表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/54

1話 心をこめたもの

 手の中にある、ピンクのフェルトのウサギ。

「できたよ!」

 エミリーは居間のソファーに座る母を振り返る。あふれる気持ちそのままに、立ち上がって勢いよく母のひざへつっこむ。

「痛! 何、エミリー!」

「ウサギできた! はじめて! うまいでしょ?」

 エミリーが母へ差し出したのは、ピンクのフェルトに木くずをつめて、ビーズで目をつけたウサギのマスコットだった。

 母は「おお」と驚いた声をもらして、ウサギをのぞきこむ。

「うまいうまい。やっぱり血筋かしらね?」

「やった! これでもうすてられない!」

 エミリーは今まで紙でウサギを作っていたが、間違えて捨てられることがよくあったのだ。

「ああ……ごめんね、捨てて」

 母はばつが悪そうに顔をそらす。

「もうすてないでね!」

「ああうん、ごめんね。でも布ならどこにでも連れていけるし、いつでも持ってられるでしょ? さすがに間違って捨てたりはしないから」

 恐縮そうに身を小さくしている母に、エミリーは力強くうなずく。

「わかればよろしい」

「名前はもう決めたの?」

 エミリーは重大なことに気付いたように母を見つめて、ウサギを見つめる。

「ラピ!」

「ラピね。いいじゃない」

 ラピ、と口に出すと、胸の中のきらめきがどんどん増えていくようで、エミリーはラピ、ラピと繰り返した。

 母がふと思いついたように楽しげな笑みを浮かべる。

「心をこめて作るとね、魔法が使えるんだよ」

 エミリーは首を傾ける。

「どういうこと?」

「心をこめて作ったものを身につけるとね、魔法が使えるの。服とか、アクセサリーとか」

「え、じゃあこれもまほうつかえる?」

 エミリーは母に飛びつくように、握ったウサギをつき出す。母はいたずらっぽく顔の前に指を立てて振った。

「残念。心をこめてるのは合格だけど、魔法が使えるのは特別な布だけです」

「とくべつなぬのってなに? どこにあるの?」

 エミリーが身を乗り出すと、母は「まあ座ったら?」とソファーの隣をさす。

 エミリーはソファーに飛び乗った。今あるきらめき以上の期待を胸の中につめこんで、母を見上げる。

 心をこめて作ったもので使える魔法は、まばゆいばかりの、とてもとても幸せなものに違いないと信じながら。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ