2:6人
「おっはよー!蓮ちゃん!狩谷くん!」
「おはよ、ナオくん」
「っす、」
教室に入ると千切れそうなくらい手をぶんぶんと振る男子生徒が目に入った。
男子生徒の名前は仙崎直。
天使の輪っかが出来るほどつやつやとした綺麗な黒髪。
まるで小動物を彷彿とさせるくりっとした大きな目。
身長も一般高校男子にしては小さく160cmほどといった小柄な体型だ。
人懐っこい性格の彼は、クラス替えして間もないにも関わらずほぼクラス全員と親しくなっていた。
端樹も例に漏れず…
むしろそれ以上に直とは親しくなった。
クラスでもやはり女子から冷たい目でみられていた端樹を直の性格上放っておけなかった。
その持ち前の明るさで端樹をクラスの輪に引き込んだのだ。
おかげでこのクラスにおいて、端樹を非難する人間は一人もいなくなり端樹にとってとても過ごしやすい空間となった。
その事があり、端樹は直にとても感謝していた。
ふと、端樹は首を傾げる。
そんな直の後ろに今日は見慣れない男子生徒が立っていたのだ。
いぶかしげな表情に気づいた直が後ろの男子生徒を引っ張り出した。
「あ、そうだ!紹介するね!コイツ僕の幼なじみの北森透っていうの」
「北森くん…」
北森と呼ばれた男子生徒は相変わらず何も喋ろうとはしない。
小さく顎を引いて会釈をしたきりだ。
ただ北森という名に端樹は聞き覚えがあった。
必死に記憶を手繰り寄せ、その名前を思い出す。
「あっ!陸上部の…」
全校集会の各部活表彰で必ずと言って良いほど名前が上がる、陸上部きってのスプリンター。
「そうそう!無愛想にみえるけど中身は良い奴だからね!」
「よく表彰されてるよね?ナオくんの幼なじみだったんだ!」
「昔から透、足速かったからねー」
余程自慢の幼なじみなのだろう。
まるで自分の事のように直は嬉しそうだ。
「よろしくね、北森くん」
「……よろしく…」
北森の少し低めの声は小さいが良く通る。
狩野と同じ位の身長だが、陸上部なだけあって筋肉が程よくのった体つきだ。
タレ目気味な目は一見覇気が無いように見えるがどこか鋭い。
少し長めの襟足は何となく端樹に狼を連想させた。
「透、今日は部活?」
「いや、今日は無い…」
「蓮ちゃんと狩谷くんは放課後暇??」
「私は何も無いけど…」
「俺も…特には…」
「ホント?じゃあ放課後皆でお茶しない?」
突然の直の提案に3人は唖然としている。
辛うじて瑞樹が「私は構わないよ」とだけ返事を返した。
しかし無口すぎる狩谷と北森は直の誘いにどう返して良いのか戸惑いを隠せない。
困り果てている狩谷を見かねて、瑞樹は口を開いた。
「ヒロ君も何も無いなら、一緒に行かない?キヨ君も誘ってさ。」
「……あぁ…」
「じゃあ私キヨ君に聞いてみるね。直君、一人増えても構わないかな?」
「もちろん!透も当然行くよね!」
ほぼ強制的な言い方。
少し間が空いて、北森はこくりと首を縦に動かした。
「楽しそうじゃん」
聞き覚えのない声に端樹は顔を上げる。
ぐるりと周りを見回してその声の人物を探す。
教室の入り口にその人物はいた。
ニヤリと楽しげに歪められた口元。
何より特徴的なのはその外見だ。
殆んど金色に近いほど脱色された髪の毛はワックスで逆立てられている。
右眉に2つ、口元に1つ、左耳には2つのピアス。
明らかに不良を彷彿とさせる外見だ。
つり上がった目はまるで獲物を捕らえたかのように端樹を射抜いている。
その視線を遮るように、狩谷が立ち塞がった。
「何の用だ…?」
「そんなツれない事言うなよ、せっかく会いに来たのに」
「ヒロくん知り合い…?」
恐る恐る端樹が訊ねる。
狩谷は嫌そうに顔をしかめ、こくりと頷いた。
「水無瀬晋…ちょっとした腐れ縁だ…」
「腐れ縁とは酷い言われようだな!」
けらけらと水無瀬が笑う。
「ま、お前のそういう遠慮の無いトコ好きだけどな。」
「俺はお前の事好きでも何でもないけどな。」
「相変わらずつれないねぇ、裕之クンは。そいつは側に置いてるくせによ。」
会話の内容に瑞樹は少し固まった。
話の流れを纏めると…
「えっと…水無瀬クンは…ヒロ君の事…」
「好きだよ、悪いか?」
「いや…そんな事は…」
「どもるなよ。てめーのそういう態度を差別っていうんだぜ?」
水無瀬は背中を丸め、瑞樹に視線を合わせる。
予想に反して真剣な目が瑞樹を真っ直ぐに捕らえた。
近づく距離。
ふわりと微かに、煙草の香りが瑞樹の鼻腔をくすぐる。
「俺は裕之が好き。何か文句は?」
「文句なんて…」
「ちなみに俺、お前の事敵だと思ってっから。」
「晋!」
狩谷が水無瀬の肩を掴む。
ぎり、と力を込められ水無瀬は苦笑った。
「そんなにこの姫が大事なわけだ」
「だったらなんだ」
「不毛じゃね?コイツには恋人いるだろうが」
「別に俺は端樹の恋人になりたいわけじゃない」
「そうかよ、」
狩谷の言葉に少しだけ水無瀬の表情が曇る。
対峙する5人の間に沈黙が流れた。
誰も口を開こうとしない、動こうともしない。
その沈黙を破ったのは先ほど下足箱で分かれた瑞樹の恋人だった。
「瑞樹!」
「キヨくん…」
「悪いけど辞書貸して?」
その登場は場違いであったが、おかげで緊張の糸がきれた。
瑞樹はほっとしたように詰めていた息を吐き出した。
「あ、うん!ちょっと待ってね!」
「おう、ごめんな」
辞書を取りに行こうと瑞樹が一歩踏み出す。
それを追うように岡野も教室へ足を踏み入れた。
その時…
「!?」
「っ!!」
足元から突き出た光の帯が瑞樹の身体を包み込む。
その光はまるで意思を持っているかのように、瑞樹の近くに居た岡野・狩谷・水無瀬・北森・直の5人に向かって伸びていく。
瑞樹と同じように5人が光の帯に包み込まれた瞬間、瑞樹の意識は白く漂白されて消えていった。




