37:過去(黒星)
「鍵は二つです…一つは俺達が双子を止めること。」
「そしてもう一つは、…お前らが黒幕である凪を倒すこと。」
「でも…どうやって…俺達は何の力も…」
「それは、コイツの力を使うんだ…」
怜王の手が瑞樹の背中を押す。
「コイツなら相手の力を押さえ込める。そこにしか、勝機はない…」
「私が…出来る事なら、何でもするよ。それで救えるなら…」
「正直、そんなに甘いモンじゃねぇ…勝率0%が1%になるくらいだ。それでも、やるか?」
「…勿論!」
――0じゃないなら良い。私は諦める気はない
そう言って水無瀬と対峙していた背中を、狩谷は思い出した。
真っ直ぐ、凛と背筋を伸ばして立っていたその後ろ姿を。
何時も瑞樹はそうだった。
何時も何かに傷つき、怯えている目をしているくせに。
周りが不安になった時には、強い力を持ってそれを払拭する言葉を吐く。
本当は一番泣きたいのは瑞樹の筈なのに。
狩谷は噛んでいた唇をほどいて小さく息を吐き出した。
そして見上げてくる視線に優しく微笑む。
「言っただろ?俺は何があってもお前を支えるって。」
「ヒロ君…」
「お前が諦めない限り、俺も諦めない。一緒に戦ってくれるか?」
「うん!」
「決まりだな」
怜王が手を差し出す。
「掴め。そうすりゃ俺の思念が見える…この世界起きた事全て…な。」
「わかった…」
戸惑いながらも、瑞樹と狩谷は差し出された手をそっと掴んだ。
その手に触れた途端。
二人の視界が急速に白んでいった。
見えてきたのは人気の無い公園。
二つの人影が見える。
「何ですか?こんなところに呼び出して…」
「や、今日こそは返事貰おうかと思ってよ。」
「今更…返事なんて要りますか?俺には怜王が必要です…だから別に…」
「それでも、俺は八神の口から聞きてぇの!」
それは、学生服に身を包んでいる怜王と八神だ。
どうやら二人の過去を見ているらしい。
しかも、精神と肉体が入れ替わる前の二人だ。
「俺は怜王とずっと一緒に居たいです…」
「…八神…」
「好き、ですよ…」
顔を赤くしながら、八神が呟いた。
怜王が、八神の眼鏡を外す。
その顔を上向かせゆっくりと唇が重なった。
触れ合わすだけのそれは直ぐに離れる。
その時、八神達が立っている位置の右側にある入り口から声が近付いてきた。
二人は慌てて身を離す。
「待ってってば!凛子ちゃんっ!」
「何時までついてくるつもり…?」
「凛子ちゃんが一緒に帰ってくれるまで!」
凛子が振り返る。
さらり、と漆黒の髪が流れる。
長めの丈にされたスカートも同じように風を受けて揺れた。
「毎日、懲りないのね…」
「凛子ちゃんの事好きだから。」
「その言葉は聞き飽きたわ。私は…」
「『あなたみたいな人間信用出来ない』でしょ?」
分かってるよ。と功が続けた。
凛子は功の寂しげな表情に、少しだけ眉を顰めた。
「分からないわ…あなたの考えてることは。」
「だって凛子ちゃんいつも悲しそうな顔してるから…好きな子の悲しそうな顔見たくないよ。」
思わず凛子の顔が赤く染まる。
それを見て、功は嬉しそうに顔を崩した。
「やっぱ凛子ちゃんは可愛いね!」
「馬鹿ね・・」
屈託無く笑う功に、凛子も釣られて笑った。
そして怜王達を挟んで、凛子たちとは反対側の入り口にまた人影が揺れた。
瑞樹と狩谷も今度はそちらに視線を向ける。
「ちょ、霧矢!アンタなぁ…警察騒ぎ起こすなや!」
「俺に絡んできたアイツらが悪い。」
「まぁ、それはそうやねんけど…」
「先に逃げればよかったじゃねぇか。」
霧矢が公園に駆け込む。
どうやら話の内容からするに、警察に追われているようだ。
霧矢に続いて明鈴も公園へと踏み込む。
その瞬間だった。
八神の足元から上った光が公園へ踏み込んでいた5人を飲み込んでいく。
そのまま6人の姿は公園から掻き消えた。
(これは…)
(同じだ…俺達が教室で起きたことと…)
場面が切り替わる。
まるで瑞樹達と同じだった。
神社に連れて来られ、凪達から話を聞く6人。
白星と黒星の話を聞かされ、自分達が白星であることを告げられる。
そして元の世界に戻るために黒星を倒す事を勧められ戦う決意をする。
そして6人は黒星と呼ばれる集団と戦う。
一人一人消えていく仲間。
「凛子ちゃん!」
「っ、功!!」
伸ばした手は炎に引き裂かれ、血飛沫をあげる。
「っち、」
「霧矢!!」
切り刻まれた身体は奈落の谷に落ち、砂に埋もれる。
そして最期に残ったのは八神と怜王の2人だけ。
繋がれた手を引き裂いたのは…
「お疲れ様、八神さん、怜王さん。」
「お前…ら…!」
「もう諦めたら?」
ククリ刀を構える双子とその後に佇む凪。
繋いだ手を指ごとククリ刀で切り離され、赤い飛沫が飛ぶ。
蹲る八神に怜王は駆け寄る。
しかしその足元も払われて怜王は床に倒れこんだ。
「中々、面白かったですよ。人間にしては、楽しませていただけました。」
「八、神…っ!」
「もう少し。君達と遊びたいですね…」
凪の手が怜王の髪を掴む。
苦しげに呻く怜王に向けられる穏やかな笑み。
「蒼、翡翠。お前達の力を少し彼らに分け与えてあげなさい。」
「!」
倒れている八神に翡翠が近づく。
怜王の目が見開かれた。
「八神に…っ、触んな!!」
「驚いた。まだ動けるのですか…」
「師匠下がって…」
蒼の手が怜王の頭を掴む。
蒼い光がその身体を包み込んだ。
「君達の仲間も今一度蘇らせましょう。ただし、黒星として…」
視界の端で翡翠が八神に手を翳しているのが見えた。
緑色の光が八神を包む。
「これから私達の同胞が新しい白星を連れて来るんです。」
「八神…っ」
「もし彼らを倒すことが出来たら、全員元の世界に戻して差し上げますよ。」
もう殆ど怜王にその言葉は聞こえていなかった。
必死に八神へ手を伸ばす。
一瞬でも長く傍に居るために。
「ふぅ…どうやら聞こえていないようですね…」
「了…ッ、」
「まぁ良いでしょう。貴方達の役目は同じ…」
視界が暗くなっていく。
八神の指の無い手を怜王が掴む。
最期まで隣に居たいと、それだけを願っていた。
「ねぇ、師匠…コイツらちゃんと戦ってくれるかな?」
「大丈夫ですよ…記憶を一部書き換えます。」
「あとは透兄が上手くやってくれればね。」
「やってくれますよ。大きすぎる人質が此方にはありますからね…」
薄く笑うと、3人は神社へと消えていった。
朽ちた身体に再び魂が宿る。
身を焼いた業火を吸収し、凛子が。
飛び散った飛沫を取り込んで、功が。
飲み込まれた巨大な影を従え、霧矢が。
生き埋めにされた砂を纏い、明鈴が。
そして蒼と緑の炎を宿した魂は肉体を入れ替えて蘇った。
(それで2人は…入れ替わったんだ…)
再び意識が白む。
目の前には怜王が立っている。
瑞樹は掴んでいた手をゆっくり離した。
「怜王…さん。」
「同情はいらねぇ。俺もお前らを本気で殺すつもりだったからおあいこだ。それに…」
怜王が笑った。
「お前らに会って俺は記憶を戻せた。だから感謝してる…」
その目は何度となく見てきたものと同じだった。
死を覚悟し、立ち向かおうとするものの目。
「なぁ白星…俺達は、何の為に出会ったんだろうな…」
「…」
「俺も八神も凛子、明鈴、霧矢、功も俺達は一度死んでる。」
怜王の頬を涙が滑り落ちる。
何も言わず隣に居た八神がその手を握った。
「生きる為…」
「白、星…」
「一緒に生きる為に、私達は出会ったの。だから、生きる事を諦めないで…!」
瑞樹の言葉に怜王と八神は顔を上げる。
強い光が放たれた瞳が真っ直ぐ2人を見つめていた。
怜王と八神は繋いでいた手にお互い力を込める。
「生きる…か、そんな事忘れてた…」
「まさか敵だと思ってた君に思い出さされるとは…ね」
繋いでいた手が離される。
八神と怜王はそれぞれ構えた。
「行け。此処は引き受けた。」
「お互い生きて、会いましょう…」
「うん!」
「頼む…!」
2人は再び走り出す。
生きる為に。




