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短編集〜ワンライ〜  作者: 山芋娘
30/39

檻の中から

#創作版深夜の真剣文字書き60分一本勝負

お題【檻/ダンスパーティ/銃】


・流血

・自殺

のようなシーンありますので、少しでもむりかな?と思ったら、避けてください。


pixiv:http://touch.pixiv.net/novel/show.php?id=7091109&p=1



お題【檻/ダンスパーティ/銃】





「わんこ、準備はいいか?」

「はい」

「何かあったら、すぐに言え」

「分かりました」

 高級なリムジンの後部座席に座る女が、運転手からの声掛けに淡々と答えていく。

 真っ赤なドレスを身に纏っている女。運転手の制服を纏う男。

 これから、仕事が始まる。お偉方が集まるダンスパーティに潜入するのだ。男よりも女の方がチェックが緩いということで、わんこと呼ばれた女が、潜入する。

「よし、これが終わればしばらくバカンスにでも行くか」

「はい」

「会場の中では、愛想よくしてろよ」

「はい」

 ただ、淡々と答える女は真っ直ぐと前を見つめる。しかし、その目にはなにも写っていない。ただ、前を向いているだけ。

「わんこ」

 と、名前を呼ばれ、男の方を向くと、頭を優しく撫でられた。

「気をつけて」

「……はい」

 車から降り、会場へと歩いていく。





 生まれた時から、この檻の中に閉じ込められている。た何人もの女が鎖に繋がっている。まに黒いスーツを身に纏った人間たちが迎えに来る。

 ここにいる者達は、赤ん坊の時に連れ去られ、肉体強化をさせられながら育ってきた。様々な教育を施されながら。

 女だけがここにいる。男もいるがこことは別のところに。肉体強化を施されているが、鎖からは逃れられない。そう教育されているから。

 今日も男が現れた。

「15番。仕事だ」

「はい」

 15番と呼ばれた女は、返事をするとすっと立ち上がる。青みがかった黒い髪、赤茶色の瞳には光はない。身長が170そこそこあるために、スッと綺麗な体である。

 檻の鍵が開くと、男が入ってくる。手に持っている鍵で、鎖の錠を開けると、鎖を引っ張り女を檻の中に出す。

「今日は、写真に写ってる奴ら全員の始末だ」

「はい」

 写真を手渡され、見てみる。そこに写っていたのは、いかにと幸せな家族。両親、祖父母、子供が3人。

 15番は今からこの家族を殺しに行く。なにをしたかは知らない。むしろ、知りたいと思う心がない。

 ここはどこかのホテル。地下室は檻。特別なエレベーターで上の階に向かう。用意された部屋で、用意されたスーツに着替えると、すぐに部屋を出る。そしてホテル前に用意された車に乗り込み、目的地まで向かう。

「全員を始末すること。もし失敗に終わったら、お前も死ぬこと」

「はい」

「よし、じゃあ行ってこい」

  15番は車から降りると、指定された家へと向かっていく。

 車はその場から去る。なにも責任を負わないということの表れである。そして、時間になると、全く別の場所で拾うことになっている。

 家に着くと、スーツの内ポケットから小さな銃を出す。





 家の中は地の海になっていた。15番も返り血を浴びてしまったため、白い顔や腕が赤く染まっていた。

 特に表情も感情も動かすことなく、15番は家を出ようとした。ドアノブに手をかけ、玄関から出た瞬間に、腕を取り押さえられ地面に顔を押し付けられていた。

「お前、何者だ?」

と、言う問いかけに畳み掛けるように「何故、子供まで殺した? 答えろ!」と、男に怒鳴られる。

 しかし、15番はなにも答えない。

「答えろ」

「コイツもしかして噂の」

「噂?」

「首筋になにかあるかも」

 もう1人いた男の言葉通り、15番の首筋を見ると、椿の花の刺青が刻印されていた。

「ほう、椿か」

「ハル、これは大手柄だよ。連れていこう」

「だな」

 その言葉を聞いた瞬間、15番は取り押さえられていた腕を振りほどき、男2人に襲いかかる。

 そして、落としていた銃を拾い、自分の頭に押し当て引き金を引く。

「やめろ!!」





 あの日。そのまま自殺しようとしていた。失敗したら、死ぬことが教え込まれていたためだ。

 しかし、ハルと呼ばれた男に制止され、今はハルと同じ国の組織に属している。

 15番を保護した後、肉体強化をされた者達を作り上げた組織は、すぐに取り締まられた。

 あの日から、15番は人間として生きている。そして「わんこ」と呼ばれている。人間の名前で呼ばれるのは、どこか歯痒いようなものを感じていたため、「わんこ」と呼んでもらっている。

「ターゲットを確認しました」

「よし、わんこ。近づいていけ」

「はい」

「危険だと思ったら、すぐに会場から出ろ」

「はい」

 前まではすぐに死ねと言われていたが、今は大切にされている。

 わんこの感情も、少しずつ見えてきた。



終わり


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