雨宿り
pixiv URL:http://touch.pixiv.net/novel/show.php?id=6921068
お題【紫陽花】
お題【紫陽花】
梅雨に入って、すぐに雨が降り始めた。
柴山杏は、高校からの帰り道、小さな折りたたみ傘を手を歩いている。
「やだな…….。ジメジメしてて」
杏は、清掃委員という委員会の仕事のせいで、帰りが遅くなっていた。1クラスに4人が清掃委員になり、週に1度、学校中を掃除するのだ。
毎日、掃き掃除くらいしかしないため、委員会が設置された。
「掃除委員とか面倒くさいな。やらなきゃ良かった」
しかし、そんなことを言っても後の祭り。今からどこか別の委員会になど入れない。杏はため息を吐きながら、帰り道をトボトボと歩いていく。
しばらく歩いていると、小さな女の子が、傘も差さずに立っているのが目に入ってきた。
杏は慌てて女の子に駆け寄ると、傘を差してやる。
「どうしたの? こんな雨の中……。お母さんかお父さんは?」
杏の問いかけに女の子は、首を横に振る。薄紫色のワンピースと、白いサンダルの女の子には、杏のことを見つめる。
「ん〜。どうしよ……。一緒にいてあげたいけど、ちょっと無理だし……」
杏は考え込むと、鞄を探り何かを取り出す。淡いピンク色のタオルを女の子に頭の上に乗せ、白い折りたたみ傘を出す。
「あった! この傘、この鞄に入れてたのか〜」
今差している傘は、学校に置いておいた傘であり、鞄から出てきた傘は、杏が無くしたと思っていた傘であった。
「これ、使っていいよ。お姉ちゃん、ちょっと一緒に居られないから、傘差して、お母さんとお父さん待ってな」
濡れた髪を少しでも乾くように、タオルで拭き、傘も差して渡してあげる。
「ごめんね、一緒にいてあげられなくて」
女の子は首を横に振ると、嬉しそうに笑う。
杏は、手を振りながら、去ろうとする。
「ありがとう!」
女の子の声に振り返ると、お互いに手を振る。
次の日の朝。
昨夜は、帰ってすぐに家のことをやっていたため、とても疲れていた。なにしろ、両親が旅行に行ってしまったのだから。
「ん〜眠い〜」
朝も自分で起き、朝ごはんを作る。普段親にやってもらっていることを自分でやるのは、こんなにも大変だとは思わなかったと、内心グッたりしていた。
「ここら辺だったよね」
昨日の帰り道、女の子と出会った場所である。
「あ、こんな所に紫陽花咲いてたんだ」
昨日は気づかなかった。そしてその紫陽花の裏から、子猫の鳴き声が聞こえてきた。
紫陽花裏に回ると、昨日、杏が女の子に渡した傘とタオルが置いてあり、それが子猫を守っていた。
今は雨は降っていないが、また雨が降るかもしれない。杏は傘をそのままにして、学校へ向かった。
風に吹かれて、紫色の紫陽花が笑うように揺れた。
おわり