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短編集〜ワンライ〜  作者: 山芋娘
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夏と音楽と海と

pixiv URL:http://touch.pixiv.net/novel/show.php?id=6825509


お題【音楽】

 お題【音楽】





 夏。

 そう、今の季節は夏。4つの季節の中で、暑さが特徴的な、季節。

 では、あなたは夏と言ったら、何を思い浮かべますか?

 海、太陽、カキ氷にスイカ。他にもたくさんある。

 じゃあ、音楽で夏と言ったら、どんな音楽ですか?

 爽やか系? 今にも踊りだしたくなるもの?


「私は、なんだろ」


 彼女の名前は、夏代。今はしがないシンガーソングライターである。

 そんな彼女は、この季節が来るといつも憂鬱になっていた。

 暑いのがとても苦手で、いつもクーラーの効く部屋の中にいた。

 けれど、この日は珍しく海に来ていた。詩が浮かばないのである。だから、海に来て詩を思い浮かべたくて。ただ、ただ、海に行ってみたくなったのだ。


「暑い……やっぱり、来なきゃ良かったかな……」


 夏代は、額に汗を浮かべ、海辺を歩いていた。


「海……海……あぁーなんにも浮かばないな」


 少しでも体温を下げるために、足を海に入れているが、全然涼しくなることがない。更には、詩も浮かばないのである。

 夏代は、帰るために海から離れていく。


「よーい、はい!!」


 夏代の足が止まる。遠くから、誰かの声が聞こえてきた。夏代はその声が聞こえる方へ足を向ける。

 声の聞こえる方へ向かうと、夏休み中の大学生らしき男女が、なにかしら撮影をしていた。


「カーット!!」

「もう一回、やろー」

「私も賛成。今のはもっと表情作った方がいいと思う」

「んじゃ、もう一回」


 夏代は少し遠くから眺めていた。

「よーい、はい!」と言う、男子学生の声とともに音楽がなる。

 その音楽は聞き間違えることはない。この音楽は夏代の作った音楽だった。


「これ、なんで……」


 昨年の夏に作った夏の曲である。夏代は何故自分の曲を流しながら、彼らが撮影しているのか、とても気になって撮影している所へ向かう。


「カット! 今のはいいでしょ!」

「んじゃ、次のカットいこう」


 学生たちは、少し海の方へ近づいていく。

 その学生たちへ近づき、声を掛ける。


「あのー……」

「ん?」

「え、え、夏代だ!!」

「あぁ……この人だ」

「あの、今の曲……」

「あ、ご、ごめんなさい! 勝手に使って」


 夏代はただ疑問に思ったことを、投げかけただけなのだが、1人の女子学生が深々と頭を下げた。


「いや、別に怒ってるわけじゃなくて、何してるのかな?って」

「あ、えっと……」

「俺たち、大学のサークル仲間なんです!」

「今日は、コイツが勧めてきた曲で、自主制作でミュージックビデオを作ろうってなったんです」

「そうなんだ」

「勝手に使って、ごめんなさい!」

「ううん、むしろ私のこと知っててくれて嬉しい。しかも、ミュージックビデオ作ってくれるなんて」

「……本当、ですか?」

「うん!」


 安心したのか、女子学生はヘナヘナとその場に座り込んだ。そして夏代が近づくと、嬉しそうに笑う。


「あの! この曲、本当に好きで、毎日聞いちゃうんですよ」

「ありがとう」

「生の夏代だ……」

「握手する?」

「ぜひ!!」


 食い気味の女子学生が、夏代と話している間、他の学生たちはなにかのセッティングをしている。


「……あなたが主演っていうのかな? 演じてるの?」

「あ、はい……とても申し訳ないのですが」

「頑張って」

「はい!」

「撮影、見ててもいいかな?」

「ん〜緊張しちゃいますが、ぜひ見てください!」


 女子学生は監督を務める男子学生に呼ばれると、走っていく。


「青春だな……」


 学生たちの撮影しているのを見ていると、役目のない男子学生が走ってくる。

 夏代は首をかしげながら、自分に向かってくる男子学生を眺めている。


「あの!」

「……なに?」

「出演、してみませんか?」

「え?」

「演技とかしなくていいんで、歌ってくれませんか?」

「歌う……」


 事務所にも、なにも所属していない夏代は特に誰かに許可を取る必要も無い。

 詩を作るヒントになるのではないのかと、考えた夏代はすぐにOKを出した。

 学生の作るミュージックビデオ。もちろん、クオリティはそんなに高くはないだろう。

 けれど、撮影をしていて夏代は、とても楽しくなっていた。

 そして思い出した。夏代は音楽が好きだということを。歌うのか好きだということを。


「歌うのって、こんなに楽しかったんだ」


 最近では、詩を作ることに集中し、楽しさを忘れていた。その頃からか、夏が憂鬱になっていたのは。

 夏はこんなにも素敵な出会いをくれる。


「自分で歌ってたくせに、忘れてた」


 夏代は、歌い続ける。この名前と共に。


 あなたは夏と言ったら、何を思い浮かべますか?





 おわり


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