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FIVE  作者: AkIrA
29/42

29:交錯

BL的表現アリ

疲弊して、眠りに落ちた身体。

それを直はそっと横たえ、自分の膝へ頭を乗せるようにした。

どれくらいそうしていただろうか。

不意に名を呼ばれ、直は顔を上げる。


ゆったりと振り返ると、そこには北森が立っていた。

北森は身を屈め、無言で瑞樹の肩の下と膝の裏に手を差し入れ抱き上げる。

直はその動きをただ視線だけで追っていた。

それに気付いた北森が一言だけぽつりと洩らした。




「風邪ひく。」

「ん…」




頷いた直を確認した後、北森は歩き出す。

そのまま寝室まで二人の間に言葉は無かった。

瑞樹を布団に横たわらせ、そこで漸く口を開いたのは直だった。




「透…岡、野君は…」




聞き辛そうに搾り出された問いに、北森は一言「わからない」と返した。

曖昧な答えを気にするでもなく、直は言葉を続ける。




「また…戦わなきゃいけないのかな…」

「直は…それを望まないか?」

「そりゃ嫌に決まってるよ…」

「そうか」




北森の口元が僅かに笑みを形どる。

ほんの僅かな変化だったが、それを直は見逃さなかった。

直の表情が俄に厳しくなる。




「何…考えてるの?」

「……」

「僕を戦わせない算段でもしてるなら願い下げだよ」

「直は戦いたくないんだろ…?」




ぐ、と直は唇を噛み締める。

北森の指が伸ばされて、その輪郭をそっとなぞった。

まるで慈しむような指の動きが余計に直を苛立たせる。




「戦いたくないよ…」

「なら俺が戦…」

「違う!」




北森の手を直が払い除ける。

それは初めて見せる直の拒絶。

払われた手に北森は視線を落とした。




「確かに戦いたくないよ!でも…透が傷つくのはもっと嫌だ!」




握り締められた直の手は小刻みに震えている。

北森の眉間に僅かに皺が寄った。

しかし直ぐに湧き上がる感情を押し込め、無表情を作り出す。




「俺は直に傷付いて欲しくない。その為なら何だってする。」

「おかしいよ、そんなの!僕は透にそこまでしてもらう義理は無い!」

「お前はもう十分傷付いた。これ以上お前が傷付く必要は無い。」

「そんなの透の自己満足だろ!?透がっ…腫れ物に触るみたいな扱いをするから!だから…っ!」





北森は口を噤む。

相変わらず無表情ではあったが、何処か苦しげな雰囲気を醸し出していた。

直もそれを感じ取ってはいたが、一度口に出してしまった言葉はもう取り消すことは出来ない。




「だから僕は…何時までも透に負い目を感じる…」

「……」

「透に…、…っ!」




思わず言い掛けてしまった言葉を直は必死に飲み込んだ。

真っ直ぐ見詰めてくる北森の瞳に居心地が悪くなる。

直は堪らずその場から逃げ出した。



それを追い掛けようと北森が一歩踏み出す。

しかしそれは何かによって阻まれた。




「端樹…」

「駄、目…」

「何故?」

「直くんが、きっとそうして欲しくないから…」




軽く服の裾を掴まれているだけなのに動くことが出来ない。

北森は暫く直が出ていった方を見ていたが、やがて端樹に視線を落とした。




「直を護るのが俺の役目だ」

「どうして…?」

「…理由なんて無い。俺が勝手にそう誓った」




端樹が瞳を伏せる。

先程まで泣き叫んでいたとは思えないほど、その姿は凛として其処にあった。





「…私には直くんが其処まで護らなけりゃいけない程弱い人には見えない。」




端樹のその言葉に北森は動きを止める。

暫く間があってから、北森の視線が上げられた。




「確かに俺の自己満足だ…でも俺にはそれしかない」




白くなるほど握り締められた掌に端樹が触れる。

北森の表情が微かに和らいだ。




「そうでないと…俺が直の隣に立つ意義が無くなる」





絞り出すように吐き出されたその言葉に端樹が顔をしかめる。

それは直の幼馴染みである筈の北森が、言うような台詞ではない。

まるで理由が無ければ直の隣には立てないと言っているようなものだ。




「何で…?」

「直を護る…そう言える間はアイツを傷付けなくて済む」




其処で一旦言葉を切る。

暫く悩んだ後、北森は重い口を開いた。




「俺が…直を愛してるから」

「だったら…!」

「俺の想いはアイツの心の傷を抉る…だから俺はこの想いを伝えない。アイツを護り続ける楯になると、そう決め…」

「北森くん!」




瑞樹が静かに首を横に振る。

その目は北森を通り越し、その向こうをじっと見つめていた。

その視線を追うように北森は目線を動かしていく。

其処に立っていたのは出て行った筈の直だった。




「な…お…」

「透…今のって…」




北森は一瞬戸惑うように目を伏せたが、直ぐにその視線を戻した。




「言葉の通りだ。俺はお前の楯になる…」

「違う!その前…」

「…」




直が求める言葉は明確だった。

しかし北森にとってその言葉を直に伝えることは本意ではない。

結果、北森は黙り込むしかなかった。


その時。

押し込められた想いを吐露させるかのように、そっと端樹の手が北森の背中を撫でた。






「俺…は…お前を……」






詰まる言葉。

北森の顔色は蒼白で、冷汗が頬を滑り地面へと落ちた。


一歩、直がそんな北森へ歩み寄り手を伸ばす。

頬にその指先が触れた瞬間、びくりと大袈裟なほどに北森の肩が揺れた。









「透…」








懇願するような直の声色。

北森は震える身体を自らの手で押さえ込み、直へと視線を合わせた。

そして覚悟を決めたかのように、口が開かれる。









「俺は…お前を、愛してる…」

「透…」

「すまない。俺の想いはお前を汚すと分かっていたのに…それでもお前を、俺は…!」




 



それは悲痛さをもって響く。

同じように、直も何かを堪えるかのような表情で北森を見詰めていた。




「…僕は…汚ない…透に愛して貰える人間じゃ…ない」

「そんな事は…」

「無い?」




直の口元に浮かぶのは自嘲的な笑み。

北森は言葉を詰まらせた。




「透は全て知ってる癖に…それなのに僕に優しくする。だから僕は…」




其処で一旦言葉を切り、直は端樹に視線を移した。

そして今度は身体ごと端樹の方へと向き直る。




「蓮ちゃんはさ…知りたい?僕の過去…」




直の言葉に瑞樹は黙り込む。

長めの睫が伏せられ、その表情に影を落とす。

暫くの間沈黙が続き、瑞樹の唇がゆっくりと動いた。





「私は…直君にとても感謝してる」

「感謝…?」

「私を、助けてくれた。直君が私を友達にしてくれたから、私はこうして此処に在る…」





岡野、狩谷という恋人、友人と呼べる人物は居たが、その反面瑞樹は女子から常に嫌がらせを受け続けていた。


他人から向けられる悪意。

それが徐々に瑞樹の心を蝕んでいく。



クラス替えした教室。

やはり一人、爪弾きにされていた瑞樹に話し掛けてきたのは他でもない直だった。

直の存在が、瑞樹の世界を変えたのは確かで。


だからこそ、思うのだ。





「直君が私を救い出してくれたように、私も直君の力になりたい。」

「蓮ちゃん…」

「知って、どうにかできるかは分からない…けど…知らないところで全て終わってしまうのは悲しいよ…」







直にとって自分の過去は余り口に出して言いたいことではない。



それでも。

伝えたいと思った。



彼女なら、或いは自分を救ってくれるのではないか。

漠然と直はそう感じていた。






「僕も、キミには…知っていて欲しい…」

「直君…」





直が息を一つ大きく吸い込む。

そして端樹に真っ直ぐ視線を合わせた。


同じ様に瑞樹も真っ直ぐ、逸らす事無く直を見つめ返す。





「話すよ、僕の全て…」




重々しく、直の口が開かれる。

瑞樹はそれを聞き逃すまいと、その静かな声音に意識を集中させた。



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