夏と音楽と海と
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お題【音楽】
お題【音楽】
夏。
そう、今の季節は夏。4つの季節の中で、暑さが特徴的な、季節。
では、あなたは夏と言ったら、何を思い浮かべますか?
海、太陽、カキ氷にスイカ。他にもたくさんある。
じゃあ、音楽で夏と言ったら、どんな音楽ですか?
爽やか系? 今にも踊りだしたくなるもの?
「私は、なんだろ」
彼女の名前は、夏代。今はしがないシンガーソングライターである。
そんな彼女は、この季節が来るといつも憂鬱になっていた。
暑いのがとても苦手で、いつもクーラーの効く部屋の中にいた。
けれど、この日は珍しく海に来ていた。詩が浮かばないのである。だから、海に来て詩を思い浮かべたくて。ただ、ただ、海に行ってみたくなったのだ。
「暑い……やっぱり、来なきゃ良かったかな……」
夏代は、額に汗を浮かべ、海辺を歩いていた。
「海……海……あぁーなんにも浮かばないな」
少しでも体温を下げるために、足を海に入れているが、全然涼しくなることがない。更には、詩も浮かばないのである。
夏代は、帰るために海から離れていく。
「よーい、はい!!」
夏代の足が止まる。遠くから、誰かの声が聞こえてきた。夏代はその声が聞こえる方へ足を向ける。
声の聞こえる方へ向かうと、夏休み中の大学生らしき男女が、なにかしら撮影をしていた。
「カーット!!」
「もう一回、やろー」
「私も賛成。今のはもっと表情作った方がいいと思う」
「んじゃ、もう一回」
夏代は少し遠くから眺めていた。
「よーい、はい!」と言う、男子学生の声とともに音楽がなる。
その音楽は聞き間違えることはない。この音楽は夏代の作った音楽だった。
「これ、なんで……」
昨年の夏に作った夏の曲である。夏代は何故自分の曲を流しながら、彼らが撮影しているのか、とても気になって撮影している所へ向かう。
「カット! 今のはいいでしょ!」
「んじゃ、次のカットいこう」
学生たちは、少し海の方へ近づいていく。
その学生たちへ近づき、声を掛ける。
「あのー……」
「ん?」
「え、え、夏代だ!!」
「あぁ……この人だ」
「あの、今の曲……」
「あ、ご、ごめんなさい! 勝手に使って」
夏代はただ疑問に思ったことを、投げかけただけなのだが、1人の女子学生が深々と頭を下げた。
「いや、別に怒ってるわけじゃなくて、何してるのかな?って」
「あ、えっと……」
「俺たち、大学のサークル仲間なんです!」
「今日は、コイツが勧めてきた曲で、自主制作でミュージックビデオを作ろうってなったんです」
「そうなんだ」
「勝手に使って、ごめんなさい!」
「ううん、むしろ私のこと知っててくれて嬉しい。しかも、ミュージックビデオ作ってくれるなんて」
「……本当、ですか?」
「うん!」
安心したのか、女子学生はヘナヘナとその場に座り込んだ。そして夏代が近づくと、嬉しそうに笑う。
「あの! この曲、本当に好きで、毎日聞いちゃうんですよ」
「ありがとう」
「生の夏代だ……」
「握手する?」
「ぜひ!!」
食い気味の女子学生が、夏代と話している間、他の学生たちはなにかのセッティングをしている。
「……あなたが主演っていうのかな? 演じてるの?」
「あ、はい……とても申し訳ないのですが」
「頑張って」
「はい!」
「撮影、見ててもいいかな?」
「ん〜緊張しちゃいますが、ぜひ見てください!」
女子学生は監督を務める男子学生に呼ばれると、走っていく。
「青春だな……」
学生たちの撮影しているのを見ていると、役目のない男子学生が走ってくる。
夏代は首をかしげながら、自分に向かってくる男子学生を眺めている。
「あの!」
「……なに?」
「出演、してみませんか?」
「え?」
「演技とかしなくていいんで、歌ってくれませんか?」
「歌う……」
事務所にも、なにも所属していない夏代は特に誰かに許可を取る必要も無い。
詩を作るヒントになるのではないのかと、考えた夏代はすぐにOKを出した。
学生の作るミュージックビデオ。もちろん、クオリティはそんなに高くはないだろう。
けれど、撮影をしていて夏代は、とても楽しくなっていた。
そして思い出した。夏代は音楽が好きだということを。歌うのか好きだということを。
「歌うのって、こんなに楽しかったんだ」
最近では、詩を作ることに集中し、楽しさを忘れていた。その頃からか、夏が憂鬱になっていたのは。
夏はこんなにも素敵な出会いをくれる。
「自分で歌ってたくせに、忘れてた」
夏代は、歌い続ける。この名前と共に。
あなたは夏と言ったら、何を思い浮かべますか?
おわり