貴方に会いたくて
お題【過去/切なくて/ファーストフード】より
【過去/ファーストフード】
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お題【過去/切なくて/ファーストフード】より
【過去/ファーストフード】
職場の近所にファーストフード店が出来た。徒歩10分で行ける。徒歩10分は近い。けれどもうあの人はいない。
それはもう過去になる。13年くらい前になるのかな。その時も家の近所にファーストフード店が出来ていた。
13年前の春。
家から徒歩15分という、まあ少し遠いかもしれない。中学生の野呂サトリは、休日になると、友達と共にファーストフード店へ行き、お昼を食べ遊びに出かけていた。
そして、翌年の夏。部活も引退したサトリ。
両親は共働き、兄弟も姉妹もいなかったため、夏休みはいつも1人で昼ごはんを食べていた。
朝起きると、ダイニングの上にお金が置いてあり、「好きなものを食べなさい」と置き手紙が一緒にあった。
「今日は何食べようかな〜」
けれど、寂しさは無かった。夜ごはんは一緒に食べられるし、休日になれば出掛けにも行ってくれる。
そんな今日のサトリは、近所のファーストフード店に行こうとしていた。前に友達と行った時に、年上の男の人が接客してくれたのを思い出したからだ。
「よし! 暑いけど行くぞ」
サトリはすぐに着替えを済ませると、炎天下の中、ファーストフード店へ向かった。
お金は充分にある。ハンバーガーにポテト。アイスも食べちゃおうか。そんな事を考えながら、足を進めていく。
店につき中に入ると、お昼時だと言うのに、客が少ない。
「いらっしゃいませ」
レジの所には、サトリのお目当ての男性従業員がいた。爽やかな笑顔で、サトリに笑いかけてくる。
サトリはドキッとすると、少し緊張した状態でレジ前に進む。
「えっと……。は、ハンバーガーを1つと……」
「はい。ハンバーガーを1つ」
「ポテトのSと、ソーダをください」
「はい。ハンバーガーの方、少しお時間頂いてもいいですか?」
「はい! 大丈夫です」
「では、お席にお持ちしますね」
無事会計を済ませると、番号札を持ち窓際の席に着く。
「ふぅ」と一息吐くと、店内を見回す。やはり客は少ない。夏休みでお昼時。なのに、このガラガラさは正しく閑古鳥が鳴いている状態だ。
「なんでだろ……」
「お待たせしました」
「あ!」
「ん?」
「いえ、ありがとうございます!」
「ごゆっくりどうぞ」
サトリは彼の後ろ姿に惹かれるように、見つめていると、レジに立つ彼と目が合ってしまい、手を振られる。咄嗟に手を振り返すと、満面の笑みを返してくれた。
「ドキドキしてる……」
顔を赤くしながら、ハンバーガーを頬張り始まる。出来立てのためとても熱々の状態だった。
次の日。
今日もサトリは、ファーストフード店へ向かっていた。店には、昨日と同じ男性従業員がいた。
「こんにちは」
「あぁ、いらっしゃいませ。今日も来たんだ?」
「はい」
昨日とは、別のものを注文する。するとまた番号札を渡される。
昨日と同じ席に着き、また店内を見回す。昨日よりも客がいない。とても暇な状態に見えた。
「お待たせしました」
「ありがとうございます!」
「今日も一人なんだね」
「親が仕事で……。友達はなんか旅行行ってて」
「そうなんだ。でも、ハンバーガーばかりじゃあダメだよ」
「は〜い」
そして、次の日もお店に行った。するとまた彼はいた。
彼は大学生で、百瀬と言うらしい。苗字は元々名札で分かっていたが、ちゃんと彼から名前を聞いたことで、認識した。更に教師を目指しているということも知った。
土日は、両親がいたので共に一日中過ごし、そして8月も下旬に差し掛かった月曜日になった。
サトリは再び、ファーストフード店へ。やはり百瀬はバイトをしていた。サークルというものは、土曜日のみ。暇なためにバイトをいっぱいしてるとか。
「こんにちは、百瀬さん!」
「こんにちは、サトリちゃん。」
「今日はですね〜」
「宿題は、ちゃんとやってるの?」
「もう終わりました! これでも真面目な方なんですから」
「へぇー意外」
「百瀬さんは、夏休みの最後の方に一気にやるタイプですよね?」
「バレたか」
楽しく話している2人。サトリは、注文を終えるといつもの席に着く。店内は相変わらず、閑古鳥が鳴いている。
「なんか、独り占めしてるみたいでいいな」
「うふふ」と、1人で笑っていると、ポスターが目に入った。
『8月で閉店致します。今までありがとうございました!』と、書いてある。
「お待たせ」
「百瀬さん!」
「ん? 注文間違えた!?」
「注文は合ってます! あれ」
ポスターを指差すサトリ。そのポスターを見ると、百瀬が苦笑いを浮かべる。
「あぁ、うん。8月で閉店なんだ。この有様だからね」
百瀬の言う通り、閑古鳥が鳴いている状態だ。昨年の4月にオープンしてから、今年の8月で閉店。オープン当時は多くの客が来ていたが、車が入りにくい立地という事と、近くに多くのお店があるためだった。
「じゃあ、8月で閉店したら、百瀬さんに会えないの?」
「なに、俺に会いに来てくれてるの?」
「え、いや……。うん」
「嬉しいこと言ってくれるね〜」
百瀬に頭を撫でられるのを嬉しそうに受け入れる。
「まぁまだ閉店まで日にちはあるからさ、ジュースだけでも買いに来てよ。ほぼ毎日いるから」
「うん!」
そして、8月も終わり店は閉店した。閉店する日はもちろん足を運び、百瀬と写真も撮った。
それはサトリにとっては宝物になった。
10年後の現在。
サトリは、中学校の教師になっていた。元々、教師には憧れていたため、中学校教師になったのは、大学に入ってから、決めたこと。
「野呂先生」
「はい! 今、行きます!」
「急がなくていいよ」
「いえ、すいません」
「じゃあ、行こうか」
「はい! 百瀬先生!」
職員室で、ボーッとしていたサトリを同じクラスを担任する百瀬が呼びに来た。
共に職員室を出ると、担当するクラスへと、向かっていく。
小学生の時に、週3でファーストフード店に通った経験を少し織り交ぜて書きました。




