これは憧れなんかじゃない
ワンライ作品です。
お題【風邪/虹/憧れの】です。
百合、先生×生徒を扱っています。
苦手な方は、回避してください。
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お題【風邪/虹/憧れの】
風邪を引いた。
春野明恵は、学校の寮の部屋で寝込んでいた。額には冷却シートを貼り、枕も氷枕にしている。
同室の弥生は元気に登校している。彼女のせいで風邪を引いたというのに、「めんご」と一言で済まされてしまった。
「弥生のやつ……。呪う」
寝なければならないと分かっているものの、この時間は当然起きているので、寝ることが出来ない。
なにか音楽でも聞こうと思ったのだが、動くのも嫌になり、更に音に敏感になっているため、聞くことも嫌になっていた。
「うう……。辛いよ……」
気分が落ち込むのも仕方ない。外は大降りの雨なのだ。雨が降るというだけでも、気分は落ち込むのに、更に風邪まで引いてしまったのだ。落ち込まずにはいられないだろう。
明恵は、壁に掛けてあるコルクボードに目を移す。そこには写真が多く貼られている。
「先生、来ないかな……」
多くの写真の中に、女性教師と2人で撮った写真もある。教師は1年の時の担任で、明恵が懐いていた。2年に上がると、別のクラスの担任になってしまったが、何かある度に教師もとへ行っていた。
この気持ちは、何なのかさっぱり分からなかった。けれど、教師には会いたくて堪らない。
実家にいる姉に色々相談してみると、「恋」だと言われた。それから教師に対する思いは大きくなるばかりだった。
「……先生。会いたい」
「何か言ったかい?」
「え?」
部屋に入って来たのは、たった今考えていた教師だった。手には小さな鍋が乗ったお盆がある。
「先生……?」
「あぁ。春野が風邪引いたって聞いてね」
「わざわざ来てくれたの?」
「今日、私が受け持つ授業が少ないからね」
ベッドの近くに小さな机を出してくると、お盆をそこに置き座る。
「起きられる?」
「はい……」
「無理だったら、楽になった時でも」
「今、食べる! 先生が作ってくれたんだもん」
「はいはい」
明恵は気だるい体をなんとか起こし、机の前に座る。教師が鍋の蓋を開けると、お粥が一面に広がっていた。
「美味しそう! 卵だぁ」
「味が濃いかもしれないけど」
「濃い味好きだから、大丈夫です! いただきます」
レンゲを手に、お粥を食べていく。明恵の舌にちょうど合う味だったためか、とても美味しそうに食べ進めていく。
決めればはその姿を見て、嬉しそうに笑っている。
「先生」
「なに?」
「私が卒業したら、先生、お嫁さんにほしいな〜」
「なに言ってるの? そんな事言ってないで、早く食べて元気になりなさい」
「んー! 先生のこと好きなの!」
「はいはい」
「流さないで!」
「アンタの私への好きは、年上の人に憧れって言うのがあるの。憧れの女の人」
「そんなのじゃない!」
「いいや、憧れだね」
「違う」
「……アンタはまだ子供なんだよ? 男の人と知り合ってないから、そうやって勘違いしてるの」
頬を膨らまし、不貞腐れる明恵。その姿を見て、教師は明恵の頭を優しく撫でてやる。
「でも。アンタが大人になって、それでも私に対して、今と同じ気持ちなら、また告白しに来なさい」
「え?」
「じゃあ、私は授業があるから」
「え、先生??」
「食べ終わったら、寝なさいね」
「待って! 先生、どういうこと!?!?」
「じゃあね〜」
「先生!!」
教師は、明恵の叫び声に耳を傾けることなく、部屋を出ていく。
明恵はレンゲを持ったまま、固まってしまっている。先程の言葉は本当なのだろうか?脈があるのか?と、そんな事ばかり考えてしまい、明恵は考える事に疲れ倒れるように、ベッドに潜り込んだ。誰もいないが、真っ赤な顔を隠すように。
「明日からどんな顔すればいいの〜!!」
ベッドの中で悶える明恵。風邪が吹き飛ぶように、外の雨は上がり、虹が綺麗に掛かっていた。




