表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
短編集〜ワンライ〜  作者: 山芋娘
34/39

修理屋ーー懐中時計の記憶

#創作版深夜の真剣文字書き60分一本勝負


お題【マジック/懐中時計/カーブミラー】より【懐中時計】


以前書いたお話と雰囲気が似てます。

同じ世界で別の店というような感じで、考えてくれると嬉しいです(^^)


pixiv:http://touch.pixiv.net/novel/show.php?id=7121256



お題【マジック/懐中時計/カーブミラー】より【懐中時計】




 キーッと、扉を開ける音が響いた。

 拓馬は店の中へ入るための扉が、こんなにも大きな音を立てるとは思いもせず、慌てて手を添えながら、ゆっくりと閉めた。

 店の中はとても狭かった。入って5歩でショーケースに当たり、壁もとても近い。

「やぁ、いらっしゃい」

「あ、どうも」

 扉の音を聞いた店の主人が、奥から顔を覗かせた。

「あの、修理屋って聞いて来たんですけど」

「あぁ、そうだよ」

「じゃあ、これお願いします」

 拓馬は首から掛けた懐中時計を主人へ渡す。

 白い手袋をはめると、懐中時計を受け取り外面を見てから、蓋を開けた。

「ほう、面白いことになってるね」

「もう、直りませんか? じいちゃんから貰ったもので、出来れば使いたくて」

「大丈夫だよ、別に壊れた訳じゃないから」

 懐中時計は至って綺麗にされていた。外面には一つ小さなだが傷はあるが、それ以外は綺麗だった。

 けれど今、懐中時計の針は正常に動いては無かった。1、2、3、と動いていくはずなのに3、2、1、と時を遡っていたのだ。

「いつから?」

「一昨日、じいちゃんから貰ってから」

「そのお爺様は?」

「懐中時計を僕に渡してから、亡くなりました」

「そうか」

 主人は懐中時計を拓馬に渡すと、「ちょっと待ってて」と裏へと消えた。

 手の中で、チクタクと動く針はやはり時を遡っている。

 僕が使うことを拒否してるのかな?ーーと、考えていると主人が裏から少し大きな映写機を出してきた。

 店の中はとても狭いので、映写機を置くだけでめいいっぱい店を使っているようだった。

「懐中時計、借りてもいいかな?」

「はい」

 再び、主人の手の中へ懐中時計を置く。すると、映写機へ近づけていく。

 なにをするんだろう?ーーと、考えていると、懐中時計からスルスルと白く光るフィルムのような物が、出てきた。

「これは……」

「懐中時計が見てるものだよ」

 フィルムは勝手に動き始めると、映写機へとセットされていく。映写機も勝手に動き始める。

「懐中時計は、お爺様が亡くなって悲しんでいるんだろうね。それで昔のことを思い出して、時を遡っているんだと思うよ」

 部屋の中の灯りを消すと、映写機のレンズから映像が壁に映し出される。しかし、それは一つだけでなく無数に溢れ出していた。

 壁や天井には若かりし頃の祖父が映っていた。

「じいちゃん……」

「懐中時計にとっては、とても素敵な出会いだったんだろうね」

 初めて懐中時計を買った日。川に落とした日。祖母に出会った日。息子に出会った日。孫に出会った日。様々な思い出が映像で映し出されていく。

「一度、」

「ん?」

「一度だけ、じいちゃんに怒られた事があるんです。そのこと以外では絶対に怒ならなかったじいちゃんが、凄い剣幕で怒鳴ってきた……」と、天井に映し出されている一つの映像を指さしながら、「懐中時計を見たことなかった僕が乱暴に扱って、傷を付けてしまって。その時は凄い怒られた」

 懐中時計を見ると、一つ小さな傷がある。

「それも懐中時計にとってはいい思い出のようだね」

 無数にあった映像が一つだけになった。そこには祖父が映る。

「これからは、拓馬と時を刻んでおくれ……。私はそろそろ逝くよ。まだまだ元気なようだからね、拓馬をよろしく」

 映写機がゆっくりと動きを止めると、懐中時計からもフィルムが消えた。

「終わったみたいだね」

 主人が蓋を開けると、現在の時刻をしっかりと刻み始めていた。

「はい。これでもう大丈夫」と、懐中時計を拓馬に返す。

「ありがとうございます……」

「懐中時計は、お爺様との思い出を君と見たかったのかもね。おうちに帰ったら、思い出話でもするといいよ」

「はい。ありがとうございます」

「いいえ」

「いくらですか?」

「1000円でいいよ」

「本当に!?」

「今回は簡単だったからね。もっと難しかったら、5000円とか取るけど」

「良かった、高かったらどうしよって思ってて」

「大切にしな」

「はい!」

 拓馬は500円玉2枚を主人に渡し、店の扉を開ける。再び、キーッと大きな音が鳴る。

「ここの扉、直した方がいいですよ。修理屋さんなんだから」

「いいんだよ、その音でお客が分かるんだから」

「そうですか。じゃあ、ありがとうございました!」

 店から出ていき道を歩いていく。ふと、後ろを振り返ると、そこには公園しかない。

「あれ、お店がない?」

 拓馬は不思議そうに辺りを見渡すが、店はどこにも無い。むしろ住宅街の中に店なんかはない。そこにある公園もポツリと作られた小さなもの。

「必要としてる人の前に、やって来てくれる……。あれは本当だったんだ」

 拓馬は首から掛けた懐中時計の蓋を開ける。チクタクとしっかりと時を刻んでいる。

「これから、よろしくね!」

 拓馬は足を早め、家へと帰る。



 裏から出してきた映写機を、なんとかまた裏へ戻そうと奮闘し始める主人。

「もう少し広い店を構えたいけど、家賃高いから、我慢しないと。やっぱりお代はもっと取っていいのかな?」

 修理屋は、必要としている人の前に店を構える。けれど、この修理屋はまだまだ未熟者。

 客と共に、成長するために今日も店を開く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ