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FIVE  作者: AkIrA
33/42

33:狩谷VS怜王

水無瀬の身体に糸が巻きついて、その身体が持ち上がる。

怜王が翳した手を握り、巻きつく糸を締め上げようとしたその時。




「…!」



ざ、と糸が何かによって切り離された。

ぱらぱら、と切り離されたそれらは空に舞い消える。

支えを失った水無瀬の身体が、どさりと地面に落ちた。

怜王は顔を上げて、妨害を行ってきた人物を見据える。




「無事だったのか…」

「まぁな…」




其処には先程仕留めた筈の狩谷が立っていた。


どうやって抜け出したのか、だとか。

何故傷一つ無いのか、だとか。

そんな事は怜王にとってさしたる問題ではなかった。

そんなもの白星の力があれば何とでも説明がつくのだから。

問題は…




「お前、俺の糸を切ったな…」




その一点だ。

怜王の糸を切ることが出来たという事は…




「あぁ。お前の属性は何となく理解した…いや、守護者全体の属性ってヤツかな…」

「やっぱりそうか…お前中々、頭がキレるみたいだな」




降参、だとでもいうように怜王は両手を持ち上げた。

そんな怜王を真っ直ぐ見据えながら、狩谷は自らの手に力を集中させる。




「ただ、俺の憶測で行くと矛盾が生じる…」

「だろうな」

「それが…お前の言っていたこの世界の矛盾か?」




にやり、と怜王の口元が笑みの形に歪んだ。

上げていた手を胸の前に突き出し、攻撃の体勢へと入る。




「知りたきゃ、俺を倒してみな。さっきの約束はまだ有効だぜ?」

「言われなくてもそうする。」




狩谷が腕を胸の前でクロスさせる。

すると青色の炎が発せられ、狩谷の身体を包んだ。

その色は深く澄んでいる。

先程までの水自体を利用する力の使い方とは違う。




「は!」




一瞬で怜王の間合いに入り込み、掌底をその胸に叩き込んだ。

後へ飛ぶことでダメージを軽減させたものの、その衝撃に息が詰まる。

吹き飛ばされながらも怜王は狩谷に向けて右手から糸を放つ。

反対の手で背後にネットのような糸を張り、飛ばされた身体を受け止めた。




「…なるほどな、お前の憶測は間違ってないって事だ。」




放たれた糸を右手で受け止めている狩谷。

さっきの様に腕が切れることは無い。

纏う炎がそれを阻んでいるようだ。




「お前も瑞樹も、俺らと力の使い方が違った。同じ様に出来んのかと思ってやってみただけだ。」




瑞樹の傷を癒す力。

怜王の糸を自在に操る力。

そのどちらも狩谷の水や武器を呼び出したりするものとは何処か違った。

自分に見えない力が何か働いているかのような違和感。

その力がもしかしたら自分にもあるのだろうかとふと、思ったのだ。




「なるほどな、白星のお陰か…」

「お前の属性は糸じゃない…そもそも属性の種類が存在するかも怪しい。」




狩谷が糸の巻きつく手に力を込めると糸が弾け飛んだ。

それを見て怜王は楽しげに笑った。




「敵ながら見事だぜ。」




怜王の瞳が再び紅く染まる。

その身体を包む赤い炎がはっきりと見えた。

恐らく先程は見ることすら叶わなかった怜王の本当の力だ。





「今なら見えんだろ?」

「はっきりとな、」

「もう一回確認だ。俺に勝ったら、俺の命をやる。この世界の矛盾ってヤツも教えてやるよ。そのかわり…」





怜王の指先が狩谷の胸を指す。





「お前が負ければ、お前と、そこに転がってる水無瀬の命を貰うぜ?」

「させねぇよ!」





ほぼ同時に二人が動いた。

紅く強暴な炎と、蒼く静かに燃え滾る炎がぶつかり合う。


飛び道具などは使わない肉弾戦。

お互いの急所を狙い、炎を纏った拳や蹴りを容赦なく叩き込む。


紅と蒼の炎が明滅する。

一瞬の隙を突いて怜王が狩谷の足を払う。

狩谷の体勢がぐらりと揺らいだ。

それを怜王が見逃すはずが無い。




「喰らえ!」




怜王の掌から赤い炎が放たれる。

一瞬で狩谷の身体は炎の渦に飲み込まれた。



炎が通過した後には、ぼろぼろになった狩谷が辛うじて立っていた。

服は焼け焦げ、皮膚も所々赤く爛れている。

咄嗟に水を呼び出しシールドを作ったが、不完全だった為だ。






「中々、粘った方だぜ?そろそろ楽になったらどうだよ?」

「負け…る訳には、いかねぇ…」





再び狩谷の身体を蒼い炎が覆う。

しかし、それは先ほどに比べると随分弱々しい。





「その炎は生命力の表れだ。怪我したり傷ついたりすりゃ、力は弱まる。」



(生命力…?って事は…)





怜王の言葉に狩谷は顔を上げる。


それは単純な方程式だ。

生命力が炎の力に比例するのならば。



狩谷の目が見開かれる。

纏う炎が急に大きく燃え上がった。




「命を使えば、強く出来るって事だよな?」

「馬鹿も極まれりだな…自殺するようなもんだぜ?」

「その前にお前を下せば良いだけの話だ。」




数度深呼吸をして息を整える。

再び狩谷が地面を蹴って、殴りかかった。


炎を纏う拳が怜王の頬を掠る。

その瞬間、怜王の身体は吹き飛ばされ地面を滑った。


間髪入れずに狩谷はそれを追う。

そして蒼く光る拳を振り翳し、怜王の鳩尾に振り下ろした。

衝撃で地面が大きく陥没する。




「がっ、は…」




怜王の口から血が吐き出される。

数度痙攣した後、怜王は意識を失った。




「やった…か…」




怜王が動き出す気配はもう無い。

それを確認して狩谷も自らを覆っていた炎を解く。


急速に襲ってくる脱力感。

逆らう事も出来ず、狩谷はその場に倒れこんだ。














































「ぅ…」



目が覚めると、もう見慣れてしまった天井が視界に入る。

痛みに軋む体を起こそうとするが何かに阻まれて上手くいかない。

狩谷は視線を自分の胸の上に落とす。


其処には自分の腹に覆い被さるように寝ている瑞樹の姿があった。

その頬には幾筋もの涙の痕がある。


泣かせてしまったな、と狩谷は少し後悔した。

涙の痕を辿るように指を滑らせる。



「ごめんな…」



小さく瑞樹が身じろぐ。

起こさないように、と狩谷は出来るだけゆっくり上体を起こした。

何とか起こさず座る事に成功する。


起き上がって自分の身体を見る。

大きな傷は殆ど閉じていた。

恐らく寝ている間に瑞樹が治療してくれたのだろう。




「大分、無理させたみたいだな…」




瑞樹の髪を撫でる。

それだけで気持ちが凪いでいくのを狩谷は感じていた。



「う、ん…」



小さく呻く声。

そこで漸く狩谷は自分の隣で寝ている人物がいる事に気がついた。


其処に居たのは紛れも無く先程まで狩谷と戦っていた相手。




「馬渡、怜王…」

「っ…かり…や…?」



怜王が身を起こす。

狩谷に受けた傷は粗方治っているようだった。

きっと瑞樹が治療を施したのだろう。




「完敗…だな…助けられるなんて、情けねぇぜ…」

「お前の命は別にいらない…この世界の矛盾ってヤツを教えて欲しい…」

「…約束だった、な。良いぜ…」




自嘲気味に怜王が薄く笑った。

そして、語りだす。





「まずは…前置きだ。」

「前置き…」

「そう…黒星は俺だ、という事だ…」

「な…!」





予想だにしなかった発言に狩谷は言葉を失う。

それに構う事無く怜王は続けた。





「正確には、八神了が俺ってコトだ。」

「混乱しそうだ…お前は馬渡怜王じゃないのか…?」

「精神はな。だが肉体は八神了だ…お前らが黒星と思っているのが馬渡怜王の身体に入った八神了なんだ。」

「つまりは、八神了と馬渡怜王は精神と肉体が入れ替わってしまっているという事か?」

「そういう事。ま、面倒くせぇから今までどおり馬渡怜王でかまわねえよ。」





頭の痛くなる話だ。

狩谷は右手で自分のこめかみを軽く抑えた。





「何でそんな事に…」

「そこがこの世界の『矛盾』じゃねぇか。」





にやり、と怜王が笑う。





「本来、黒星になる筈だった俺が守護者になった。」

「それは偶々…」

「そう、偶々だ。っていう事は、黒星は誰でも良かったって事にも取れねぇか?」




そう言われるとそうかもしれない。

狩谷は考え込むように、顎に手を当てた。





「そうすると、黒星・白星なんて初めから無いようにも思えねぇ?」

「…」

「お前の感じてた矛盾は、自らの能力だろうがよ」

「…あぁ」





炎を身に纏い戦う、というのは教えられた能力には無かった。

怜王の戦い方を見て狩谷が考えた結果だ。

じゃあ何故自分はその能力を使うことが出来たのか。





「元々、この世界に属性を利用した戦いなんて存在しねぇ…」

「!」

「そうすれば、お前の感じた疑問も説明つくだろ?」





元々、自分達に属性なんて存在しなかった。

確かにそう考えれば狩谷が炎を身に纏って戦えた事にも説明がつくかもしれない。

しかしそう考えれば新たな矛盾が出てくるのだ。





「待てよ!そうしたら…」

「想像通りだ。」





嫌な予感に背筋が寒くなる。


その時、怜王ががばっと顔を上げた。

その表情は先程までとは違い、硬く凍り付いている。




「っ、八神…!」

「おい…」

「続きはまた今度だ…!」




怜王が襖を開けて外に飛び出す。

何かを感じ取ったのかも知れない。



呼び止めることも出来ず、狩谷はその背中を見送った。

頭の中では怜王から語られた言葉がぐるぐると回っている。

はじき出された答に、狩谷は一人頭を抱え込んだ。


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