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短編集〜ワンライ〜  作者: 山芋娘
31/39

クロさんと妖

#創作版深夜の真剣文字書き60分一本勝負

お題【浴衣/星/黒猫】より【浴衣/黒猫】です。


妖もののお話となっておりますが、妖が全然出てきません。


pixiv:http://touch.pixiv.net/novel/show.php?id=7094263

お題【浴衣/星/黒猫】より【浴衣/黒猫】





 夏祭りの季節がやって来た。

 笹本風花は町の夏祭りの会場近くにやって来ていた。会場は神社とその付近。多くの出店が出ているだけの小規模な祭りだ。

 神社に続く階段に座っている風花は、周りで楽しそうにしている人々を見て、溜息を吐いた。

「あーあ。つまんない」

 ブスっとした表情で、カップルを見つめている。学校の先輩で気になる人がいた。その人と祭りに来る約束をしたのだが、直前になって断られてしまったのだ。

「最初から行く気なかったのかな……」

 鞄からスマホを出し、メールの受信を確かめてみる。しかし、メールはない。

「こら! だめですよ!」

 と、突然女の声が聞こえてきた。声のする方へ顔を向けると、出店の裏からだった。

「人のものを取るのはいけません!ーーこれはこの子の親御さんがこの子のために買ったものなんです。ーー欲しくなるのは分かります。ーーそれでも取るのはいけないことです」

 人の賑わう表通りとは違い、出店の裏手は人が少ない。そこで、浴衣を着た女の子が、まるで誰かと会話するかのように、独り言を言っていた。

 一人、だよね?ーー風花はゆっくり近づいていくと、女の子の後ろ姿を見つめる。

「全く……。今度なにか作ってあげましょうかね?ーーえ、後ろですか?」

 女の子は再び独り言を言ったと思ったら、風花の方へ振り返り、風花を見つける。

「あら? こんにちは」

「こ、こんにちは……」

「見られてしまいましたね。ーーん? 足ですか?」と、風花の左足に目を向ける。風花の足首には、小さな鈴が付いたアンクレットが着いていた。

「あの……」

「あ、すいません。とても強い結界を持ってらっしゃるんですね」

「結界?」

「おや? ーーあぁなるほど。ご本人には伝えてない可能性ですか」

「あの……、誰と話してるんですか?」

「あ、ご紹介遅れました。私はユイです。そしてこちらが黒猫のクロさんです」

「こちら?」

 手を添える先は、浴衣の帯。そこには黒猫が刺繍されている。

「黒猫?」

 と、呟いた瞬間、お昼の黒猫が動いた。

「え!? 嘘、本当?」

「こちらのクロさんは付喪神なので。クロさん、出てきたらどうですか?」

 そう言うと、黒猫が帯からぬるりと抜け出してきた。そして、二人の足元に降りる。

「こちらがクロさんです」

「え、」

「初めまして、鈴の娘さん。混乱させてしまっているだろうけど、頑張って理解しておくれ」

「は、はい」

「クロさん、少しここで待っててくれませんか? さっきあの子達が取った巾着を本部の方に渡してきますね」

「あぁ、坊ちゃんか嬢ちゃんが、泣いてるかもしれないからね。行ってきな」

「はい」

 ユイは、草むらをかき分け、階段を降りていく。落し物を扱っている本部へ向かう。

「鈴の娘さん」

「わ、私?」

「そうさ。お名前聞いてもいいかい?」

「笹本風花です」

「風花さん、いい名だね」

 それから、ユイが帰ってくるまでの間、クロは風花かれ質問されたことをいろいろな事を答えていた。

 付喪神のこと。妖のこと。そして、ユイが行っている仕事のこと。

 ユイが帰ってくると、両手いっぱいに出店のものを買ってきたらしい。綿あめに焼きそば、たこ焼きにかき氷。

「買いすぎだよ。ユイ?」

「見てたら、あれもこれも食べたくなっちゃったんです!」

「お前さんはそういう所があるよね」

「どうぞ」

「え、いいの?」

「はい!」

「ありがとう」

 風花はユイから綿あめを受け取る。ピンク色のフワフワとした綺麗な綿あめ。





 しばらく、二人と一匹は食べ物を堪能していると、突然クロが立ち上がり神社の奥の方を睨みつけてた。

「ユイ、行くよ」

「え、出たんですか?」

「そうさ、早くしな」

「はい!」

「え、ユイちゃん? クロさん?」

「風花ちゃんも一緒に行きましょう!」

 ユイは風花の手を取ると、クロの後を追い走り出す。浴衣で下駄姿なのだが、ユイは上手く走っている。

「ユイちゃん、何があったの?」

「妖怪がイタズラしちゃってるの」

「イタズラ?」

 神社の賑わっている方とは全く反対の静かな所へ着いた。そこは人々の熱気に当てられた人たちが、休息をするための憩いの場だった。

 その憩いの場に、一人の男性がぐったりと項垂れているのが見えた。

「クロさんこの人ですか?」

「その様だね。妖の匂いがプンプンするよ」

「大変ですね」

「それじゃあ、チョイと借りるよ」

「はい。どうぞ」

 すると、クロが右前足を倒れている男性の額にピタッと置く。

「クロさんは、何をしてるの?」

「妖怪が吸った生気を、戻してるんです」

「生気?」

「はい。こういうお祭りの時には、妖怪も沢山集まってしまうんです。その中でも一部の妖怪は人の生気を吸ってしまうんです。生気っていうのは、妖怪にとってはおやつみたいなものですかね?」

「それを吸われると、こうなっちゃうの?」

「はい。死ぬことは無いでしょうが、意識くらいは飛びますね。あ、生気にも美味しそうとかあるんです」

「へぇ」

「たぶん、風花ちゃんはとびきり美味しそうなんだと思います」

「なんで!?」

「その鈴です」

「これ?」

「はい。たぶん、妖怪に襲われないようにするためのものですね」

「へぇ……」

「お喋りは終わったかい?」

「はい! クロさんお疲れ様です」

「もうこの男の人は大丈夫だろうから、ここから離れようかね」

「はい!」

「この人、いいの?」

「そのうち起きるから大丈夫ですよ」

「そう……」

 二人と一匹は、神社から離れて出店が賑わう方へと出ていく。

 一人と一匹の出会いにより、風花の日常に少し変化をもたらした。これから、二人と一匹は、妖怪と深く関わっていく。




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