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第14話 倉庫での戦闘(1)



 都内の環状線を北進する一台の黒いワンボックスカーは、県境に流れる川の手前で進路を変えた。


 目的の場所は直ぐ近くのようだ。


「瑠奈、対象は? 」


『陽奈が先行してますので、無事だと思います』


「ビルの上に放置した奴の確保を頼めるか? 」


『既に連絡は入れてあります』


「助かる」


『それより、兄様が息の根を止めなかった事が意外です』


「都会では仕方がない」


『……敵は女ですね。きっとそうです。兄様が気絶させて放置するだけなんて女しかありえません』


「うん、そうだけど深い意味はないぞ」


『となると、相手は『紅の者』のクノイチ、女郎蜘蛛でしょうか? 噂では、若くて胸が大きい女だと聞いてます』


 す、鋭い……


「瑠奈、この件は帰ってから話そう」


『兄様、()()な説明を要求します』


「う、うん。そうするよ」


 瑠奈、声が怖いぞ……


『あっ、陽奈からです。都内から出てないそうです。川沿いの倉庫です。地図を送ります』


「わかった。手出しは無用といっておいてくれ。それと、警察関係の調整を頼む。出来れば、俺が踏ん込んで10分程待ってもらいたい」


『……利用するつもりですか? 』


「ああ、お嬢様の監視ばかりしてられないのでな。この状況をありがたく使わせてもらうよ」


「やっと、兄様があの女のお尻を追いかける事をやめる決心をしてくれました。嬉しいです。私の全力をもって対処しましょう」


「嫌、全力は使うな。この辺一帯の電力が止まるから……わかってるよね? 」


『何かおっしゃいました? 』


「瑠奈は優秀だ。こんな案件、片手間で出来るだろう? それに小腹も空いたし瑠奈の美味しい料理が食べたい。是非とも食べたい。とっても食べたい。今すぐ食べたい。だから、全力を出してもらっては困る」


『兄様がそう言うなら、わかりました。美味しい料理を作ってお待ちしています』


 ふぅ~~助かった……


 俺は、この件は速攻で終わらせようと心に決めた。





 俺が庚が運ばれた倉庫の付近に到着して陽奈と合流した時、陽奈が持っていた甘栗の袋はすっかり空っぽになっていた。


「お兄が、手出し無用って言うから、甘栗無くなっちゃったよ~~」


 俺は陽奈の頭を「よしよし」と撫でながら、被害が甘栗だけで収まった事に安堵した。


「見張りは、表に5人、裏に2人か……中の様子は……と」


「3人入って行ったよ。庚さんは別だけどね」


「陽奈、5人だ。1人は、鎖で繋がれているがな」


 俺は神霊術を使う。


「ねぇ、お兄のその眼って壁とか透けて見えるんだよね。じゃあさぁ、私のパンツも分かっちゃうの? 」


 陽奈は、お尻を俺に向けてちょこんと突き出しフリフリ左右に振っている。


「陽奈、可愛い猫がいっぱいプリントされてるぞ」


 神霊術を使うまでもない。

 フリフリしてるスカートからパンツが丸見えなのだから……


「すっごい、流石、お兄だね」


 羞恥心はないのか!

 先が心配だ……


 見張りの動きを見ると、右手がいつでも服の内側に潜り込めるような状態を維持している。


「銃を持っているようだな」


「街中で銃を撃ったら冒険者証をギルドに剥奪されちゃうよ」


 冒険者じゃないからね。あの見張りは……

 それに、ギルドじゃなくって反社会勢力の組員だからね。


「そうだ。お兄、これ」


 陽奈は背負っていたデイバッグから熊のお面と猫のお面を取り出した。


「昔、遠征に行った時、神社のお祭りで買ったお面か? まだ 持ってたの? 」


「うん、アイテムボックスの中に入れといたんだあ」


「はい!? 」


「アイテムボックスだよ。時限収納のやつ」


 今、デイバッグから取り出しましたよね?

 それに、出かける時部屋でガサガサしてましたよね?


「そ、そうか……」


「お兄は熊ね。私は猫ちゃん」


 今日のパンツに合わせるのか、まぁ、どっちでもいいけど……


 俺が熊のお面を被ると、陽奈の目はキラキラし出した。


「太郎だ~~」


 そう言いながら抱きついてくる陽奈を何とか引き剥がすが、直ぐに抱きつかれる。

 面倒なので好きにさせておく事にした。


「お兄、モフモフ感が足りない……」


 全身毛だらけの熊じゃありませんから!

 陽奈は里の山にいるペットの熊の太郎を思い出しているのだろう。


「陽奈、モフモフは里に帰った時、思いっきり太郎にしてあげなさい」


「うん、そうする」


 太郎、御愁傷様です……


「さて、倉庫の中から、嫌な気配がしてきたぞ。そろそろ行くぞ! 」


「え~~もうちょっと、こうしてる~~」


 今度は有無を言わさず陽奈を引き離す。


「陽奈には、特別に見張りの制圧を任せよう。これは、陽奈にしか出来ない特別任務だ。良いかな? 陽奈隊員」


「了解しました。隊長! 」


 敬礼の真似をする陽奈は、どこか嬉しそうだった。





「わ、私は……」


 気を失っていた庚 絵里香が目を覚ました場所は、見覚えのない広い倉庫の中だった。


「おやおや、もう、起きたのか? 剣士の嬢ちゃんよ」


 そこには、恰幅の良い30代半ばのおっさんが庚を見下ろしていた。

 気を失っていた時に服を脱がされたようで、今の庚 絵里香は下着姿で拘束されていた。


「わっ! 私に何をした? 服は、服はどうしたんだ? 」


「勇ましい剣士の嬢ちゃんだな。服は脱がせたよ。残念ながら、まだ、何もしてねぇけどな。俺は、好きなものは最後に食べる主義なんだ」


「私を見るな! このケダモノ! 」


「あははは、もう、散々見させてもらったよ。安産型の良いケツ持ってるみてぇだしな。あとが楽しみだ。へへへへ」


 下品な言葉を浴びせられて、庚 絵里香は身震いした。


(こんな腐った男に犯されるのか? 私の初めてを……)


 このような状況の中で意外と冷静に判断できるのは、流石、十家の息女と言えるだろう。


「何故、私をこのような目に合わせた。庚家と知っての事か! 」


「勿論、知ってるぜ。でも、嬢ちゃんはデザートだ。メインディッシュを食べ終わった後のな。わははは」


『ガシャ、ガシャガシャ』


 金属の擦れ床に当たる音がした。


「そろそろ、料理を完成させねぇとな」


 おっさんはそう言うと、倉庫の柱に拘束していたスキンヘッドの大柄な男の前に立った。

 その男は、小刻みに震えている。

 その震えは恐怖からではなく、顔色の悪さから病気を患っているように庚は思えた。


「こいつは、元プロレスラーでな。割と強いやつだったんだぜ。だが、ほれっ、これの虜になっちまったんだ。嬢ちゃんにも後でたっぷり身体の中に入れてやるぜ」


 おっさんは、注射器を庚や元プロレスラーに見せびらかすような仕草をする。

 鎖で拘束されているプロレスラーは、それを見ると一段と大きな音を出して暴れ出した。


 庚は、恐怖で青ざめる。


 あれが、何なのか理解しているようだ。


「嬢ちゃんはこの注射器の中に入ってる薬が何だか分かってるみてぇだが、こっちはわかるかな? 」


 大きな木箱を持ってきたおっさんは、それを庚の前に置いて見せる。

 その木箱には、細長い紙がいくつも貼り付けてあり、紙には奇妙な図柄が描かれていた。


「な、何だ。それは……」


 箱の中から、禍々しい気配をビンビン感じる。


(あれは、マズい! あれだけはダメだ……)


 頭の中であれは危険だと警鐘が鳴り響く。


「何となく分かってるようだな。流石、庚家というところか」


 おっさんは、庚の前に置いた木箱を拘束されているプロレスラーのところに持って行く。


 そして、おっさんは話し出した。


「この木箱の中身は、人間に憑依してやっと本来の力を得るんだよ。素材が強ければ強いほど強力な邪鬼になる。だが、何せ魔物だ。言うことなんか聞きやしねぇ。だから、薬で操るのさ。まぁ、大昔には、割とやってた事だ。十家の連中なら知ってても当然か。こいつらを討伐してたのは、十家でも庚家と辛家だしな。わはははは」


 男は、木箱に貼り付けてあった紙を乱暴に剥がして、プロレスラーの元に投げ捨てた。


 大きな音と共に、開いた箱の中から黒い影が湧き出てくる。

 その影は、プロレスラーに纏わりついた。


『うわぁーー! うおおおお! 』


 プロレスラーの低い悲鳴が響きわたる。

 影はプロレスラーの身体を侵食して2倍程の大きさに膨れ上がった。


「な、何だ。あれは……」


 庚はそれ以上声を出せなかった。


 そこには、額に大きな角が一本生えた真っ黒な鬼がそこに立っていた。







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