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短編集〜ワンライ〜  作者: 山芋娘
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その子は神のもの

pixiv URL:http://touch.pixiv.net/novel/show.php?id=6841856


お題【とおりゃんせ】

死ネタを扱います。

 

 お題【とおりゃんせ】




 どこかにある町。

 その町の市街地から離れた戸建ての家の庭で、男の子がサッカーボールを蹴り遊んでいる。


「通りゃんせ、通りゃんせ。ここはどこの、細通じゃ。天神さまの、細道じゃ……ねぇねぇ」


 男の子の名前は、光紀。そして光紀が話しかけたのは、着物を着ている女のような者。


「なんじゃ?」

「天神さまって、油揚げのこと?」

「妾は油揚げではないと、何度言えば分かるのじゃ?」

「油揚げ好きだから、油揚げ」

「むむむ……まぁ、よい」


 油揚げと呼ばれた女は、光紀が蹴り損なったボールを取る。


「光紀、何度言えば分かるのじゃ。妾は天神さまではない」

「じゃあ、手毬唄で天神さまって」

「妾は天神さまの遣いなんじゃ」

「遣い?」

「ん〜、簡単に言うとしたら、サラリーマンが分かりやすいかのう?」

「サラリーマン?」

「光紀のお父上の仕事じゃ。天神さまは社長で、妾は平社員。つまりお父上と同じじゃ」

「なんとなく分かった」

「分かったのなら、それでいい」


 油揚げは、ボールを光紀に渡すと空を見上げる。

 光紀は、ボールを思い切り蹴ってしまい、庭から出てしまった。それを追うために、庭から出ると、すぐそこは道路になっており、車が走ってきていた。


「光紀!!」


 油揚げが咄嗟に、光紀を救い出すと、優しく抱きしめてやる。


「良かった……」

「ごめんなさい……」

「……急に飛び出すなと、あれほど言っておいたはずじゃ」

「うん」

「もう、守ってやれなくなる。気をつけるんじゃ」

「分かった」


 光紀は、油揚げに立たせてもらい、ボールを手に、庭へと戻っていく。


「あと1日……」





 翌日。

 7歳の誕生日を迎えた光紀は、朝から元気に起きていた。


「ママ、ママ!」

「なあに? 光紀」

「今日は、僕の誕生日だよ! ケーキ、ケーキ食べたい!」

「はいはい。その前に、神社へ行きましょう」

「神社?」

「そう、天神さまに無事に7歳になりましたって、言いに行くの」

「分かった!」




 午前9時21分。

 光紀は、母と共に家を出る。

 2人の後ろには、油揚げがいる。油揚げの姿は、母には見えていないが、母もこの町の出身者。光紀と同じように7歳まで、油揚げのような者と一緒にいた。


「光紀が生まれたのは、あと10分後ね」

「そうなの?」

「えぇ、9時47分よ」

「そうなんだ!」

「えぇ、さぁ着いたわ」

「長い階段だよね」

「そうね……光紀」

「なに?」

「ここからは、1人で行くの。ちゃんと天神さまに、お礼を言いに行くのよ」

「ママは?」

「ママはここで待ってるから。いってらっしゃい」

「……うん」


 光紀は母の手から離れると、1人神社へ続く階段を上っていく。けれど1人ではない。油揚げが光紀の手を取り、共に上がっているから。

 油揚げはとても愛おしそうな目で、光紀を見ている。もう共に居られなくなる。けれど、それは成長した証。けれど。


「のう、光紀」

「なに?」

「ちょっとゲームでもして行かないか?」

「えー早く行こ」

「ゆっくり行こう」

「ママが待ってるから、早く行きたい!」

「光紀……」

「早く!」


 光紀は、油揚げの手を引っ張り上がっていく。

 油揚げはギュッ手を握り、最後の段を上りきる。そして油揚げは、光紀から離れていく。

 光紀は、参拝をするために本殿前に小走りで向かう。


「無事に7歳になりました! 油揚げを貸してくれてありがとうございます」


 光紀は階段へ向かう。後ろを振り返るが、そこには誰もいない。


「油揚げ……? またねー!」


 光紀は、階段を下りていき、母と再会する。

 時間は、9時40分。

 家に帰るために歩いていくと、よそ見運転をしていた車が、2人を引いた。





「光紀……」

「あと7分、遅かったら7歳になっていたのにね」

「……日にちを越したらにしてくれたら、良かったのに」

「私は時間で決めてるの。さぁ、あの子を連れてきなさい」

「はい……」


 油揚げは、7歳になる前の子供を、神隠しをするように魂を神に捧げた。

 7歳になるまでは、子供は神のもの。





 了



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