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第25話 学園生活(呼び出し)




 柚木 麗華(帝都大学2学生・19歳)


 彼女は、毎日が退屈でしょうがなかった。

 大学に入ったものの、周りは遊びや勉強、毎日がありふれた普通の生活。

 そんな生活に、彼女は少しイラついていた。


 近寄ってくる人達は、彼女の美貌と資金が目当て。

 父親が、国会議員をしている為、その伝手を求めて近寄る者もいた。


 誰も彼女自身を見てるわけではなかった。

 彼女の背後にある権力、資金を見ていた。


 兄の柚木 優作は、同じ大学の大学院に通っている。

 将来は、父親と同じ国会議員になって、国政を司る仕事をしたいと言っている。


 そんな兄とは違って麗華には、特にやりたいことがなかった。

 そう、十家の庚家当主、庚 慎一郎から声がかかるまでは……


 庚 慎一郎は、彼女の母親の弟だ。

 家の後を継いで、現在では検察総長の要職についている。


 そんな麗華にとっては叔父さんから連絡を受けた。

『霞の者』という人達のサポートをして欲しいと。


 彼女は『霞の者』という聞きなれない言葉の意味を聞いた。

 すると、庚 慎一郎は、時代の影で人知れずこの世界の闇と戦ってきた者たちだと言う。


 麗華は、興味が湧いた。

 歴史や文学など古くさいものは好きではない。

 だが、人知れず世界の闇と戦ってきたと言う文言が麗華の琴線に触れたのだ。


 枝葉とはいえ、これでも十家の血が混じっている。

 穢れの祓いも、この世界にはあると知っている。

 だから『霞の者』と聞いた時から血が騒いでいたのだ。


 兄の優作はあまり乗り気ではなかった。

 彼も古くさいイメージを抱いていたに違いない。


 だが、庚家と辛家に呼び出され、料亭で『霞の者』と呼ばれる少年と少女に出会った。


 第一印象は『幼い』その一言に尽きた。


 だが、彼と彼女の話を聞くと、驚くことばかりで普通に生活してきた自分が恥ずかしくなった。


「この子達は、見た目は幼いけど、私よりも断然、大人なのだと」


 そう理解したようだ。


 実際、戦闘を見たわけではない。

 違法なハッキングをしてる場面も目撃していない。


 だけど、この少年少女には、それだけの力がある。

 そう感じるだけの雰囲気を持っていた。

 だから、麗華は、積極的に彼らに関わろうと思って、行動に移す。


 見た目は幼い少年少女だけど、中身はどれほどの苦難を積み重ねてきたのか、それを知りたい。そして、私に何か出来るのなら私もそうありたいと思うようになっていた。


 暇でありきたりな人生は、もう、お終い。

 短くてもいい。太く、濃く人生を謳歌したい。


 私は、今でもそう思っている。





 焼肉店から帰って、瑠奈と一緒に調達品の調整に入った麗華さんは、茜さんが帰って来るまで、このマンションに住む事になった。


 俺としては、瑠奈の負担が減るのならありがたい話だと思う。


 瑠奈が欲しいと言っていたスーパーコンピュータや人工衛星など、どのような用途で使うのか、それは代替えが効くのか、専門的な話を瑠奈としている麗華さんは、とても真剣で好感が持てた。


 例え俺達の監視役であってもだ。


 次の日、朝刊の配達が終わり、家に戻ると瑠奈が眠そうな顔でお弁当を詰めていた。

 麗華さんは、授業が午後かららしいのでまだ寝ているようだ。


 何時もの時間に家を出て学校に向かう。

 学園がある駅で陽奈と瑠奈と別れるのもいつものことだ。


 スマホを見ると、壬からメッセージが入っていた。

 俺は、その内容を確認する。


~~~~

『旦那様、おはよう。今日も良い天気ですね』


 近所のおばさんかな?


「おはよう。スマホ使えるようになって良かったね」


『うん』

~~~~


 それだけの短いメッセージだ。

 壬としては頑張ったのだろう。


 他にも昨日の女子達からメッセージが入っていた。

 挨拶や昨日の件を尋ねるものもある。


 読み流して適当に返事をしておく。


 だが、庚からは少し違った。

 昼休みに剣道場まで来てくれと言うものだ。


 呼び出しか……

 内容は書いていない。


 さて、どうするかな?

 庚当主から聞いていないのであれば、俺からは何も言う事はない。


『わかった』


 それだけ書いて送っておいた。

 断ってもみんなのいるところで詰め寄られたらこっちが困る。

 2人きりならその方が都合がいい。


 学校に着くといろいろな人に詰め寄られた。

 主に麗華さんの事だ。


 男子高校生としては年上の色っぽい女性に興味があるのだろうが、俺は、興味はない。

 勿論、正常な生殖能力を持っている。

特別な嗜好もない。

 つまり、ノーマルなのだ。


 庚の視線が突き刺さる。


 俺は、モブ化の道は更に遠のいたが諦めた訳ではない。


 これから、盛り返すのだ。


 庚の件は、それを果たす為だ。


 早めに解決しておかねば……


 さて、ひと寝入りしよう。

 ホームルームが始まった途端、俺は机に肩肘を立て窓の外を見ながらのんびり過ごす。


 俺のいる1年1組は校舎の1階なので、見晴らしは良くない。

 植樹された植木の隙間から校庭が見える程度だ。


 それでも、黒板を見るより何倍もマシ。


 束の間の、幸せの時間かと思ったが、昨日の校外学習のレポートの提出を求められた。


「レポートを集めます。後ろの人から前に回してください」


 先生の声が聞こえた。

 勿論、俺はやってない。

 すっかり、レポートの事を忘れていたのだ。


 中々、俺がレポートを回してこないので、前に座っている女子が俺の方を向いた。


「霞君、レポートは? 」


「ごめん、忘れた」


「はあ、しょうがないわね」


 そう言って自分のレポートを前の席の人に渡していた。

 先生は、前列の子達からレポートを回収している。

 そして、


「忘れた子は、今日中に書いて提出してね」


 大きな声で話している。


 仕方がない。休み時間にでも書くか……


 だが、休み時間の度に、男子から詰め寄られる俺にはその時間が無かった。




 壬は、昨日のメンツと仲良くなったのか、一緒にお弁当を食べている。

 俺は、お弁当を持って校舎の外に出た。


 人気のないベンチに座り、お弁当を食べ終わった頃、少しやんちゃそうな数人の男子が詰め寄ってきた。


「霞って野郎はこいつか? 」

「そうです。荒木先輩」


 同じクラスではないが、いつも廊下でヤンチャそうな仲間とたむろしている一年生の集団と荒木と呼ばれるガタイの良い先輩らしき人物が、俺をジロジロ獲物を捕らえるような目付きで見ている。


「ちょっと、面貸せや」


「いいえ、面は貸せません」


「はあ!? 生意気なのは噂通りだな」


 定番のセリフを吐く先輩は、足で俺の座っているベンチをど突いた。


「ちょっと、顔を貸せと言ってるんだ。荒木先輩を怒らせるなよ」


 同じ一年のヤンチャ君は、先輩がいる事で気が大きくなっているようだ。


「顔を貸せと言われても、これから用事があるので」


「じゃあ、放課後体育館裏に来い。バックレるなよ」


 そう言い放って、俺の座ってたベンチを足で蹴って去って行く。


 割と素直なヤンチャ君達だ。

 まあ、昼休みは時間が短いからヤンチャするには、時間が足りないのだろう。


 今日は、呼び出しが多いな……


 俺は、その後直ぐに剣道場に向かった。





 剣道場では庚が竹刀を持って立っていた。

 道着ではなく、制服のままだが俺にもうひとつの竹刀を渡す。


「これは、どういうつもり? 」


「君には聞きたい事が山ほどある。だが、君は素直に教えてはくれないのだろう? だから、私と勝負しろ。私が勝ったら全て話してもらう」


 決闘をして、話させる手段のようだ。


「俺にはメリットがない。庚さんと試合をする意味もね」


「うむ。そういうだろうと思って、私なりに考えたのだが、霞君は何か私にして欲しい事はあるか? 」


「ほっといて欲しいです」


「それは、無理だ! 」


 マジですか……


 「では、こうしよう。もし、私が負けたら私を君の自由にするがいい」


「いいえ、結構です」


「な、何!! 」


「別に自由にするつもりはありませんので賭けにはなりません。だから、この試合は無効だという話です」


「き、貴様、私が、その、魅力に欠けるという事か? そうなんだな! 」


 ムキになってる人に何を言っても無駄だろうしね~~


「魅力的ですよ、庚さんは。でも、俺は、女性をどうのこうのするつもりはありません」


「わかったぞ。君は、霞君は男色なのだな? そうだ。そうに決まっている」


「違います。俺はノーマルです」


 何だろう? 性癖の調査かな?


「とにかく、俺は帰ります。知りたかったらお父さんにでも聞くといいですよ。では」


 俺は竹刀をその場に置いて立ち去った。


『待てーー! 』とか『逃げるのかーー! 』とか言ってるけど、俺は無視して教室に戻った。





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