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短編集〜ワンライ〜  作者: 山芋娘
24/39

キスは次会う時まで

お題【出発前】

現代もの、恋愛です!


pixiv URL:http://touch.pixiv.net/novel/show.php?id=7034836

 



 お題【出発】




 真夏の日が続き、肌はこんがり焼けている。

 大学の夏休み中。緒方弥生は実家に帰らず、大学が提供している寮で涼んでいた。


「ハァ……」


 ひとつ大きいため息を吐くが、なにも起こらない。

 短パンに半袖姿で、弥生は寮のロビーでぐったりしている。

 涼しいはずのロビーだが、それでも外と通じる扉が開くたびに、外からの暑さが入ったくるため、ぐったりしていた。


「なにしてんだ」

「冷たっ」

「俺が奢ってやるよ」

「あざーす」

「で、なにしてるんだ?」


 弥生の額に、ポキッと折れて二人で分け合えるアイスを当てた、彼は飯島大智。

 弥生の向かいに座ると、アイスを食べ始まる。


「部屋に居たんだけど、まさかのクーラー故障」

「それは災難だったな」

「でしょー。だから、ロビーに避難」

「実家帰れよ」

「バイトが忙しいの〜」

「休ませてもらえよ」

「無理だった」

「早くから言わないからだよ。ばーか」

「うっさい……。ん?」


 弥生は、大智の後ろに置いてあるトランクを見つけ、首を傾げる。


「なに、アンタ帰るの?」

「……あぁ。まぁ」

「どうした?」

「しばらく、こっち帰ってこないかも」

「まぁ、夏休みだしね」

「いや、夏休み終わっても、帰ってこれないかも」

「……なんで?」

「ちょっと家の用事で」

「そう」


 弥生は、大智から目を離し、アイスを吸い続ける。

 大智は弥生よりも早く食べ終える。そして、ゴミを捨てると、「じゃあな」と一言声を掛け、ロビーから出て行った。

 弥生はその場を動かず、そのまま。

 実家に帰っている者が多いのか、寮内には人は少ない。しかもロビーには弥生しかいない。たまに、部活をしに行くために大学へ向かう学生たちが、寮を通って行く時の話し声が響くだけである。

 時間が過ぎていく。空調の音だけが弥生の耳に届く。

 ひとつため息を吐く。

 そこに同じ寮の同じ階に住む笹塚琴子が現れる。


「いいの」

「琴子」

「追いかけなくて、いいの?」

「……見てたの?」

「いや、時間がそうかなって」

「別に、辞めるわけじゃないから」

「……昨日、飯島が仲間内に話してたの聞いたら、辞めるかもしれないって、言ってたよ」

「……別にどうでもいい」

「弥生」

「……暑いの嫌いなの」

「弥生?」

「……分かったよ」


 食べ終えたアイスの空をゴミ箱に投げ捨てると、ロビーから走って出ていく。

 ロビーに残った琴子は、「やっとか」と呟くとアイスを買いに、寮内にある売店へ向かった。




 太陽が照りつける中、弥生が走る。走るとは思っていなかったため、すぐに脱げるサンダルを履いてきてしまったことに後悔していた。

 背中に汗が流れる。それがとても気持ち悪い。けれど、そんなこと今はどうでもいい。

 弥生はただバス停へと走り続ける。

 そして、バス停が見えた。


「大智!」


 バス停前に大智が立っていた。

 いきなり名前を呼ばれ、大智は驚いた表情を見せる。

 弥生は大智の所へ走る。汗が吹き出している。


「どうした?」

「辞めるの!?」

「え、いや、うん……。帰ってみなきゃ、わかんね」

「ちゃんと、帰ってこい」

「は?」

「アンタがいないと、その寂しい、じゃん」

「……お、おう」

「だから、帰ってこい」

「分かったよ」


 弥生の頭に手を乗せ、髪の毛を思いきりグシャグシャにする。

「やめろ!」と、手を振り払った瞬間、目の前に大智の頭が現れる。


「な、」

「帰って来るまで、取っておくよ」

「は、はぁ!?」


 そこへバスが来た。

 顔を真っ赤にさせている弥生を他所に、大智はバスに乗ろうと準備する。


「じゃあな」

「か、帰ってくんな!」

「おいおい」

「じゃあね!」

「弥生!」

「なに!?」

「好きだぞ」

「ん〜〜、うっさい!! さっさと行け!」


 弥生は、再び顔を真っ赤にして去っていく。


こんな青春したかった!!

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