第32話 買い物
今日は、日曜日。
昨日はあれから麗華さんが帰って来るまで待って、それから夕飯を食べに行った。
それと茜叔母さんから連絡があり、水曜日には帰れると言っていた。
そして、今日は日曜日。
瑠奈が欲しいと言っていた機材を買う為に、今、秋葉バラに来ている。
「私、秋葉バラ苦手なんだよね~~」
麗華さんは、この雰囲気が合わないようだ。
「あそこにメイドさんがいるよ」
「メイド喫茶の宣伝でしょう」
陽奈と瑠奈は、どこでも楽しそうだ。
俺は既に荷物を両脇に抱えていた。
「瑠奈、まだ買うのか? 」
「兄様、まだ、予定の三分の一も買ってませんよ」
まだ、荷物が増えるようだ。
「お兄はアイテムボックス使わないの? 」
陽奈、前にも言ったが、そんな便利道具ありませんから……
「今日、ワンボックスカー借りてきて正解だったね。一旦、荷物を車に入れに行く? 」
「はい、お願いします」
麗華さんは気配りやさんだ。
本当、助かる……
「陽奈、瑠奈。麗華さんと一緒に荷物を車に入れてくるよ。適当に見ててくれるか? 」
『は~~い』
珍しそうにあたりを見渡す双子妹をおいていき、俺と麗華さんは、車まで荷物を運ぶ。
「お兄さんは大変ね」
「麗華さんだってお兄さんがいるじゃないですか? 」
「そう言えばいたわ。でも、うちの兄貴とこんな風に買い物したこと無かったわよ」
「そうなんですか? 」
「景樹君達兄妹が仲が良すぎるのよ」
そう言われても実感がわかないが、世間一般ではそうなのかもしれない。
車に荷物を詰め混んでもまだ十分余裕がある。
あと、何度往復しなければならないのか考えると気が滅入ってくるが……
「あれ、あそこに神社があるんですか?」
コインパーキングから見えるところに神社の鳥居が見えた。
「ええ、神ダ明神よ。東京では有名な神社よ」
「そうですか……」
結界の反応があり、少し気になるが、多分神社独自の結界だろう……
「行ってみる? 」
麗華さんにそう言われたが俺は妹達が心配なので断った。
あの双子妹を野放しにさせておくといらぬ犠牲者が増えそうだ。
その予感は当たった。
歩行者天国の大通りに人垣が出来ている。
その中心にいるのは双子妹だ。
「あら、陽奈ちゃん、瑠奈ちゃんメイド服着てる~~かわいすぎる」
麗華さんもその人垣を掻い潜り、スマホで写真を撮り出した。
「何であいつらメイド服なんか着てるんだ? 」
意味がわからん……
近くの店の看板には「メイド服レンタルします」と書かれた看板がある。
俺は、妹達に見つからないようにその場を離れる。
あの場で見つかればこの人垣全員の注目を浴びる事になる。
だが……
「あっ! お兄だ! 」
「兄様~~! 」
大きく手を振っている2人。
見つかってしまった。
俺、目立つのはダメなんだが……
俺は、その場から速攻で逃げた。
◇
「お兄、何で逃げるのさーー! 」
「兄様、私のどこがいけなかったのでしょう? 」
妹達は、おかんむりだ。
「あの場では、最善の措置だ。俺は忍びだ。目立つわけにはいかない」
逃げた訳ではない。最善の措置だと説明する。
「え~~目立ってないよ。普通じゃん」
「そうでしたか、兄様はいつでも修行をされてるのですね」
「誰もいなかったら一緒にいたかったよ。2人ともメイド服似合ってたしね」
「えへへへ、そうでしょう」
「兄様、誰もいないところで……アレしたかったのですね」
少し機嫌が良くなったが、会話がとんでもない方向に行きそうなので一旦打ち切ることにした。
「買い物は、どうしたの? 」
何も買っていないことは明らかだったので、そう質問して意識を買い物に向けさせた。
それからは、俺達は買い物に集中する。
大きな荷物や品が揃ってない物は配送してもらう事になった。
瑠奈が欲しがっていた国家規模のスーパーコンピュータや人工衛星は、新たに調達するには時間が足りないという事で、既存の設備を使えるように手配をしてもらっている最中だ。
普通ならあり得ない事だが、この国を動かす事ができる十家の協力があれば無理な話ではない。
そんな買い物途中で、俺は、近くにあった雑貨屋で見つけた『消せるんです』という何でも消せるスーパーアイテムを手に入れた。
勿論、学校の俺の机に書かれたイタズラ書きを消す為だ。
買い物が終わり、そろそろ帰るという時、俺は、この『消せるんです』を試してみたくなった。
明日、早く学校に行って消すのも悪くないが、誰かに見られるのも目立つ要因になる。
今日は、日曜日、忘れ物をしたと言って校舎に入り、誰もいない教室で黙々とこのアイテムを試す、自分。
なんかモブっぽい……
と言うわけで、妹達や麗華さんに『馬鹿じゃないの? 』と言われたが、俺は学校に向かうのだった。
◇
それで、今、俺はこのスーパーアイテムを試している。
スプレー式で机に吹きかけ、それを雑巾で拭くと、あら不思議、油性マジックが綺麗に落ちる。
「何か楽しいんですけど……」
俺は、綺麗になっていく快感を味わいながら、黙々と机磨きに集中した。
「出来たぞ」
誰もいない教室での作業は、心地いい。
「あ~~今、俺は生きてるって感じる~~」
昔から、武器の手入れとか好きだった。
血がついた刀身を拭く感覚は、俺を身震いさせる程だ。
終わってしまったぞ……
誰もいない教室で机に座って窓を呆けてみる。
部活をしている生徒の声が聞こえてくるが、それが眠気を誘う。
「いかん、ここで寝たら夜になってしまう」
俺は、眠気を覚まして校舎を出る。
もう、陽が傾いていた。
夕焼け空を見ると、里を思い出す。
あの時は、のんびり見ることは無かったが、今となっては懐かしい。
ふと、高等部の校舎や中等部の校舎、そして図書館を見上げると、視線の端に人物が映った。
それは、図書館の上、元菜園部の管理下にあって、結城 莉愛夢達とお弁当を食べたところだ。
その場所に、飯塚 早苗が今にも飛び降りそうな雰囲気でそこに立っていた。
◇
図書館の屋上にいる飯塚 早苗はどこか遠くを見つめていた。
一歩、前に出るだけでその場から落ちる場所だ。
身投げか……
まあ、誰が死のうが関係ないが、俺の目の前というのは気分が悪い。
そして、クラスでこのような事件があれば、しばらくみんなが騒ぎ出して落ち着かないだろう。
すると、ある気配を感じた。
庚 絵里香と結城 莉愛夢だ。
剣道部の部活で学校に来ていたようだ。
マズい……あいつらに見られると、面倒な事になりそうだ。
やはり、2人の声が聞こえたのか飯塚 早苗は、足を一歩前に踏み出した。
俺は、神霊術を発動する。
目が金色に光りだした。
飯塚は、真っ逆さまに地上に向けて落ちていった。
「キャッーー! 」
「えっ、何、落ちたのか! 」
庚と結城はその現場を目撃した。
もしかしたら、こうなるように時間を選んだのかもしれない。
一瞬だった。
俺の腕の中には、落ちたはずの飯塚 早苗を抱きしめていた。
◇
俺が飯塚 早苗を抱きしめていると、慌てたように庚と結城が駆けつけてきた。
「えっ!? 早苗……霞君? 」
「き、君が助けたのか! 」
2人は落ちた人物とそれを救った人物が同じクラスメイトで見知った人物であった事に驚いた様子だ。
「早苗、大丈夫なの? 」
「怪我はないか? 直ぐに救急車を……」
慌てている2人を何とか落ち着かせて、俺は、飯塚 早苗が気を失っているだけだと伝えた。
だが、気を失っているだけでは、様子が変だ。
目の周りが薄黒くなっているし、精気がない。
これは、薬が切れた症状か……
その事を2人に告げるのを躊躇ったが、見られてしまった以上隠せそうもない。
その時、背後に気配を感じる。
腕の立つ人物の気配だ。
だが、この気配を俺は知っている。
「これは、霞様。こんな所で何をなさっているのですか? 」
現れたのは、戊家の執事自称セバスチャンだった。




