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第9話 ホテルで食事




 次の日……




 今日は日曜日なので庚家当主が自宅にいるから狩はしないであろう。

 因みにこれは瑠奈情報である。

 念の為、竹刀袋に隙を見てGPS発信機をつけておいた。

 ただ単に、ハンバーガーを食べながら瑠奈の口の中にポテトをを突っ込んでいた訳ではない。


 やる事はやっているのだ。


 気になるのは、昨夜ホテルから出てきたクラスメイトのあの女子だ。

 都会の子は進んでいると聞いていたが、つまり、そういう事なのか?


 俺は朝刊配達を終えてシャワーを浴びながら考え込んでいた。


 茜叔母さんから連絡があり、もう、2、3日出張が伸びそうだと連絡が入る。

 帰って来るのは、来週の水曜日前後だろう。


 日曜日なので、陽奈も瑠奈もまだ寝ている。

 昨夜の件で疲れたのかもしれない。


 俺は自分の部屋に戻り、もう一つの懸念である、昨夜、ビルの上で俺達を見ていた黒い影の人物を思い出していた。





 陽奈は、中等部の書道部に入部し今日は課題の習字をしなくてはいけないらしい。

 一方、瑠奈は家庭科部に入部したようだ。

 だが、今日は溜まった宿題をこなす為、一日、家で勉強するそうだ。

 俺だけ特に予定がなかったので、午前11時ごろ、近所を彷徨く事にした。


 東京に来てまだ日は浅いが、人の多さも、駅の複雑さも大分慣れた。

 忍びは、周囲の環境に適応しなければならない。

 里で訓練していたおかげだ。


 大通りを池フクロウの駅に向かって歩いていると、車道から物凄い高級感あふれるリムジンが、俺の側に止まった。


 ドアが開き、身なりの整った初老の紳士が降りてきて、俺に話しかけてきた。


「失礼ですが、霞様でいらっしゃいますか? 」


 どうやら、俺に用事があるらしい。

 リムジンの中から物凄い気を感じる。


「そうですが、何か用ですか? 」


「私はこういう者です」


 俺に名刺を渡す。

 その名刺を見て、納得した。


「お車にどうぞ。中でお待ちになっております」


 俺に名刺を渡した人物は執事なのだろう。

 身のこなしが洗練されており、動きに無駄がない。


「わかりました」


 初老の紳士がドアを開けてくれて、俺はリムジンの中に入る。

 目的の人物は、そこに座っていた。


「ようこそ、霞 景樹君」


 低くてよく通る声だ。

 40代後半といったところだろう。

 その風格は一国の王様のようだ。


「初めまして、霞 景樹です。俺に何か用ですか? 戊家(つちのえけ)当主様」


 俺に用事があるのは、経済界を牛耳る戊カンパニーの最高責任者、戊 圭吾(つちのえ けいご)のようだ。






「霞君、君は食事を済ませたかね? 」


 戊 圭吾の口から出てきた言葉は、俺には意外な言葉だった。


「朝、軽く済ませただけですが」


「では、昼を一緒に食べよう」


 その言葉を合図に、車は走り出した。

 首都高に乗り、30分程で、目的のホテルに付く。

 案内されたのは、スカイラウンジのあるレストランのVIP席だった。


「何か食べたいものはあるかね? 」


「このような場所で食べたことがないので、何があるかよくわからないのですが」


「では、お任せで大丈夫かな。それと、ワイン、っと、まだ未成年だったな。好きなジュースでも頼みたまえ」


「では、オレンジジュースを」


 食事が運ばれて来るまで、俺達は黙ったままだ。

 それは、移動の車の中でもそうだった。


 無言の強い圧力を感じる。

 気の弱い人間ならこの人の前に立つだけで腰を抜かしそうだ。


 豪華な食事が運ばれてきた。

 戊 圭吾が料理に手を出してから、俺も料理を食べ始める。


 美味い……美味すぎる。


 そうして、食べ始めると、やっと戊 圭吾は口を開いた。


「霞君、私は君を知りたいと思って今日は誘ったのだよ」


「俺の何が知りたいのでしょうか? 」


「君の胆力は相当なものだね。自慢ではないが、私と食事をして君の様に美味しそうに食べる人間は身内や気を許した人間以外見たことがないんだ」


「そうでしょうね。私もそう思います」


「ふふ、わははは」


 戊 圭吾は突然、大きな声で笑い出した。


「庚が言った通りの男の様だな」


「庚家当主と俺の話をしたのですか? 」


「あぁ、自慢のセキュリティーを破られたと悔しがっていたよ」


「そうでしたか……」


「随分、庚に好かれた様だな」


「俺は、特に何もしてませんが? 」


「流石、霞の者だ。そう言っていたよ」


「褒め言葉と受け取っておきます」


「勿論、褒めているのだよ。君は戊家がどんな家か知っているかい? 」


「はい。父から聞いています」


「そうか、少し話に付き合ってもらおう。十家の戊家の役割は、穢れによって汚染された土地の浄化だ。私の先祖はそうやって、この国の土地を浄化してきた」


「ええ、そのように聞いています」


「うむ。だが、戊家の浄化は、穢れによって汚染された土地のみしか浄化出来ない。何でもない土地は浄化できない出来損ないの神霊術だったのだよ」


「それは知りませんでした」


「だから分家である己家は滅んでしまった。表向きは後継者問題となっているが、実際は、役立たずの神霊術のせいなのだ」


「その話を俺に聞かせて良いのですか? 」


「構わない。過去の話だ。それに隠す必要もないと私は思っている」


「後で話を聞いたからには、というお決まりのセリフは言わないで下さいよ」


「あははは、わかった。肝に銘じておこう。それでだ。何故、分家の己家が滅びたか理解できたかな? 」


「穢れた土地しか浄化できないのなら、なんでもない土地を穢せば良いと考えたからですか? 」


「正解だ。だが、まだ足りないな」


 とすれば……もしかすると……


「十家に討伐されたのですか? 」


「惜しい。十家ではなく十家から依頼を受けた『霞の者』によって討伐されたのだよ」


つまり、俺のご先祖様が暗殺したのか……


「そうでしたか、納得しました」


「十家は代々繋がって、今があるが、そこには、直系と言えども子供が1人だけというわけにはいかない。大木に連なる枝葉のように血筋が分散されているのだよ」


「つまり、己家(つちのとけ)の血筋も絶えてはいないと言う話ですか? 」


「その通りだ……」


「近頃、己家の血筋が良からぬことを企てていると話を聞いた」


「そうなのですか? 」


「だから、君達を東京に迎えたのだよ」


 それが、俺が転校した理由か……


「わかりました。対処します」


「まぁ、そう焦る事もない。まだ、星の巡りが悪いからな。早くても来年だ」


「それだけの時間があれば、いろいろ準備出来ます」


「資金の方は遠慮しないでくれ。このカードを君に渡しておくよ。何でも朝刊配達をしてるようだしな」


 俺は、テーブルに置かれたブラックカードを執事が丁寧に取り、俺に渡した。


「ここまでして頂くわけには……」


「恐らく、大惨事となるだろう。それは、必要になる」


「わかりました。ありがたく使わせて貰います」


 己家の血筋は、それだけ多くいると言うことか……


「それと、私の娘が今フランスに留学している。日本に呼び寄せるつもりだ。帰って来たら仲良くしてもらいたい」


「はい!? まぁ、普通に仲良くですね。はい」


「ふふふ、君より一つ年上だが、気にはならないだろう? 」


「先輩なんですね。わかりました」


「そうか、そうか仲良くしてくれ。自慢じゃないが私の娘は美人だと思うぞ。フランス人の妻とのハーフだ」


「そうなのですか……」


 俺にどうしろって言うんだ……


「妻の家系は魔女の血筋が混ざっていると言われている。神霊術と魔術、面白そうだろう? 」


 何が面白いのか理解できない……


「はあ、そうかもしれませんね」


「まあ、頼むよ。来週中には君の学校に転入できるはずだ」


『えっ! 同じ学校なのですか? 』


「仲良くなるにはその方が早いだろう? 」


「はあ……」


 マズい……俺のモブ化の計画が崩れそうだ。

 再計算をしなくては!


 その後、30分程、戊当主と話をして別れた。


 俺は、モブ化計画の事で頭がいっぱいになり、戊当主の話に頷くだけだったが……





 リムジンの車の中では、戊 圭吾が、さっきまで一緒に食事をしていた霞 景樹の事を考えていた。


「庚が言った通りの男だな……まだ、若いが、そこら辺にいる大人の男どもより肝が座っている。しかし、久し振りに食事中に笑ったよ。何年振りかな……己家の問題は、本家である戊家が本来は後始末を付けねばならなかった。それを、年端もいかぬ子供に押し付けてしまうとは……俺もまだまだだ。シャルがあの男を気にってくれれば良いが、この貸しは金では返せそうに無いからな……」


 リムジンは、首都高速道路を空港に向かって走っていた。





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