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第34話 再びリムジンの中で



 再度リムジンの中に招かれた俺は、その中で再び戊家当主の娘、戊 シャルロット・リズと対面する形で座っていた。


「貴方にはお話があります」


 金髪お嬢様は、常に上から目線で話しかけてくる。


「何の話でしょうか? 」


「お父様から話は聞いてると思いますが? 」


 確かに聞いている。フランスから転校してくるから仲良くしてやってくれと……


「確かに聞いています。仲良くしてあげてくれと言われています」


「そうでしょう、えっ? それだけですの? 」


「はい。それだけです」


「本当に、本当、それだけですの? 」


「はい」


 金髪お嬢様は、横に座っているセバスさんの顔を『ジッ』と見つめている。


 セバスさんの眉間から頬にかけて一筋の汗が滴り落ちた。


「少し、行き違いがあったようですね。うぉっほん」


 金髪お嬢様は、わざとらしく咳き込んで見せた。


「どうして、今日は学校にいらしたのですか? 」


 主に、セバスさんに尋ねた。


「転入の手続きに行ったのですわ。明日からあの学校に通う為にですわ」


 金髪お嬢様は、自ら答え出した。


「日曜日なのに、よく手続きが出来ましたね」


「それは、お金の力を使って……うぉっほん。学校側の誠意ですわ」


 風邪気味なのかな?


「最近、日本も夜は冷えてきましたから、早く帰って休んだ方が良いですよ」


 今は、まだ9月の下旬だ。

 残暑が厳しい日もあれば、すっかり秋めいた涼しい日もある。


「とにかくそう言うことですわ」


 何の事だろう?

 意味がわからん……


「それと、私は貴方を絶対認めませんわ。それだけは、心得て下さい」


 いきなり、認めないって言われても……まぁ、助かるが……


「セバス、少しお腹が空きましたわ。ラーメンを食べてみたいですわ」


「はい、畏まりました。お嬢様」


 セバスさんは、運転手に告げて行き先を変えた。


「じゃあ、俺は適当なところで降ろしてくれれば……」


「何を言ってますの。貴方、私を一人でラーメン屋という未知の場所に行かせるつもりなのですか? 」


「えっと、セバスさんがいますよね~~」


「セバスは空気ですわ。いないのと同じです」


 マジですか……


 俺が求めて止まなかった存在。

 それをセバスさんは、既にその域に達しているというのか……

 流石、自称セバスチャン。侮れない……


 我儘金髪お嬢様に連れられて、車は、ラーメン店の前で止まった。


 このラーメン店は、事前に食券を購入して注文するようだ。

 お嬢様もセバスさんもカードしか持ってなかったようで、俺がみんなの食券を買う。


「ここがラーメン屋ですか~~成る程……」


 食べにきたことが無かったようだ。

 俺も正直、初めてだ。


 カウンター席に並んで座り、食券を置く。

 アンケートのような紙が置いてあり、面の硬さなど細かな注文がここで出来るようだ。

 取り敢えずみんなの分まで適当に書いておく。


 そして、注文のラーメンがきた。

 背脂がギッタリした濃厚なスープのようだ。

 青ネギの香りが鼻腔をくすぐり、早く食べろと催促する。


「美味しそうな香りですわ」


 お嬢様はご満悦のようだ。

 まず、一口スープを飲んでみた。


「美味い~~美味すぎる! 」


 脂ぎっていたので、濃厚かと思えば割とあっさりしている。

 だが、後から伝わってくるスープのしっかりとした味付けが口の中で広がった。


 俺は、夢中でラーメンを食べ始めた。

食欲をそそるのは、スープだけではない。

 太すぎず、細すぎないこの麺もスープが絡んで深みを感じる味わいとなる。


 気づくと一気に食べ終わってしまった。

 横にいるお嬢様も同じようだ。

 セバスさんは、口にハンカチを当てて優雅に拭いていた。


 俺達は、満足感いっぱいでその店を出たのだった。





「また、私と一緒にラーメン店に行く事を許可します」


 一方的に許可が降りたようだ。

 まぁ、美味しかったから構わないが……


「でも、誤解しないで下さい。私は貴方を認めた訳ではありませんのよ」


 何が言いたいのかな?


「わかりました」


 まぁ、意味はさて置き、理解する心は大切だ。


「ですが、ひとつだけ条件があります。このセバスと戦って勝ったら貴方を虫けらほどには認めてあげてもよろしくてよ」


 我儘お嬢様の言う事はどうでも良いが、この執事、自称セバスチャンとの戦闘は、少しは興味がある。


 底知れない強さを秘めてるセバスさんは、一目見た時からいずれどんな形でも戦う事になるだろうと思っていた。

 それが、早まっただけだ。

 でも、今だとさっきのラーメンが胃の中で消化しろと言っている。


「食べたばかりですし、きっとセバスさんとの戦闘は激しいものになりそうです。日を改めてもらっても良いですか? 」


「それは、構いませんわ。良いですね。セバス」


「御意に……」


 日時は、明日の放課後。

 場所は戊家管理下にあるサッカー場となった。


「では、明日の放課後、お迎えにあがります」


 そう言って騒がしい戊家一家は去って行く。


 俺は、降ろしてもらった自宅付近からのんびりと歩いてマンションに戻るのだった。





「ただいまーー」


「あっ、お兄が帰ってきた」


 迎えに現れたのは陽奈だった。

 瑠奈と麗華さんは買ったばかりのパソコンのセッティングをしているようだ。


「瑠奈が言ってたんだけど、これを付けてきてってさぁ」


 陽奈が持ってきた段ボールの中には、小型の監視カメラがたくさん詰まっていた。


「構わないが、どこに付けるんだ? 」


「それは、まだ、聞いてないんだぁ」


 残念な妹である。


「瑠奈に設置場所を確定してもらってから、それを付けるとしよう。それと、明日は用事ができたので一緒に帰れないから」


「え~~そうなの? まぁ、私も文化祭の用意をそろそろしなくちゃって思ってたからいいけど。じゃあ、お昼は一緒に食べようよ」


「まぁ、それぐらいなら構わないが」


「やったーー! 」


 相変わらず、元気だけはいいな……


「クンクン、お兄、なんか美味しそうな匂いがする……」


 陽奈の犬化が始まった。


「ラーメンを食べてきたんだ。美味かったぞ」


「え~~いいなぁ。私もラーメン食べたい」


 そうなるよね……


「じゃあ、瑠奈達が終わったら食べに行くか」


「うん、行く行く」


 また、ラーメンを食べる羽目になりそうだが、美味しいものは何回食べても大丈夫だ。

 だが、瑠奈たちが作業を終わらしたのは、夜中だった。


 ラーメンは、インスタントになりました。





 翌日、学校では、大騒ぎになっていた。

 飯塚 早苗の件ではなく、クラスのイケメングループとなんちゃってギャルの今まで隠れて悪さをしていた動画や写真がインターネットに流出し、その悪行を誰もが知る事になったのである。


 引ったくりからレイプまがいな事。

 万引きや小動物の虐待。

 イジメや援助交際。


 本人達は、話のネタや悪ふざけのつもりだったのかも知れないが、世間を騒がせるには申し分ない内容だった。


 職員室では、電話対応に追われ、グループのみんなは、自宅謹慎となった。


 今日の授業は自習となり、クラスではその話題で持ちきりだ。


 飯塚 早苗は当たり前だが休んでいる。

 飯塚家は、両親が離婚しており、母方のお爺ちゃんとお婆ちゃんの家から通っていたようだ。


 庚と結城は学校に来ている。

 朝、俺のところに来て、飯塚の容態と先に帰ってしまった事を詰問されたが、大事にはならなかった。


 また、壬は、相変わらずマイペースである。

 使い始めたスマホが面白いらしく、ニュースや俺と同じように小説を読んでいるようだ。


 俺は、ただ、ひたすらに寝る。

 これに尽きる。


 そして放課後がやって来た。


 俺は、学園の駐車場に止めてある見覚えのあるリムジンに近づいて行く。


 戊家執事、自称セバスチャンは、車の側から俺に向けて一礼をした。





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