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短編集〜ワンライ〜  作者: 山芋娘
22/39

貴方に会いたくて

 お題【過去/切なくて/ファーストフード】より

【過去/ファーストフード】


pixiv URL:http://touch.pixiv.net/novel/show.php?id=7026356


 



 お題【過去/切なくて/ファーストフード】より

【過去/ファーストフード】




 職場の近所にファーストフード店が出来た。徒歩10分で行ける。徒歩10分は近い。けれどもうあの人はいない。

 それはもう過去になる。13年くらい前になるのかな。その時も家の近所にファーストフード店が出来ていた。




 13年前の春。

 家から徒歩15分という、まあ少し遠いかもしれない。中学生の野呂サトリは、休日になると、友達と共にファーストフード店へ行き、お昼を食べ遊びに出かけていた。

 そして、翌年の夏。部活も引退したサトリ。

 両親は共働き、兄弟も姉妹もいなかったため、夏休みはいつも1人で昼ごはんを食べていた。

 朝起きると、ダイニングの上にお金が置いてあり、「好きなものを食べなさい」と置き手紙が一緒にあった。


「今日は何食べようかな〜」


 けれど、寂しさは無かった。夜ごはんは一緒に食べられるし、休日になれば出掛けにも行ってくれる。

 そんな今日のサトリは、近所のファーストフード店に行こうとしていた。前に友達と行った時に、年上の男の人が接客してくれたのを思い出したからだ。


「よし! 暑いけど行くぞ」


 サトリはすぐに着替えを済ませると、炎天下の中、ファーストフード店へ向かった。

 お金は充分にある。ハンバーガーにポテト。アイスも食べちゃおうか。そんな事を考えながら、足を進めていく。

 店につき中に入ると、お昼時だと言うのに、客が少ない。


「いらっしゃいませ」


 レジの所には、サトリのお目当ての男性従業員がいた。爽やかな笑顔で、サトリに笑いかけてくる。

 サトリはドキッとすると、少し緊張した状態でレジ前に進む。


「えっと……。は、ハンバーガーを1つと……」

「はい。ハンバーガーを1つ」

「ポテトのSと、ソーダをください」

「はい。ハンバーガーの方、少しお時間頂いてもいいですか?」

「はい! 大丈夫です」

「では、お席にお持ちしますね」


 無事会計を済ませると、番号札を持ち窓際の席に着く。

「ふぅ」と一息吐くと、店内を見回す。やはり客は少ない。夏休みでお昼時。なのに、このガラガラさは正しく閑古鳥が鳴いている状態だ。


「なんでだろ……」

「お待たせしました」

「あ!」

「ん?」

「いえ、ありがとうございます!」

「ごゆっくりどうぞ」


 サトリは彼の後ろ姿に惹かれるように、見つめていると、レジに立つ彼と目が合ってしまい、手を振られる。咄嗟に手を振り返すと、満面の笑みを返してくれた。


「ドキドキしてる……」


 顔を赤くしながら、ハンバーガーを頬張り始まる。出来立てのためとても熱々の状態だった。




 次の日。

 今日もサトリは、ファーストフード店へ向かっていた。店には、昨日と同じ男性従業員がいた。


「こんにちは」

「あぁ、いらっしゃいませ。今日も来たんだ?」

「はい」


 昨日とは、別のものを注文する。するとまた番号札を渡される。

 昨日と同じ席に着き、また店内を見回す。昨日よりも客がいない。とても暇な状態に見えた。


「お待たせしました」

「ありがとうございます!」

「今日も一人なんだね」

「親が仕事で……。友達はなんか旅行行ってて」

「そうなんだ。でも、ハンバーガーばかりじゃあダメだよ」

「は〜い」




 そして、次の日もお店に行った。するとまた彼はいた。

 彼は大学生で、百瀬と言うらしい。苗字は元々名札で分かっていたが、ちゃんと彼から名前を聞いたことで、認識した。更に教師を目指しているということも知った。

 土日は、両親がいたので共に一日中過ごし、そして8月も下旬に差し掛かった月曜日になった。

 サトリは再び、ファーストフード店へ。やはり百瀬はバイトをしていた。サークルというものは、土曜日のみ。暇なためにバイトをいっぱいしてるとか。


「こんにちは、百瀬さん!」

「こんにちは、サトリちゃん。」

「今日はですね〜」

「宿題は、ちゃんとやってるの?」

「もう終わりました! これでも真面目な方なんですから」

「へぇー意外」

「百瀬さんは、夏休みの最後の方に一気にやるタイプですよね?」

「バレたか」


 楽しく話している2人。サトリは、注文を終えるといつもの席に着く。店内は相変わらず、閑古鳥が鳴いている。


「なんか、独り占めしてるみたいでいいな」


「うふふ」と、1人で笑っていると、ポスターが目に入った。

 『8月で閉店致します。今までありがとうございました!』と、書いてある。


「お待たせ」

「百瀬さん!」

「ん? 注文間違えた!?」

「注文は合ってます! あれ」


 ポスターを指差すサトリ。そのポスターを見ると、百瀬が苦笑いを浮かべる。


「あぁ、うん。8月で閉店なんだ。この有様だからね」


 百瀬の言う通り、閑古鳥が鳴いている状態だ。昨年の4月にオープンしてから、今年の8月で閉店。オープン当時は多くの客が来ていたが、車が入りにくい立地という事と、近くに多くのお店があるためだった。


「じゃあ、8月で閉店したら、百瀬さんに会えないの?」

「なに、俺に会いに来てくれてるの?」

「え、いや……。うん」

「嬉しいこと言ってくれるね〜」


 百瀬に頭を撫でられるのを嬉しそうに受け入れる。


「まぁまだ閉店まで日にちはあるからさ、ジュースだけでも買いに来てよ。ほぼ毎日いるから」

「うん!」


 そして、8月も終わり店は閉店した。閉店する日はもちろん足を運び、百瀬と写真も撮った。

 それはサトリにとっては宝物になった。





 10年後の現在。

 サトリは、中学校の教師になっていた。元々、教師には憧れていたため、中学校教師になったのは、大学に入ってから、決めたこと。


「野呂先生」

「はい! 今、行きます!」

「急がなくていいよ」

「いえ、すいません」

「じゃあ、行こうか」

「はい! 百瀬先生!」


 職員室で、ボーッとしていたサトリを同じクラスを担任する百瀬が呼びに来た。

 共に職員室を出ると、担当するクラスへと、向かっていく。


小学生の時に、週3でファーストフード店に通った経験を少し織り交ぜて書きました。

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