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短編集〜ワンライ〜  作者: 山芋娘
19/39

君の声を追って

お題【不思議/花火/君の声】より【花火/君の声】

pixiv URL:http://touch.pixiv.net/novel/show.php?id=7005001


シリアス展開、死ネタを含みます。


 



 お題【不思議/花火/君の声】より


【花火/君の声】






 声が聞こえた。そう君の声だ。花火の音にかき消されてしまったが、確かに君の声だった。




 夏の終わりを告げるかのように、夏祭りは賑わっていた。屋台が並び、客がひしめき合っている。

 花火の時間がになり、空は明るい色とりどりの光が輝いていた。


「おおー!」

「綺麗……」


 そんな声が、至るところから、聞こえてくる。けれど、それ以外にも声は聞こえる。屋台からは物を売り切ろうと、必死に客寄せをしている声。道で立ち止まっている客に対して、注意をしている警備員の声。

 様々な人間が集まっている祭りの中に、一人寂しく空を見上げているのが、廉太。


「確かに、綺麗だな」


 どこからか聞こえてきた声に共感しているが、心から思っているかは本人にも分かっていない。

 何故、こんな人が多い所に来てしまったのか。これも本人にも分かっていなかった。いや、分かっているのに、分かりたくなかったのだ。

 昨年、一緒に祭りに来た彼女の瞳のことを探している自分がいる。もういないのに。どこに行っても、彼女はいないのに。


「瞳……」


 彼女と一緒に行った所へは、全て一人でも行った。彼女がいるかもしれないと思い。


「一人じゃなかったら、良いのにな……」

「じゃあ、二人で見ようよ」


 廉太の耳に声が聞こえてきた。


「……今の」

「れん、こっちだよ」

「瞳……?」


 声が聞こえた。そう君の声だ。花火の音にかき消されてしまったが、確かに君の声だった。

 花火が上がっている方とは逆へと歩き出す。

 この階段の先は、神社がある。境内の中にまで屋台が並んでおり、客が大勢いた。熱気にやられ、汗が流れるのが分かる。


「瞳……」

「れん、こっち」


 声のする方を見ると、客の間から手が伸びるのが見えた。その手は廉太のことを手招きしている。

 まるで遊ばれているようにも思えるが、瞳に会えるなら、何だっていい。

 そんなことを考えながら、客の間をすり抜ける。

 神社から離れた場所に来た。階段を上がってきていたため、高台になっている。人はそこそこいる。


「どこに……。いるんだ?」

「こっち」


 雑木林の間から声が聞こえる。流石に人はいないだろう。廉太は一度、息を呑むと雑木林の中へと入っていく。

 少し歩いていくと、開けた場所に出た。人は誰もいないが、花火はよく見える。穴場スポットになっている。


「すげー」

「いいでしょー。ここ」

「瞳!」

「久しぶり」

「あぁ」


 水色の生地に赤い金魚が数匹いる着物を着ている瞳。まるで生きている人間のようだ。


「会いたくなって、来ちゃった」

「俺も、会いたかった」

「ありがとう」


 花火が終盤を向かえてきたのが、大きいサイズの花火がゆっくりと上がり始めてきた。


「綺麗だね」

「あぁ……。綺麗だ」

「れん」

「ん?」

「……あの、ね」


 瞳が廉太に近づいてくる。花火の光が廉太を照らす。


「ずっと、一緒にいよう」

「え、」


 瞳の手が廉太の肩を押す。そのままゆっくりと廉太の体が、高台から落ちていく。

 花火の光のせいなのか、スローモーションのように、一コマ一コマがゆっくりと目に映っていく。


「瞳……」


 廉太は受け入れるように、目を瞑り地面に体が打ち付けられるのを、感じていた。


「お前と一緒なら、死ぬのも悪くない」


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