちゃん、ゴメンね。こんな妹達で……」
「そ、そんな事はありません。陽奈ちゃんや瑠奈ちゃんのおかげで毎日が楽しいですよ」
メグちゃん、良い子だわ……
「う~~ん、メグって可愛んだから~~」
「キャッ」
だから、陽奈、そこ揉むのは止めなさい!
それから、放課後校門の前で待ち合わせをする事になりましたとさ。めでたし、めでたし。
お終い……
「終わってないからねっ! 」
◇
放課後、妹達と約束したので校門で待っていると次から次へと見知った顔が現れた。
「霞君、待ったーー! 」
いいえ、さっきまで、一緒に教室にいましたよね……
そこに来たのは、庚と結城そして壬、それと水沢グループの4人。
勿論、妹達もやって来ました。
「みんなも誘われてたの? 」
すると、結城が
「そうだよ。瑠奈ちゃんからここで待ち合わせするってメッセージもらったんだぁ」
そうなの?
もう、俺行かなくてもいいんじゃないかな?
女子だけで楽しいパーティー。
うん、凄く素敵だと思うよ。
俺、必要ないと思うけど……
すると、目の前に見慣れてしまったリムジンが横付けされた。
中から出て来たのは、セバスさんだ。
「皆様、どうぞ中にお入り下さい」
招き入れる仕草も堂に入ってるなぁ……
流石、セバスさん。
車の中には、既に金髪お嬢様が座っていた。
「それでは、行きましょう。セバス」
「はい」
車は静かにパーティー会場に向かって行く。
しかし、これだけ乗っても余裕なんてリムジンって凄いんだな……
俺が車の中で騒いでる女子を視界に入れないで車だけを見てそう思った。
誰かと目が合おうものなら、話題を振られるのがオチだ。
ここは、大人しく、無難に、空気となって……
「着きましたわ」
「えっ!早っ! 」
転移したの?
それともゲート?
車に乗って10程度の距離で会場に着いたようだ。
セバスさんが先に降りて、ドアを開けてくれてた。
『すっごーーい』
豪華な建物。
見事な庭園。
広い玄関アプローチ。
迎賓館じゃないよね……
「私の家ですわ」
マジですか……
こんな迎賓館みたいな家に住んでる人、実際いるんだぁ……
「女性の方は、私について来て下さいな。霞 景樹はセバスに案内を頼むわ」
広い玄関に入ると家の使用人が並んで待ち構えていた。
『お帰りなさいませ。お嬢様』
わぁ~~本当に執事さんやメイドさんが沢山いる家あるんだぁ……
アキバじゃないよね。ここ……
一緒にいる女子達もその光景に驚いてる。
「さぁ、着替えましょう。ドレスはたくさんありましてよ」
珍獣発見ツアーのようになっている俺達は案内されるまま、ついて行くのだった。
俺がセバスさんの案内でついて行った場所は、浴室だった。
「えっ、ここって? 」
「学校で汗をかかれたでしょうから、こちらで流されてはどうでしょうか。サッパリしましたらお着替えのご案内を致します」
そう言うので、遠慮なくお風呂に入る。
「おーー! 凄く広い 」
というわけではなく、一般家庭の二倍ほどの大きさだった。
それでも、広いけどね……
お風呂から出ると、セバスさんに代わってメイドさんがスタンバッていた。
あれよ、あれよという間に、光沢のあるグレーのスーツに着替えさせられていた。
その時聞いたのだが、このお風呂は使用人用だと言われた。
大浴場は、女性達に占領されていたらしい。
◇
綺麗なメイドさん2名に連れられて、案内されたのはパーティー会場だ。
列席者も随時、集まって来ている。
「プライベートな集まりじゃなかったの? 」
俺は、勝手に個人的な集まりなのかと思っていたが、既に30名程偉そうな人々が集まっている。
「すみません。今日の出席者はどれくらいいるのですか? 」
「200名程だとお聞きしてます」
マジかよ……
お偉いさんが200人もいるの?
それも、俺が学校休んだ為に、今日にしたんだよねーー。
どれだけの料理を無駄にしてしまったのやら……
請求されたらどうしよう……
俺は、出来るだけ目立たない場所を探して、壁の花ならぬ壁の彫像としてジッと佇んでいる。
早く終わらないかな……
パーティーは、まだ始まってもいない。
続々と人が集まってくる。
ここは、もう、異世界だ。
俺には耐えられそうもない。
帰りたい……
彫像と化して一時間、会場に聞きなれた声が聞こえた。
妹達と学園の女子達だ。
すると、会場は華やかな雰囲気に包まれ紳士諸君が声をかけている。
こっちに来るなよ。
そうだ。気配を消そう。
もう、それしか無い。
「あっ! お兄だーー! 」
「兄様、こんなところにいらしたのですか? 」
紳士諸君が一斉に俺の方を見る。
この視線に耐えられる人っているの?
俺は、逃げ出す事も出来ず、ただ、立ち尽くしているだけだった。