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FIVE  作者: AkIrA
36/42

36:絶望

残酷な表現あります。

いなくなる。


また一人…

また…



それでも前を向いて走って行かなきゃならない。



例えそれがどんなに辛い結果を招こうとも。
















「ヒロ君!あそこ見て!」

「!」




5分ほど走り続けて、それは見つかった。


薄い青緑色の大きな球体。

そしてその中に揺らめく二つの人影らしきもの。




「あれが…」

「あぁ…きっと北森が言ってたヤツだ…」




揺らめく二つの人影は、恐らく八神と馬渡だろう。

とにかく、彼らを解放しなければならない。



しかし近くで見ても、それは完全な球体で開けれそうな場所はどこにも無い。

だがこれを開けないと、二人を解放する事は出来ないのだ。




「どうしたら良いんだ…」

「私に任せて」




途方に暮れる狩谷を制し、瑞樹が一歩前に出た。




「さっき…北森君に言われたでしょ?」

「…反作用の力ってヤツか?」

「うん。それ、結界に対しても有効なんじゃないかな…」

「やってみる価値はあるか…」



こくり、と瑞樹が頷く。

狩谷は一歩瑞樹から離れた。





それを確認すると瑞樹はその球体にそっと手を置いた。


瞬間、大きな力の波が通り抜けるかのような感覚が瑞樹を襲う。

はね除けられそうになる手を押さえ込み、触れている部分に瑞樹は力を集中させた。





瑞樹が触れている部分の色が徐々に薄くなっていく。




「お願い…開いて!」




瑞樹が掌に一際力を集中させた瞬間。

結界がまるで風船のように弾けて消えた。


どさり、と二つの人影が重なり合って落ちる。

狩谷と瑞樹は二人が落ちてきた場所に急いだ。





折り重なるように倒れている二つの身体。

一人は言うまでもなく怜王で。

もう一人は…




「八神…了、」




自分たちと敵対していた集団の頭だ。

瑞樹はその身体に近付き、そっと揺すってみた。

隣では同じように狩谷が怜王を起こしている。


その時、伏せられていた八神の瞼が揺れた。

ゆっくり、その瞳が露になっていく。

深い、ダークグリーンの瞳に瑞樹は思わず息を飲んだ。




「君は…?」

「私は…瑞樹蓮。」

「君が、そうか…じゃあ…」




途端に鋭い風の刃が瑞樹を襲う。

慌てて距離を取るも、刃を纏う八神の手は瑞樹の目の先に迫っていた。

避けきれない事を悟り、瑞樹は思わず目を閉じた。


しかし、何時までたっても想像するような衝撃はやってこない。

恐る恐る、閉じていた目を開けると…




「待て、八神…」

「怜、王…何故?」

「落ち着け。敵じゃねぇ…」

「白星は敵でしょう…?何故…今更敵じゃ無いなんて…」





言い募る八神の肩を、怜王がそっと撫でる。

ゆっくり、言い聞かせるように。




「八神、敵を見誤るな。コイツらに俺達は助けられたんだ…」

「…」

「今、コイツらと戦えば黒幕の思うつぼだろうが」





八神がゆっくり瞳を閉じる。


怜王は八神に嘘を吐くような人間ではない。

信じがたい話ではあるが、それはきっと真実なのだろう。




「わかりました…怜王の言う事なら信じます。」

「ありがとう、八神。」





怜王が瑞樹と狩谷を振り返る。

同じ様に振り返った八神の目には、先程のような殺気は感じられなかった。




「少し話、良いか…?」

「矛盾、の続きか…」




狩谷が頷く。

それを見て、怜王は小さく息を吐き出しその場に腰を下ろした。

視線だけで促され、瑞樹と狩谷もその場に座り込んだ。




「お前ら2人だけ、か…此処に来たって事はもう奴らは動き始めたのか?」

「奴ら、って凪さんと蒼と翡翠か?」

「あぁ。」




狩谷は一度目線を地面へと落とした。

怜王に肯定された事で、裏切られたという事実をますます浮き彫りにされたのだから。

心の何処かに残っていた淡い期待はあっさりと打ち破られる。

もう、覚悟を決めなければならないのだ。




「蒼と翡翠は、今…晋と北森が引き止めてる。」

「北森君が、貴方達を解放しろ…って。そうすれば…道が開けるから、って…」




怜王の目に戸惑いが映る。

八神も何処か居心地が悪そうに視線を彷徨わせた。




「道…ですか…」

「八神さん…何か分かるの…?」




瑞樹の問いに八神は口を噤む。

暫くの間があって、視線を合わせないまま八神が重い口を開いた。




「俺達を解放したのは、蒼と翡翠を止める為、でしょう…」

「え…」

「俺達があの妖弧達を封印する術を持っているから…」




瑞樹の唇が震える。


八神の言葉が事実だとすれば。

それが、北森の言っていた『道』だとすれば。




「じゃあ…北森君は…水無瀬君は…」

「彼らじゃ奴らを倒すことは出来ない。残念ですが、もう…」




その先の言葉は容易に想像がついた。

ぐらりと揺れる視界。

目の前が真っ暗になったかのような錯覚に陥る。

倒れそうになった瑞樹の肩を隣に居た狩谷が辛うじて抱き止めた。





「瑞樹…」

「もう、嫌…何で、」

「泣き言言うんじゃねぇよ、白星。」




怜王の鋭い相貌が瑞樹を捕らえる。

視線を逸らそうとすると、反対側から伸びてきた八神の手によってそれは引き戻された。





「全ては始まってる。もう引き返せねぇところまでな。」

「全てを話します。だから、貴方達が全て終わらすんです。」





吸い込まれそうなダークグリーンの瞳。

それは、有無を言わさない力を持って瑞樹を引き込んだ。






























































辺りは一面血に染まっている。

蒼と翡翠はその中心に佇んでいた。


それぞれの足元には、さっきまで戦っていた相手が転がっている。

まだ辛うじて息は有るようで、背中が小さく上下しているのが見て取れた。





「結構、しぶといね。人間の癖に…」




翡翠が爪先で、水無瀬の顎を持ち上げた。

荒い息を繰り返す苦しげな表情が顕わになる。




(マジ…強ぇ…化けモンかよ…)




身体に力を入れようとしても、最早指一本動かすことすらままならない。

そのまま顎を蹴られ、水無瀬の身体は上向きに転がされる。

転がった水無瀬の喉元を翡翠が冷酷に踏みつけた。




「此処まで長持ちしてくれると、ちょっと殺すのが惜しくなっちゃうよね、蒼。」

「ほんとだね、翡翠。」




その時蒼の目の前に倒れていた北森が、手を地面に付いて立ち上がった。

足元は覚束ないが、それでも何とか構えてみせた。

その様子を蒼が嬉々として眺めている。



「さっすが、透兄!」

「その、足を、退けろ…」

「何で?」

「俺の仲間だからだ…!」




その言葉に蒼と翡翠はほぼ同時に顔を顰めた。





「聞き捨てなら無いよね…その言葉。」

「透兄は俺達の仲間だよね…?」

「裏切るの?」

「俺達を裏切るなら、透兄なんてもう、要らない。」





蒼と緑の瞳が冷たい色を放つ。

竦みそうになる殺気をものともせず、北森ははっきりと言葉を紡いだ。







「俺も、お前達なんか要らない…直を奪い、俺の仲間を傷付けたお前達なんか…」






言い終わる前に、蒼の手が北森の喉を掴んだ。

そのまま力任せに地面へと縫い付けられる。


気管を押さえ込まれ、北森の呼吸が止まる。

半開きになった口元から苦しげな呻きが漏れた。






「残念だよ、透兄…透兄なら、分かってくれると思ったのに…」

「透兄だって、散々人間達に酷い目に合わされてきたじゃないか…なのに、どうして…」

「…っ、おが、…居た、か…ら…」





北森の視界が暗く染まっていく。

それでも気持ちは何処か穏やかだった。

愛する幼馴染と同じ場所に行く事が出来るのだから…





「直、直…透兄はいっつも直サンの事ばっかりだ…」

「あい、つ…居た…か、…俺…は、生き…れた…」





蒼の手に益々力が入る。

頚骨がみしり、と嫌な音を立てた。

しかし、低酸素により脳が麻痺している所為か痛みは余り感じなかった。





「き…た、もり‥ッ!!」





水無瀬の声が遠くで聞こえる。

どんどんブラックアウトしていく意識の中、北森は一筋の光を見た。









―― 透…、ごめんね…





(直…なんで、お前が謝る…俺がお前を信じなかったから、こんな事になったのに…)






―― 僕が、もっと強かったら…





(もう、良い…お前が俺と共に居てくれればそれで…)





―― ずっと、一緒だよ…

















伸ばした手が、空を切る。

北森の手はそのまま地面へと落ち、首ががくりと上向いた。


血の気の抜けた顔。

それを水無瀬が確認する間もなく、北森の身体が光に包まれ霧の様に掻き消えた。

















呆然とする水無瀬の前に2つの影が歩み寄る。





「次は、アンタだ…」

「蒼、こっちは俺が止め刺すよ。」





翡翠の手が翳されたと思うと、次の瞬間水無瀬の胸から血が噴出した。

何が起きたのか理解できないまま、水無瀬の身体は後ろへ吹き飛ぶ。

その身体は地面を数メートル滑り、動きを止めた。





「っ、かは…ッ‥」

「反射神経は良いみたいだね…」





血が滴る右手を、ぺろりと舐めて翡翠が笑う。

水無瀬が胸に手をやると、皮膚と肉の一部が抉り取られていた。

少しでも身を引いていなければ、確実に心臓を持っていかれていただろう。





「随、分…悪、趣…味な、殺し、か…た…選んで、くれ…じゃねー…か、」

「慈悲深いと言って欲しいね。一撃で死ねる方法を選んであげたんだから。」





再び翡翠の手が翳される。

今度はその5本の指が全て水無瀬の胸に突き刺さった。

声を上げる間もなく、その指が水無瀬の心臓を掴む。





「なかなか、楽しかったよ…水無瀬さん。」

「ぁ…が…」

「でも…バイバイ。」





真っ赤な鮮血が迸る。

赤く染まる視界の端に、翡翠が赤い塊を持っているのが見て取れた。


急速に遠くなる意識。

水無瀬の脳裏に狩谷の悲しげな顔が浮かんで、消えた。




















「行くよ、翡翠。まだネズミが残ってる。」

「師匠に辿りつく前に処分しなきゃね。」




双子が走り去った後。

そこには血の海だけが広がっていた。


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