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短編集〜ワンライ〜  作者: 山芋娘
21/39

これは憧れなんかじゃない

ワンライ作品です。

お題【風邪/虹/憧れの】です。

百合、先生×生徒を扱っています。

苦手な方は、回避してください。


ppixiv URL:http://touch.pixiv.net/novel/show.php?id=7022698

 


 お題【風邪/虹/憧れの】




 風邪を引いた。

 春野明恵は、学校の寮の部屋で寝込んでいた。額には冷却シートを貼り、枕も氷枕にしている。

 同室の弥生は元気に登校している。彼女のせいで風邪を引いたというのに、「めんご」と一言で済まされてしまった。


「弥生のやつ……。呪う」


 寝なければならないと分かっているものの、この時間は当然起きているので、寝ることが出来ない。

 なにか音楽でも聞こうと思ったのだが、動くのも嫌になり、更に音に敏感になっているため、聞くことも嫌になっていた。


「うう……。辛いよ……」


 気分が落ち込むのも仕方ない。外は大降りの雨なのだ。雨が降るというだけでも、気分は落ち込むのに、更に風邪まで引いてしまったのだ。落ち込まずにはいられないだろう。

 明恵は、壁に掛けてあるコルクボードに目を移す。そこには写真が多く貼られている。


「先生、来ないかな……」


 多くの写真の中に、女性教師と2人で撮った写真もある。教師は1年の時の担任で、明恵が懐いていた。2年に上がると、別のクラスの担任になってしまったが、何かある度に教師もとへ行っていた。

 この気持ちは、何なのかさっぱり分からなかった。けれど、教師には会いたくて堪らない。

 実家にいる姉に色々相談してみると、「恋」だと言われた。それから教師に対する思いは大きくなるばかりだった。


「……先生。会いたい」

「何か言ったかい?」

「え?」


 部屋に入って来たのは、たった今考えていた教師だった。手には小さな鍋が乗ったお盆がある。


「先生……?」

「あぁ。春野が風邪引いたって聞いてね」

「わざわざ来てくれたの?」

「今日、私が受け持つ授業が少ないからね」


 ベッドの近くに小さな机を出してくると、お盆をそこに置き座る。


「起きられる?」

「はい……」

「無理だったら、楽になった時でも」

「今、食べる! 先生が作ってくれたんだもん」

「はいはい」


 明恵は気だるい体をなんとか起こし、机の前に座る。教師が鍋の蓋を開けると、お粥が一面に広がっていた。


「美味しそう! 卵だぁ」

「味が濃いかもしれないけど」

「濃い味好きだから、大丈夫です! いただきます」


 レンゲを手に、お粥を食べていく。明恵の舌にちょうど合う味だったためか、とても美味しそうに食べ進めていく。

 決めればはその姿を見て、嬉しそうに笑っている。


「先生」

「なに?」

「私が卒業したら、先生、お嫁さんにほしいな〜」

「なに言ってるの? そんな事言ってないで、早く食べて元気になりなさい」

「んー! 先生のこと好きなの!」

「はいはい」

「流さないで!」

「アンタの私への好きは、年上の人に憧れって言うのがあるの。憧れの女の人」

「そんなのじゃない!」

「いいや、憧れだね」

「違う」

「……アンタはまだ子供なんだよ? 男の人と知り合ってないから、そうやって勘違いしてるの」


 頬を膨らまし、不貞腐れる明恵。その姿を見て、教師は明恵の頭を優しく撫でてやる。


「でも。アンタが大人になって、それでも私に対して、今と同じ気持ちなら、また告白しに来なさい」

「え?」

「じゃあ、私は授業があるから」

「え、先生??」

「食べ終わったら、寝なさいね」

「待って! 先生、どういうこと!?!?」

「じゃあね〜」

「先生!!」


 教師は、明恵の叫び声に耳を傾けることなく、部屋を出ていく。

 明恵はレンゲを持ったまま、固まってしまっている。先程の言葉は本当なのだろうか?脈があるのか?と、そんな事ばかり考えてしまい、明恵は考える事に疲れ倒れるように、ベッドに潜り込んだ。誰もいないが、真っ赤な顔を隠すように。


「明日からどんな顔すればいいの〜!!」


 ベッドの中で悶える明恵。風邪が吹き飛ぶように、外の雨は上がり、虹が綺麗に掛かっていた。


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