第23話 校外学習(3)
騒がしい女子達から解放されて、俺は、今、心地よい狭さの長方形の空間の中にいる。
あまり、綺麗な場所ではないが、先程の場所に比べればここは天国なんじゃないのかって感じる。
そんな心落ち着く個室の中で、隣の個室から壁を叩いて話しかける声が聞こえた。
「悪いんだけど、紙はねぇか? 」
うん、そういえば、こっちにも紙が無い。
だが、俺はポケットティッシュを持っている。
「紙こっちにもないんですよ。でも、俺のティッシュならありますが、使いますか? 」
「すまない。頼む」
俺は、隙間から隣の個室にティッシュを渡した。
「おーー兄ちゃんすまねぇなぁ」
「いいえ、お互い様ですから」
俺は座って大をしてるわけでは無い。小をしているだけだ。
個室には、ただ、入りたかっただけである。
さて、落ち着いたから、そろそろ行くか……
俺は、ドアを開けると、先程隣で頑張っていたおっさんもドアを開けた。
「おーー兄ちゃんは学生さんだったのか。さっきはありがとよ」
「気にしないで使って下さい」
少しすえた臭いのするおっさんは、手を洗いそして顔も豪快に洗った。
腰にぶら下げた薄汚れたタオルで顔と手を拭きながら俺を見つめる。
「今日は、遠足か? 」
「まぁ、そんなもんです」
「学校は楽しいか? 」
「ちょっと思うようにいかなくて……ね」
勿論、モブ化の事だ。
計算では、数ヶ月を要すると演算されている。
(俺計算だけど……)
「確かにな~~思うようにはいかねぇよな。俺なんかちょっと冒険して馬に手を出しちまったら全財産パーになっちまったからな」
ふむふむ、この人は元冒険者……
今は、冒険者崩れといったところか……
馬、そうかブラックホースだな。あれはBランクモンスターだ。
その討伐に失敗してお金がなくなってしまったのか。
しかし、この世界にも冒険者がいたとは、世界は広いものだ。
「ギルドに所属してたんですか? 」
「ギルド!? ああ、聖ギルード教会の炊き出しの事か、所属してたつーっか、今でもお世話になってるよ」
「ほうほう、炊き出しですか。ギルドもやる事はやってるんですね~~ふむふむ」
「今日は炊き出しの日じゃねぇ。毎週土曜日が炊き出しの日だ。良かったら食いに来たら良い」
「もしかして、ワイバーンの肉とか食えるんですか? 」
「ワイバーン!? そっか、ワインにバーンと付けた肉か。そんな高級なものは食えねぇよ。うどんや雑炊。それに豚汁とかだな」
流石に、ワイバーンはないか……
「まぁ、気が向いたら来れば良い。それからこれもらっていくよ」
おっさんは俺のティッシュを手で振ってその場を立ち去った。
冒険者崩れは、金に困ってるようだな……
俺は、そう思い公衆トイレから出たのであった。
みんながいるところに俺の荷物がある。
取りに行かなければならない。
まだ、女子達は写真を撮ったりして騒いでる。
何であんなに笑ってられるのか理解に苦しむ。
「あ、霞君が帰って来たよ」
「お腹が痛かったの? 薬あるよ」
世話好きな女子もいたもんだ。
「大丈夫だよ。問題ない」
すると、壬が近づいてきて
「スマホ使えるようになった」
「そうか、良かったな」
「うん」
この前から、スマホ、スマホとお経のように唱えている壬も、これでようやく静かになるだろう。
「ねぇ、霞君、一緒に写真撮ろう? 」
写真ですとーー!!
忍びは、無闇に他人にその姿を見せてはいけない。
写真などもってのほかだ。
「ハイチーズ。カシャ」
「えっ!? もう撮っちゃったの? 」
「うん、よく撮れてるよ。あとで送るね~~」
流石、ちびっ子女子高生、木下 沙織だ。
油断ならない奴……
「午後は2時半の点呼まで自由時間だよね。何処か行きたいとこある? 」
結城 莉愛夢は、みんなに話しかける。
わいわい騒ぎながら女子達は行き先を決めたようだ。
女子達は動物園に行く事になった。
俺は、用があって行けないと何とか断って、やっと女子グループから解放された。
壬は俺と一緒に行動すると言い張っていたが、結城や水沢のような話ができる友人ができたので女子達と行動する事になった。
壬は、瑠奈が言っていたが、それだけの理由(結婚か子種)で俺と一緒にいる必要はないと思うが……
俺は先程誰かだ行ってた池の方に歩いていく。
たしかにアヒルだかガチョウだかのボートがあるが、乗る気は無い。
それに、ボッチで乗っらた逆に注目の的になる。
広い池のようで、池の中には島がある。
そこは弁天堂と呼ばれているらしい。
俺は、その弁天堂に行ってみた。
すると、神霊術の形跡がある。
「そうか、ここも昔、甲家か乙家が結界を張った場所なんだな……」
全国の主要箇所には、甲家や乙家の結界が張ってある。
ここに張られていてもおかしくは無い。
池の周りにあるベンチに座り、俺は、午後の点呼までここで過ごすと決めた。
『そろそろ帰らないとまずいよ~~』
『だって、どっちだか分かんなくなっちゃったんだから、しょうがねぇだろう』
ちびっ子の声がする。
しかも、男女だ。
俺が寝ているベンチの前で騒がなくても良いと思うが、聞いてしまったからにはどうにかするしか無い。
俺はちびっ子には優しいのだ。
「どうしたんだ? 」
「何だよ。急に声をかけてくるなよ。ロリコン! 」
うん、勇ましい男の子だ。
「何騒いでるのか聞いただけだよ」
すると女の子の方が話し出した。
要約すると、遠足で動物園に来たんだけど2人で抜け出してボートに乗ってたようだ。
もうじき集合時間なので帰ろうとしたら動物園への戻り方がわからなくなって困っていたらしい。
「迷子か、わかった。俺について来なさい。案内してやるよ」
「てめーーそう言って俺達を誘拐するつもりだろう? 」
「そんな面倒なことするわけないだろう。それに早く帰らないと時間がないぞ」
それでも少年少女達は、警戒していた。
「じゃあ、俺は勝手に動物園に行く。良かったら後からついてくればいい」
「わ、わかったよ。てめー変なことしたらブザー鳴らすかんな! 」
ちゃんと教育を受けてるようだ。
偉いぞ、少年。
俺は、動物園まで歩いていく。
勝手に俺の後を2人がついて来た。
「ほら、あそこだぞ」
「わーー本当だ。お兄さんありがとう」
「わ、悪かったな……」
「良いから気にしないでさっさと行きなさい。先生に怒られるぞ」
2人は礼を言いながら動物園に向かって走って行った。
門の前では先生らしき人が、2人を見て『いましたーー! 』と声を上げている。
先生にお説教されるだろうが、事件に巻き込まれるより余程良い。
「さて、俺も集合場所に戻るかな」
すると、水沢の友人で図書委員風の眼鏡っ娘キャラが俺に向かって走って来た。
「霞君、待って~~」
「どうした。田辺だっけ? 」
「うん、そうだよ。霞君が連れてきた女の子いたでしょう? それ、私の妹なの。さっきまで先生達と一緒に探してたんだけど、霞君が連れてくるのが見えて、お礼、言わないと、と思って……」
「そうか、妹さんだったのか。礼はいいよ。偶然出会っただけだから」
「それでもだよ。ありがとう霞君」
まぁ、礼を言われるのは悪い気分じゃない。
「ああ、わかった、受け取っておくよ」
「うん、あっ、みんなに連絡しなくちゃ。みんなも探してくれてるんだった」
「じゃあ、早く行った方がいいぞ」
「わかった。本当、ありがとうね」
田辺は、そう行って連絡しながら動物園の方にかけて行った。
偶然ってあるもんだな……
そんな事を思いながら集合場所に戻った。
◇
集合場所に戻ると、みんな美術館前の広場に集まって騒いでいる。
そんな中で、庚達は少し遅れて戻ってきた。
点呼を取り、解散となったが俺のそばには、庚達が集まって来ていた。
すると、図書委員眼鏡っ娘キャラの田辺が、
「霞君、帰るんでしょう。さっきのお礼に何か奢るよ」
これから、このメンツで何処かに寄ろうとしているようだ。
「えっと、そう言うのはいいよ」
「取り敢えず、駅の方まで行こう」
みんなぞろぞろついてくる。
困った事になった……
すると、公園の出口の路上に赤いスポーツカーが止まっていた。
羽根のように持ち上がるドアの中からタイトスカートの美女が降りて、こちらに向かって手を振っている。
あ、あれは、柚木 麗華……
赤サカの料亭で会ったばかりの人物だった。




