10:白星と黒星−1
「さぁ…取り敢えず行こうか。」
肩に翡翠を抱え、蒼が5人を振り返る。
「これから俺達はアンタ達を案内する。」
何処へ?
何の為に?
そんな心の中にある疑問を質問することは出来なかった。
そうさせない雰囲気が双子にあったからだ。
5人は頷くしか出来なかった。
「キヨ君、ヒロ君!…皆も…!」
暫く歩くと鳥居が見え、その向こうに瑞樹が立っていた。
その横には袴姿の男が居る。
「この門は結界になっているから、此処なら敵は入って来れない。」
「此処って‥」
「透兄の家だよ。アンタなら知ってるよね?直サン。」
「んで…僕の名前…」
「取り敢えず早いとこくぐって。話は透兄と狩谷サンの手当てをしてからだ。」
促され5人は鳥居をくぐった。
瑞樹は5人に駆け寄る。
「良かった…」
「良くはねーだろ、北森は死にかけだし裕之もボロボロだ。」
「でも…死んでない。」
目に涙を溜めて、瑞樹は5人をそれでも笑顔で見上げた。
バツが悪そうに水無瀬は瑞樹から目を逸らす。
「兎に角手当てを優先させましょう。」
「凪さん…」
瑞樹に凪と呼ばれた袴姿の男は水無瀬と直の間でぐったりしている北森と、岡野に支えられている狩谷にそれぞれ見遣った。
その視線の意味を汲み取り、蒼は翡翠を担いだまま建物の中へと5人を促した。
「ん…」
「透!」
一番重症だった北森の目がうっすらと開く。
それに真っ先に気付いたのはずっと隣についていた直だった。
北森は痛む体を無理矢理起こすとぐるりと周りを見回す。
そしてある一点でその視線は止まった。
相手もそれに気付き北森の下へ近寄ってくる。
「起きたか…」
「狩谷も無事だったんだ」
「お前よりは軽症だよ」
口元だけで笑うと、狩谷は北森の肩に手を置いた。
その時襖が開いて双子が揃って入ってきた。
そして2人が起きている透の姿を捉える。
「透兄ー!!」
「透兄!良かった!!」
「うっ…」
身を起こしている北森を見つけた双子は物凄い勢いで北森へ両側から抱きついた。
隣に居た直と狩谷を突き飛ばして、だ。
抱きつかれた北森は痛みに小さく呻く。
「なっ…にすんだよ!この双子!!」
「直サンはすっこんでて。」
「むかつく!何その言い方っ!透は怪我してるんだからそんな事するなよ!」
「そうやって透兄の為みたいなこと言って、ホントは直サンが嫌なんだろー?」
ぎゃんぎゃんと言い合う3人。
間に挟まれた北森は困り果てたような表情(といっても傍から見れば無表情にしか見えないが)で狩谷の方を見た。
仕方が無いとばかりに狩谷は立ち上がると3人を北森から力任せに引き剥がした。
「おら!怪我人に迷惑かけんな!」
「痛っ!」
まずは手前に居た直、そして両サイドの翡翠・蒼を後へ引き倒した。
北森はほっとした表情で傷を撫でている。
口には出していないが結構痛かったのだろう。
「おや、目が覚めたみたいですね。」
「師匠…」
「では皆さんも呼びましょうか…」
出て行って数分後、凪は瑞樹と岡野、水無瀬を連れて戻ってきた。
3人はそれぞれ適当なところに腰を下ろす。
「では、皆さんが揃ったので今から私が知りうる限りの情報をお伝えしましょう。」
凪が上座へと座る。
その両脇に先程まで騒いでいた双子が座った。
その表情は別人の様に変わっている。
「まずはこの世界についてお話しましょうか…」
空気が張り詰め、瑞樹は姿勢を正した。
「この世界はもうお気づきだとは思いますが、貴方達の世界と同じ構造をした平行世界。」
「平行世界…?」
「いわゆるパラレルワールドってヤツだよ。」
聞き返した瑞樹に蒼が凪の言葉を言い換える。
「そう。この世界には貴方達『白星群』と貴方達の影である『黒星群』そして私達3人しか存在しません。」
「白星群と黒星群っていうのは?」
「白星・黒星と呼ばれる1人とそれを護る守護者5人を指します。つまり貴方達で言えば白星は蓮さん、岡野さん・狩谷さん・水瀬さん・直君・透が守護者となります。」
そこで瑞樹は引っかかりを覚えた。
凪はまるで直と北森の事は初めから知っている、というような口ぶりだ。
それに聞けば此処は北森の家らしい。
何故そこにこの3人が居たのか…
「師匠は俺の育ての親だ。」
「!」
瑞樹の心を読んだかの様に北森が口を開いた。
驚いて瑞樹はそちらへ視線を向ける。
直もそれに続くように北森へ視線を向けた。
「凪さんは向こうの世界にも居たから分かるけどさ…僕コイツらは知らないんだけど…」
そう言って直が指差したのは凪の両脇に座る双子だ。
「知ってる。」
「…」
「翡翠と蒼。その名前に聞き覚えは?」
その名前を告げられて直ははっとした。
おそるおそる双子へ視線を戻す。
「まさか…!」
「当たり。これでアンタと同じ土俵に上がれるね。」
「透ん家の犬じゃん!!」
「犬言うな!」
「そうだそうだ!俺達は狐だからな!」
翡翠と蒼。
それは幼い頃北森が拾った狐2匹の名前。
車に撥ねられたのか道端に血を流して倒れていた翡翠とその周りを心配そうにくるくる回っていた蒼を北森が連れ帰ったのだ。
「この世界じゃ俺達ちゃんと人間だし、これで心置きなく透兄に近づける。」
「なっ…」
「翡翠、蒼…その話は後にして。」
「透兄がそういうなら仕方ないね…」
翡翠と蒼は姿勢を正し口を真一文字に結んだ。
凪はそれを確認した後、話の続きを始めた。
「それでは黒星群側の人間をお教えしましょう。」
「黒星…」
「中心となる黒星は八神了。そして守護者として確認出来ている人間は…」
写真と共に凪の上げた名前は、萌葱凛子・中条功・根岸明鈴・馬渡怜王の4人。
萌葱凛子。
守護者としての属性は火。
外見は長いストレートの黒髪に釣りあがった目。
着物を身に纏い、手に持つ毬を飛び道具として使う。
毬の中には様々な毒が仕込んでありそれを場面によって使い分ける。
属性を使用しての攻撃方法は不明である。
中条功。
守護者としての属性は霧。
190cmはあろうかという高身長に色素の薄い長髪を後で束ねている。
円形の刀であるチャクラムを武器として使う。
属性を使用しての攻撃方法は、自らの血を霧状にしそれをチャクラムの形にして相手を切り刻む。
蒼の情報では萌葱凛子とは恋人関係にあるらしい。
根岸明鈴。
守護者としての属性は砂。
チャイナドレスを身に纏う体は手足のリーチが長く見事なバランスだ。
少林寺拳法を使いこなし、鉄扇を武器として使う。
体術に長け、属性の力を使わずしてかなりの強さである。
属性を使用しての攻撃方法は凛子同様不明である。
馬渡怜王。
守護者としての属性は不明。
神出鬼没でその姿は色んな所で見られるが攻撃を仕掛けてきたことは無い。
外見はさらさらの黒髪に眼鏡をかけてまるで優等生のようなそれだ。
双子達が他の守護者と戦闘になると必ず現れそれを楽しげに傍観している。
戦闘が終わると直ぐ消えるため、姿以外は何も確認できてはいない。
「馬渡怜王もそうだが、黒星の八神了、そして残る1人の守護者はあまり確認できていないのが現状だ。余り踏み込むとこの子達の命が危険だからね…」
「黒星群っていうのが存在するのは分かりました…けどその人達と私達が争わないといけない理由は何ですか…?」
瑞樹としては争いなんて是が非でも避けたかった。
ましてや自分を守るために岡野や狩谷、直や北森、水無瀬が傷つくなんて嫌だった。
しかし次に語られる凪の話にそんな甘い事が言えないのだという現実を突きつけられた。
「争う理由ですか…貴方達に無くても向こうには嫌というほどあるでしょうね…」
「そんな…」
「では次はそのお話をしましょうか…」
凪の瞳が閉じられる。
瑞樹は小さく息を呑んで凪の言葉を待った。




