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FIVE  作者: AkIrA
9/42

9:取引

「ちょ…!!何あれ!?」

「知るか!」

「取り敢えず走れって!」



学校を出て3人は直の提案どおり北森の家を目指して歩いていた。

特に目立った会話も無く黙々と3人は歩いていたがその時目の前に大きな砂嵐が現れたのだ。

それを避けるために来た道を逆走する。



「うわ!」

「仙崎!!」



躓いた直を隣に居た水無瀬が支える。

岡野も思わず足を止める。

鼻の先まで迫った砂嵐。

飲み込まれる、そう思った瞬間何かが3人の目の前に躍り出た。







「直…」

「とお…る?」



直が顔を上げるとそこには傷だらけの幼馴染が立っていた。

何の衝撃も来なかったのは北森が作り出した地の楯によって砂嵐が塞き止められていた為だ。



「透…!どうしたの…この怪我…」

「大丈夫。直が無事なら良い。」

「大丈夫なわけ無いだろ!!こんなっ…」



直が詰め寄ろうとしたとき別方向から聞きなれた声が聞こえてきた。



「北森!急にどうしたんだよ!」

「狩谷…」

「岡野!それに仙崎…、晋まで…」

「それはこっちの台詞だ、それにお前らその怪我…」


3人は2人の姿に顔を顰める。

あちこちに傷を作り、制服はぼろぼろだ。

北森に至っては右肩の所に一際大きな血の染みがある。

しかもその傷は現在も出血しているようだ。

北森の肩から流れた血は腕を伝いぽたぽたとアスファルトの上に落ち続けている。


その姿に直は頭の奥がすぅっと冷たくなっていくのを感じた。

背伸びをして今にも倒れそうな北森の頭を胸に抱き寄せる。




「透…無理しないで」

「無理?」

「そう…お願いだから…」



直の言葉に反応するように、がくりと北森の体から力が抜けた。

どうやら立っているのもやっとだったらしい。

直はもう一度北森を抱き締めるとそっと地面に横たわらせた。



「あらあら、全員揃ってるんや?」

「誰?」

「うちは明鈴(メイリン)言うねん。よろしくなぁ」



ぱたぱたと扇で優雅に風を送りながら歩いてきたのはチャイナドレスを身に纏った女だ。

直たちが先程学校で見かけた2人組みのもう片方だ。



「あれ?功は?」

「功…?」

「まさか…やっつけちゃったん?」


5人中2人は明らかに戦闘をした痕跡がある。

明鈴は扇で笑みの浮かんだ口元を隠した。



「なるほどねぇ…中々骨がありそうな守護者たちやんか」

「守護者…?」

「ま。ちょっとは楽しませてもらわんとね」



扇をぱたんと閉じる。

それを右手に収め武術のような構えをとった。

ぴりぴりと緊迫した空気が一気に立ち込める。



「明鈴!」

「?」



その空気を割って飛び込んできたのは…



「あら、双子やん。何の用事?」


双子の片割れ。

蒼の方だ。


「待て…」

「うちが待たなあかん理由は?」

「中条功を人質に取った。」

「へぇ…」


ぴくり、と明鈴の眉が微かに動く。


「こちらの守護者5人を引き渡してくれれば手は出さない」

「捕まる功が間抜けやねん。うちには関係ないしー」

「アンタは根っからの格闘家だよな?強い相手と本気で戦って殺すほうが好きなんじゃないのか?」

「何それ?うちを言いくるめようとしてるん?」



なかなか良い度胸やねぇ、と明鈴はクスクスと笑った。

今の所、攻撃を仕掛けてくる様子は無いようだ。



「うち一人じゃ決めかねるわぁ。ボスに聞かないと。」



彼女が取り出したのは黒の携帯電話。

それを耳に当てると明鈴は『ボス』と称される相手と一言二言だけ会話を交わした。

会話が終了したのか携帯電話が彼女の手の中でぱたりと閉じられる。



「ええよ。」

「え…?」

「ボスが見逃してええって。取り敢えず功を返してもらうわ。どこ?」

「向こうの角を曲がったところに、コレで拘束してある。」

「貰ってくで」



蒼の手からお札を奪い取ると、面白くなさげに明鈴は踵を返した。

余りにもあっけなさ過ぎる身の引き方。

敵との衝突を無事に避けられたというのに何処か蒼の頭から不安が消えることは無かった。





















「居た居た。ったく、派手にやられたもんやなぁ…」


明鈴が蒼の指定した場所へ向かうと、中条功が地面に突っ伏した状態で倒れていた。

軽く爪先で腹を蹴り、意識の有無を確認する。

しかし功が起きる気配は無い。



「こんな大男どうやって運べっちゅーねん。」



双子による何かしらの術式のようで、功の背中には札が一枚貼られている。

そこから伸びた薄い青色の炎が拘束するように功を覆っている。

奪ってきた札を功の背中にある札に近づけると、両方の札が燃え上がり青い炎はすぅっと消えた。


取り敢えず拘束は解いたものの190cm近くある大男を運ぶのは骨の折れる作業だ。

ぶつぶつと文句を垂れる明鈴だったが、ふと頭上に人の気配を感じて顔を上げた。



「お疲れ、明鈴。」

「あぁ、怜王(レオ)。来てたんや?」

「回収、手伝おうと思ってよ。」



そこに居たのは塀の上に座る男。

眼鏡を掛けて、黒い髪を風になびかせている。

怜王と呼ばれた男はぴょん、と塀から飛び降りると地面に転がっている功を持ち上げた。



「帰んぜ。」

「っつーか怜王、ええの?勝手に出てきたりして。」

「何が?」

「何が?ちゃうわ!アンタがボスの許可なしに歩き回ったりしたら…」



明鈴はこれから起こるであろう事を想像して若干うんざりとした。

しかし当の本人はそんなこと全くお構いなしである。



「良いんだよ。八神の心配性なんて今に始まったことじゃねーし。」

「対アンタに対してはあの人‥見境あらへんからな…」

「八神は俺を愛してるからな。ま、さすがにあの過保護ぶりには頭がいてーけどよ」



見た目だけならばまるで何処ぞの優等生なのだが口は頗る悪い。

もちろんボスへ対してもその態度は変わらない。

それもどうかと明鈴は思っていたが、ボス自身が容認しているならば仕方がない。

実際のところ、ボスと怜王の間にどんな関係があるのか明鈴は知らない。



「あ、明鈴」

「何よ?」

「一応さ、(サソリ)付けさせれば?」



蠍、というのは明鈴が所有する追尾型のペットだ。



「ボスからそんな指令は出てへんけど?」

「頭回ってねーんだよ、八神は。俺が報告するし追尾くらい問題ねぇよ」

「ま、うちはええけど。」



明鈴が掌を上に向けると、そこから砂が溢れだし手の上に小さな山を作り出す。

それが風によってさらさらと落ちるとそこには小さな蠍が現れた。



「紅明、行っといで。」



明鈴は軽くその背に口付けると蠍をそっと地面に置く。

ギチ、と長い尻尾を一振りすると『紅明』と呼ばれた蠍は先程まで明鈴が居た方へ歩いていった。


まるでそれを見計らったかのように突如明鈴のポケットの中にある携帯がけたたましく鳴り響く。

画面を見ずしても掛けてきた相手が分かり、明鈴は取り出した携帯を開くことなくそのまま怜王に投げた。



「ボスから。」

「あー…めんどいなぁ…」

「泣いてるんちゃう?はよ出てあげたら?」

「っち…」



嫌そうな顔をしながらも怜王は電話に出た。

恐らく電話の向こうで必死であろうボスと、それを面倒臭そうにあしらっている怜王。

その姿を見て明鈴は思わず溜息を吐き出した。


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