キスは次会う時まで
お題【出発前】
現代もの、恋愛です!
pixiv URL:http://touch.pixiv.net/novel/show.php?id=7034836
お題【出発】
真夏の日が続き、肌はこんがり焼けている。
大学の夏休み中。緒方弥生は実家に帰らず、大学が提供している寮で涼んでいた。
「ハァ……」
ひとつ大きいため息を吐くが、なにも起こらない。
短パンに半袖姿で、弥生は寮のロビーでぐったりしている。
涼しいはずのロビーだが、それでも外と通じる扉が開くたびに、外からの暑さが入ったくるため、ぐったりしていた。
「なにしてんだ」
「冷たっ」
「俺が奢ってやるよ」
「あざーす」
「で、なにしてるんだ?」
弥生の額に、ポキッと折れて二人で分け合えるアイスを当てた、彼は飯島大智。
弥生の向かいに座ると、アイスを食べ始まる。
「部屋に居たんだけど、まさかのクーラー故障」
「それは災難だったな」
「でしょー。だから、ロビーに避難」
「実家帰れよ」
「バイトが忙しいの〜」
「休ませてもらえよ」
「無理だった」
「早くから言わないからだよ。ばーか」
「うっさい……。ん?」
弥生は、大智の後ろに置いてあるトランクを見つけ、首を傾げる。
「なに、アンタ帰るの?」
「……あぁ。まぁ」
「どうした?」
「しばらく、こっち帰ってこないかも」
「まぁ、夏休みだしね」
「いや、夏休み終わっても、帰ってこれないかも」
「……なんで?」
「ちょっと家の用事で」
「そう」
弥生は、大智から目を離し、アイスを吸い続ける。
大智は弥生よりも早く食べ終える。そして、ゴミを捨てると、「じゃあな」と一言声を掛け、ロビーから出て行った。
弥生はその場を動かず、そのまま。
実家に帰っている者が多いのか、寮内には人は少ない。しかもロビーには弥生しかいない。たまに、部活をしに行くために大学へ向かう学生たちが、寮を通って行く時の話し声が響くだけである。
時間が過ぎていく。空調の音だけが弥生の耳に届く。
ひとつため息を吐く。
そこに同じ寮の同じ階に住む笹塚琴子が現れる。
「いいの」
「琴子」
「追いかけなくて、いいの?」
「……見てたの?」
「いや、時間がそうかなって」
「別に、辞めるわけじゃないから」
「……昨日、飯島が仲間内に話してたの聞いたら、辞めるかもしれないって、言ってたよ」
「……別にどうでもいい」
「弥生」
「……暑いの嫌いなの」
「弥生?」
「……分かったよ」
食べ終えたアイスの空をゴミ箱に投げ捨てると、ロビーから走って出ていく。
ロビーに残った琴子は、「やっとか」と呟くとアイスを買いに、寮内にある売店へ向かった。
太陽が照りつける中、弥生が走る。走るとは思っていなかったため、すぐに脱げるサンダルを履いてきてしまったことに後悔していた。
背中に汗が流れる。それがとても気持ち悪い。けれど、そんなこと今はどうでもいい。
弥生はただバス停へと走り続ける。
そして、バス停が見えた。
「大智!」
バス停前に大智が立っていた。
いきなり名前を呼ばれ、大智は驚いた表情を見せる。
弥生は大智の所へ走る。汗が吹き出している。
「どうした?」
「辞めるの!?」
「え、いや、うん……。帰ってみなきゃ、わかんね」
「ちゃんと、帰ってこい」
「は?」
「アンタがいないと、その寂しい、じゃん」
「……お、おう」
「だから、帰ってこい」
「分かったよ」
弥生の頭に手を乗せ、髪の毛を思いきりグシャグシャにする。
「やめろ!」と、手を振り払った瞬間、目の前に大智の頭が現れる。
「な、」
「帰って来るまで、取っておくよ」
「は、はぁ!?」
そこへバスが来た。
顔を真っ赤にさせている弥生を他所に、大智はバスに乗ろうと準備する。
「じゃあな」
「か、帰ってくんな!」
「おいおい」
「じゃあね!」
「弥生!」
「なに!?」
「好きだぞ」
「ん〜〜、うっさい!! さっさと行け!」
弥生は、再び顔を真っ赤にして去っていく。
こんな青春したかった!!




