その子は神のもの
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お題【とおりゃんせ】
死ネタを扱います。
お題【とおりゃんせ】
どこかにある町。
その町の市街地から離れた戸建ての家の庭で、男の子がサッカーボールを蹴り遊んでいる。
「通りゃんせ、通りゃんせ。ここはどこの、細通じゃ。天神さまの、細道じゃ……ねぇねぇ」
男の子の名前は、光紀。そして光紀が話しかけたのは、着物を着ている女のような者。
「なんじゃ?」
「天神さまって、油揚げのこと?」
「妾は油揚げではないと、何度言えば分かるのじゃ?」
「油揚げ好きだから、油揚げ」
「むむむ……まぁ、よい」
油揚げと呼ばれた女は、光紀が蹴り損なったボールを取る。
「光紀、何度言えば分かるのじゃ。妾は天神さまではない」
「じゃあ、手毬唄で天神さまって」
「妾は天神さまの遣いなんじゃ」
「遣い?」
「ん〜、簡単に言うとしたら、サラリーマンが分かりやすいかのう?」
「サラリーマン?」
「光紀のお父上の仕事じゃ。天神さまは社長で、妾は平社員。つまりお父上と同じじゃ」
「なんとなく分かった」
「分かったのなら、それでいい」
油揚げは、ボールを光紀に渡すと空を見上げる。
光紀は、ボールを思い切り蹴ってしまい、庭から出てしまった。それを追うために、庭から出ると、すぐそこは道路になっており、車が走ってきていた。
「光紀!!」
油揚げが咄嗟に、光紀を救い出すと、優しく抱きしめてやる。
「良かった……」
「ごめんなさい……」
「……急に飛び出すなと、あれほど言っておいたはずじゃ」
「うん」
「もう、守ってやれなくなる。気をつけるんじゃ」
「分かった」
光紀は、油揚げに立たせてもらい、ボールを手に、庭へと戻っていく。
「あと1日……」
翌日。
7歳の誕生日を迎えた光紀は、朝から元気に起きていた。
「ママ、ママ!」
「なあに? 光紀」
「今日は、僕の誕生日だよ! ケーキ、ケーキ食べたい!」
「はいはい。その前に、神社へ行きましょう」
「神社?」
「そう、天神さまに無事に7歳になりましたって、言いに行くの」
「分かった!」
午前9時21分。
光紀は、母と共に家を出る。
2人の後ろには、油揚げがいる。油揚げの姿は、母には見えていないが、母もこの町の出身者。光紀と同じように7歳まで、油揚げのような者と一緒にいた。
「光紀が生まれたのは、あと10分後ね」
「そうなの?」
「えぇ、9時47分よ」
「そうなんだ!」
「えぇ、さぁ着いたわ」
「長い階段だよね」
「そうね……光紀」
「なに?」
「ここからは、1人で行くの。ちゃんと天神さまに、お礼を言いに行くのよ」
「ママは?」
「ママはここで待ってるから。いってらっしゃい」
「……うん」
光紀は母の手から離れると、1人神社へ続く階段を上っていく。けれど1人ではない。油揚げが光紀の手を取り、共に上がっているから。
油揚げはとても愛おしそうな目で、光紀を見ている。もう共に居られなくなる。けれど、それは成長した証。けれど。
「のう、光紀」
「なに?」
「ちょっとゲームでもして行かないか?」
「えー早く行こ」
「ゆっくり行こう」
「ママが待ってるから、早く行きたい!」
「光紀……」
「早く!」
光紀は、油揚げの手を引っ張り上がっていく。
油揚げはギュッ手を握り、最後の段を上りきる。そして油揚げは、光紀から離れていく。
光紀は、参拝をするために本殿前に小走りで向かう。
「無事に7歳になりました! 油揚げを貸してくれてありがとうございます」
光紀は階段へ向かう。後ろを振り返るが、そこには誰もいない。
「油揚げ……? またねー!」
光紀は、階段を下りていき、母と再会する。
時間は、9時40分。
家に帰るために歩いていくと、よそ見運転をしていた車が、2人を引いた。
「光紀……」
「あと7分、遅かったら7歳になっていたのにね」
「……日にちを越したらにしてくれたら、良かったのに」
「私は時間で決めてるの。さぁ、あの子を連れてきなさい」
「はい……」
油揚げは、7歳になる前の子供を、神隠しをするように魂を神に捧げた。
7歳になるまでは、子供は神のもの。
了