君の声を追って
お題【不思議/花火/君の声】より【花火/君の声】
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シリアス展開、死ネタを含みます。
お題【不思議/花火/君の声】より
【花火/君の声】
声が聞こえた。そう君の声だ。花火の音にかき消されてしまったが、確かに君の声だった。
夏の終わりを告げるかのように、夏祭りは賑わっていた。屋台が並び、客がひしめき合っている。
花火の時間がになり、空は明るい色とりどりの光が輝いていた。
「おおー!」
「綺麗……」
そんな声が、至るところから、聞こえてくる。けれど、それ以外にも声は聞こえる。屋台からは物を売り切ろうと、必死に客寄せをしている声。道で立ち止まっている客に対して、注意をしている警備員の声。
様々な人間が集まっている祭りの中に、一人寂しく空を見上げているのが、廉太。
「確かに、綺麗だな」
どこからか聞こえてきた声に共感しているが、心から思っているかは本人にも分かっていない。
何故、こんな人が多い所に来てしまったのか。これも本人にも分かっていなかった。いや、分かっているのに、分かりたくなかったのだ。
昨年、一緒に祭りに来た彼女の瞳のことを探している自分がいる。もういないのに。どこに行っても、彼女はいないのに。
「瞳……」
彼女と一緒に行った所へは、全て一人でも行った。彼女がいるかもしれないと思い。
「一人じゃなかったら、良いのにな……」
「じゃあ、二人で見ようよ」
廉太の耳に声が聞こえてきた。
「……今の」
「れん、こっちだよ」
「瞳……?」
声が聞こえた。そう君の声だ。花火の音にかき消されてしまったが、確かに君の声だった。
花火が上がっている方とは逆へと歩き出す。
この階段の先は、神社がある。境内の中にまで屋台が並んでおり、客が大勢いた。熱気にやられ、汗が流れるのが分かる。
「瞳……」
「れん、こっち」
声のする方を見ると、客の間から手が伸びるのが見えた。その手は廉太のことを手招きしている。
まるで遊ばれているようにも思えるが、瞳に会えるなら、何だっていい。
そんなことを考えながら、客の間をすり抜ける。
神社から離れた場所に来た。階段を上がってきていたため、高台になっている。人はそこそこいる。
「どこに……。いるんだ?」
「こっち」
雑木林の間から声が聞こえる。流石に人はいないだろう。廉太は一度、息を呑むと雑木林の中へと入っていく。
少し歩いていくと、開けた場所に出た。人は誰もいないが、花火はよく見える。穴場スポットになっている。
「すげー」
「いいでしょー。ここ」
「瞳!」
「久しぶり」
「あぁ」
水色の生地に赤い金魚が数匹いる着物を着ている瞳。まるで生きている人間のようだ。
「会いたくなって、来ちゃった」
「俺も、会いたかった」
「ありがとう」
花火が終盤を向かえてきたのが、大きいサイズの花火がゆっくりと上がり始めてきた。
「綺麗だね」
「あぁ……。綺麗だ」
「れん」
「ん?」
「……あの、ね」
瞳が廉太に近づいてくる。花火の光が廉太を照らす。
「ずっと、一緒にいよう」
「え、」
瞳の手が廉太の肩を押す。そのままゆっくりと廉太の体が、高台から落ちていく。
花火の光のせいなのか、スローモーションのように、一コマ一コマがゆっくりと目に映っていく。
「瞳……」
廉太は受け入れるように、目を瞑り地面に体が打ち付けられるのを、感じていた。
「お前と一緒なら、死ぬのも悪くない」




