始まり
普通の人にとっては本当にありふれたごく普通のいつもとたいして変わらない普通の日。
でもあの日は私にとって今までで最も大切で嬉しい日になるはずだった。
私の弟で婚約者でもある彼が任務を終えて地球に帰ってくるはずだった日。
けれど彼は帰ってこなかった。
愛してる、一生忘れない、その二言だけを残して永遠に。
でも私は認めない。
必ず彼を取り戻して見せる。
あの火星の迷宮から。
砂漠のど真ん中ラクダの背に揺られて一行は次の街へと進んでいた。
「お客さん、本当に休まなくていいんですか?次の街まであと二時間はかかりますよ。わしらは慣れとるから別に構いませんけど....」
先頭を行く老人が振り替えって後ろについてくる人に尋ねる。
「進んでください。」
その人は強い口調で言う。
「後ろの人もそれでかまわないのかい?」
老人は一番後ろについてくる人にも尋ねる。
「構いません。」
「そうかい?」
彼らの少し後方に小さいオアシスがある。
老人はそこで一度休んでからの方が良いと言いたいのだ。
しかし、旅人らしき人は道中を急いでいるらしい。
少しでも早く進みたいようだ。
老人はため息をついて旅人を説得するのを諦めると前を向いてラクダの歩を進めた。
旅人の意を汲んでくれたようだ。
「夜までには必ず次の街に着きますから。それ以上速いのは無理ですけんね。」
老人はため息をつきながら言った。
「ありがとうございます。」
旅人は老人の気遣いに頭を下げた。
しかし....旅には必ず試練が付いてくる。
「すまんの....前に案内したときより砂丘が高くなっとる。これを越えれば街があるんだが、日が沈むまでにはたどり着けんかもしれん。」
老人はすまなそうに旅人に言った。
「構いません。急いでくださってありがとうございます。」
そう旅人が例を述べたときだった。
「止まれ!」
老人と旅人ふたりだった砂漠の世界に第三者の声が侵入してきた。