第29話 待ちぼうけ
麗華さんに施術をした後、夜も遅いと言うのに瑠奈から呼び出された。
瑠奈の部屋に入って腰掛けると、瑠奈は俺に顔を近づけて話をし出した。
「まず、壬 静葉の件からおききしましょうか? 兄様」
既にバレているので、今夜あったことを正直に話す。
「そうですか、壬 静葉の神霊術はそれ程でしたか……」
顎に手を当て思考する瑠奈は、何かを思いついたように語り出す。
「壬家の思惑は、兄様に対する許し難い冒瀆ですが、これから己家と一戦交えなければならないとすれば、貴重な戦力とも言えます。私達の事情に勝手に巻き込まれてもらいましょう」
勝手な事を言う瑠奈だが、確かに有能な人材は喉から手が出るほど欲しい。
俺達だけで守るにはこの東京は広過ぎるし、人も多過ぎる。
「それと、兄様に言い寄った飯塚 早苗の件ですが……」
瑠奈の話によると、飯塚 早苗は、中等部2年の時に妊娠し子供を下ろしていると言ういきなりヘビーな話から始まった。
当時付き合っていた様子もなく、瑠奈がその相手を探ると元菜園部の顧問、中等部の生物を担当していた教師が浮上したそうである。
その教師は、飯塚 早苗が3年次に上がる時、学校を退職しており、現在は、新ジュクにある某予備校の講師をしているそうだ。
更に、その講師を調べていくと、新ジュクの一角に縄張りを持つ大陸系のマフィアと繋がりがある事が判明する。
そのマフィアは、薬を使って資金を稼ぎ勢力を伸ばしているようだ。
「飯塚 早苗は、今でもその講師と関係を持っています。それと薬にも手を出していると思われます」
「そうなんだ。よく調べたね」
「はい、私にとっては、軽い前戯でした」
「じゃあ、結城 莉愛夢との関係も分かったんだろう? 」
「はい。恐らくですが、飯塚 早苗が妊娠した時に相談した模様です。その時、剣道部の大会があり、結城 莉愛夢もなかなか踏み込めずにいたようです。今の関係はそんな状況からきているのではないでしょうか」
そうか……飯塚のあの豹変した態度、結城との関係、納得できる……
「で、兄様にこれ以上ちょっかいを出させないためにも私は介入する事にしました」
「はい!? 瑠奈……何をするつもりだ……」
「ええ、大した事はしませんからご安心下さい」
怖いんだけど……
「瑠奈、くれぐれも自重してくれよ。頼むからな。自重を忘れないでくれ……」
「大丈夫ですよ。兄様」
その笑顔が一番怖いと思ったのは、秘密にしておこう……
◇
次の日(金曜日)
何時もの通り学校に行くと、俺の下駄箱がゴミ箱に変わっていた。
「この分じゃ上履きはないな……」
俺は来賓用のスリッパを履いて、そのゴミを分別しながら本来のゴミ箱に捨てていく。
すると、いつの間にか水沢 清香が側にいて俺の様子を見ていた。
「霞君手伝うよ」
少し怒ったような顔をして水沢は、ゴミを拾おうとしてくれた。
水沢の優しい気持ちは嬉しいが、俺はそれを拒む。
「水沢、悪いけどこれは手伝わないでくれ。これは俺の問題だから」
俺は、困ったような顔をする水沢を止めて、黙々とゴミを片付けた。
水沢の差し伸ばしてくれた手を拒んだのには理由がある。
こういう事をする輩は、直接本人に手を出さずに、周りから攻める手段をとる場合が多いという事だ。
つまり、手伝った水沢が俺のせいでどうにかなるという話も無きにしも非ずなのだ。
スリッパをペタペタと廊下の床で情けない音を出しながら教室に入ると、今度は机がゴミ箱になっていた。
水沢は『ひ、酷い……』と声を上げたが、時間は早かった為学校に来ている生徒は疎らだ。
俺は、さっきの続きをしてひたすらにゴミの分別を始めた。
よくもまあ、こんなにゴミを集めてきたものだ……
机の上には、死ねだとか童貞とか油性マジックで書かれている。
消すのが大変そうだな……
言われなくても、俺を含め人間はいつかは死ぬだろうし、童貞なのは真実だ。
これを書いた人は哲学者か何かに違いない。
さて、寝るか……
俺は、マジックで書かれた机の文字は消さないでそのままにしておくつもりだ。
きっと、消してもまた、書いてくるだろうと思ったからだ。
俺は何時ものようの机に打つ伏して寝息を立てる。
すると、朝早くから数人のヤンチャ君が現れた。
「霞、てめーー昨日バックれやがったな! 」
「荒木先輩を怒らせたようだな」
「今日の放課後はきちんと来いよ」
ヤンチャ君は俺の机を蹴飛ばして去って行った。
教室にいたクラスの生徒はまだ少ないが噂は一気に広まった。
そうか、何か忘れていると思ったらヤンチャ君に呼び出されてたんだ。
思い出してスッキリする俺だが、この状況は良くない。
いじめられキャラはモブにはなれない。
既にキャラが立っているのだから……
俺はモブ化の為に動かねばならないと決意した。
◇
案の定、クラスの生徒達から噂話が聞こえる。
俺に対するヒソヒソ話だ。
これだからいじめられキャラは面倒なんだ。
噂の対象になってしまえば、常にその人の記憶に残る。
モブには絶対にあってはならない状況なのだ。
俺を見るクラスの視線は様々だ。
庚は、敵を見るような目で俺を見ているし、水沢は心配するような視線を向けてくる。
殆どが無関心を装いながら動向を探るような視線だ。
変わってるのは壬だ。
俺に机の落書きを見て
「旦那様、死ぬの? 」
「うん、いつかはね」
「旦那様、童貞って何? 」
「我が道を行く事さ」
「そうなんだ」
清崎さん、静葉の将来が心配なのだが……
「そうだ、静葉。護符を書いてくれないか? 」
「護符? 何の」
「邪鬼や霊が近寄らないようなものだ」
「旦那様が持つの? 」
「イヤ、十家の血筋だが、最近見えるようになった人がいてな。その護身用だ」
「わかった。家に帰って身を清めてからじゃないと書けない。明日、取りにきて」
「助かる」
放課後になり、俺は体育館裏に行く。
先に来てしまったようで、まだ、誰も来ていない。
近くには、石に隠れて缶が置いてあり、その中にはタバコの吸い殻が入っている。
ここなら、人気もないし隠れて吸ってたんだな……
そんな事を考えながら、ヤンチャ君の到着を待つ。
しかし、いくら待ってもヤンチャ君は来なかった。
マジか……
俺は、ヤンチャ君を探しに校舎に戻る。
教室で話込んでる生徒もいるが、殆どが部活か帰宅したようだ。
1年のクラスを片っ端から覗きヤンチャ君を探すが、もう、学校にはいないようだ。
どこ行ったんだ?
人を呼び出しておいて!
昨日のヤンチャ君の気持ちが少しわかった気がした。
だから、あんなに怒ってたのか……
仕方なく、俺は家に帰宅したのだった。
◇
「何であんなにいるの~~!! 」
麗華さんが大学に行って帰ってきた時の第一声がこれだ。
「何の事ですか? 」
「霊よ幽霊っ! 」
確かに不成仏霊は多い。
特に東京は人が多い分、霊も多い。
「車で行ったら間違って人を跳ねたと思ったわよ。そしたら、誰もいなくなってるじゃない。それに、大学にも結構、いるのよ。しれっとして授業を受けてたわよ。それに、頭から血を流している人がいたから思わず救急車を呼びそうになったわ。もう、こんなにいるなんて聞いてないわよ」
「戻せませんよ」
「わかってる。わかってるけど、どうやったらいいの? 人と見分ける方法ってあるの? 」
麗華さんは真剣だ。
「慣れるしかないですね。霊は同じ行動しかできないタイプもいますし、それに存在感が無いですからね。自然とわかるようになりますよ。それと、知人に護符を書いてもらってます。明日には出来上がるでしょうから、それを持ち歩いていれば安心ですよ」
そう言うと、少し安心したようだ。
「あれ、陽奈と瑠奈はどこに? 留守のようですが……」
「夕飯の買い出しに行くとメモがあったわよ」
夕飯ね……
俺は冷蔵庫を開け麦茶をのんであり合わせの物で夕飯を作り出した。
自重してくれればいいけど……




