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FIVE  作者: AkIrA
20/42

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「ん…ぅ、」

「あ、目が覚めたんだ」

「!!」



がばり、と身を起こす。

しかし体のあちこちが痛んでそれ以上動くことは出来なかった。



「ここは?」

「ここは神社の中、まだ傷完全には治ってないから動かないでね。」



にこ、と人の好さげな笑みを浮かべているのは白星である瑞樹だ。

自分たちの敵である人物に凛子は顔を顰めた。



「何で助けたの…?」

「何でって言われても…そりゃあ放っておけないじゃない…」

「私は貴方を殺そうとしたのよ?」

「そうしなきゃ、いけなかったんでしょ?」



端樹はゆっくりと凛子を振り返った。

まるで殺されかけた事などどうでも良いとばかりに。

『そうしなきゃいけなかった』、その一言で全てを許そうとしている。




「甘いわ…」

「甘くても良いでしょ、」

「敵に情けをかけても良い事無い…殺されても文句言えないわ。」

「あなたはもうそんな事しない」




そんな風に言い切る瑞樹に凛子は溜息を吐き出した。

お人好しにも程がある…

無防備に背を向ける瑞樹。

その背中に隠していたナイフを投げつけようとして上げた手を、凛子は少し躊躇ってから下ろした。




「功は…?」

「無事。北森君が付いてるわ。」

「そう…無事なのね…」

「会いに行く?」  



瑞樹が立ち上がり凛子の手を取った。

握られていたナイフが畳に落ちて刺さった。

それを見た瑞樹は顔色一つ変えず、凛子を見つめた。



「私を殺したい…?」

「貴方は私の敵だもの…」

「でもあなたは私の敵じゃない…」



そう言うと、瑞樹は凛子の手をしっかりと握った。

人の手を暖かいなんて感じたのは何時ぶりだろうか。

無条件に与えられる暖かさに凛子は目を閉じた。

その時…









「凛子ちゃん!!」

「功…」



あれだけの重傷を負っていたとは思えない程の動きで凛子に飛び付いてきたのは功だった。

功だけではない。

かなりの深手を負っていたはずの凛子の身体にも殆んど痛みは残っていなかった。




「何で…?」

「傷なら治したよ、これでね。」



端樹の右手が淡い光を帯びる。

その手が功の頬に一筋残っていた傷を撫でた。その手の動きに沿って傷が消えていく。

凛子はその光景に目を見開いた。



「貴方…」

「皆だけに戦わせる訳にはいかないから…って格好良い事は言えないけどね」



端樹がその力に気付いたのは偶々だった。


修行に没頭する守護者の5人はその度に怪我を作る。

守護者のダメージを同じように受けてしまう端樹が考えついたのは、受けるダメージを緩和する事だ。

直ぐに自ら負っていた怪我を治す事が出来ないかと試してみた所、血の滲む傷口を瘡蓋に変える事が出来た。

其処からその力を精練させ、守護者達のダメージを緩和・そして漸く受けた傷を治療出来るまでになったのだ。




「私達を…どう処分するつもり?」

「どうもしないよ。怪我してたから治した…それだけ。」



端樹は手を下ろし再び二人に背中を向けた。



「私、お茶淹れてくるね。」

「白星…!」

「その呼び方やめてよ…私は端樹蓮って名前があるの。」




白星、と自分を呼んだ功にそう言い残し端樹は部屋を出ていった。

敵陣の中に招き入れられた割には監視の様なものは一切付けられていない。

残された部屋の中で、凛子と功は顔を見合わせた。



「凛子ちゃん…どうする…?」

「…わからないわ…功はどうすべきだと思う…?」

「八神さん側に戻るなら、此処で白星の首を取れば良い…そうじゃないなら、俺もどうすれば良いかわからないよ。」



戻りたい、と願うのか。

その答えを導き出すには余りにも色々な事が有りすぎた。



「俺は…凛子ちゃんに選んで欲しい…」

「…また、傷付く事になっても…?」

「構わないよ。凛子ちゃんと居れなきゃ意味が無い。」




功の腕が伸びて、凛子を引き寄せた。

耳に届く功の心音に凛子の心が落ち着きを取り戻していく。


霧矢の深い闇の様な瞳に見つめられた時、もうこんな風に功と会話を交わせることは無いと思っていた。

まして、こんな風にこの腕の中に戻って来られようとは。




「暖かい、のね…」

「凛子ちゃん…?」



功の胸をそっと押し返す。

視線を上げ、訝しげな表情の功を見つめ返した。



「決めたわ…」



腹を据えた様に、落ち着いた凛子の声。

功はじっと、次に続く言葉を待った。



「私は、もう戦わない…」

「八神さんを、裏切るってこと?」

「でも白星にも付かないわ…」



そうすれば。

この戦いにさえ身を投じなければ、愛する人が傷つけられることは無い。

元の世界に戻ることも確かに重要なのだが、それ以前に功を危険に曝してまで戦い続ける意味があるのか…

今の凛子には答えは出せなかった。



「私がもう一度戦うとしたら、それは…貴方を護るときよ、功。」

「凛子ちゃん…」



功の頬を凛子の指がするりと滑った。



「聞こえてたでしょ、白星。」

「…うん。」



襖が開き盆を手にした瑞樹が顔を覗かせた。

香ばしいほうじ茶の匂いが部屋に立ち込めた。



「じゃあさ、此処に居たらどうかな?」

「白星…」

「だって外に出たら、また同じ様に操られたりしたら…」

「本当に…貴方って“ど”が付くお人好しね…」




苦笑した凛子に端樹は笑って見せた。

そして真っ直ぐと手を二人の方へ突き出す。

戸惑いながらも凛子がその手を握った。

凛子の手を包むように功も手を差し出した。



「改めて宜しく。私は端樹蓮」

「萌葱…凛子」

「中条功、」



握られた手をそっと離すと、端樹は立ち上がる。

見上げてくる2人に「ゆっくり休んで」とだけ言うと、そのまま瑞樹は部屋を後にした。





向かうのは、水無瀬の部屋。

先刻約束したとおり、水無瀬と霧矢の過去を聞く為だ。

そしてその部屋には既に水無瀬の幼馴染である狩谷の姿があった。

その姿を視界に納め、瑞樹はほっとしたように息を吐き出した。

そんな瑞樹に、水無瀬は少しだけ顔を顰めた。





「遅ぇ…」

「ごめんね、待たせて…」



窓際に寄りかかり煙草を蒸かす水無瀬に端樹は歩み寄る。

その横に壁を背凭れにして座る狩谷。

狩谷は水無瀬を見上げ、その表情を確認した。

何時もと変わらぬ表情でそこに立つ水無瀬。

しかし水無瀬が語ろうとしている内容を思えば不安を覚えずには居られない。



「晋…」

「んだよ…」

「良いのか…?」


声を掛けてはみたものの、そんな事位しか狩谷には言えなかった。

何処か浮かない表情のままの狩谷を見遣り、水無瀬は苦笑しながら煙を吐き出した。



「良いんだよ、」

「そうか…」



これから語ろうとしている事は恐らく水無瀬にとって、思い返したくも無い出来事だろう。

それを敢えて端樹に露見しようとしているのだ。

今まで決してそんな事をしようともしてこなかった人間が、だ。

良い、と言い切るだけの理由を瑞樹の存在に見出したのだろう。

狩谷はそれきり言葉を飲み込んで水無瀬の言葉に耳を傾けた。




「さて、と…まずは昔話からいこうか。」

「わかった…」




にやり、と水無瀬が笑う。

しかしその笑顔はどこか寂しげな色が含まれていた。


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