誰かの涙かもしれない
お題【雨の中】
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少しファンタジー要素を入れようと思い書きました。
最初は雨の中、号泣している女の子を書こうかな?って思ったんですけど、こうなった笑
お題【雨の中】
十年に一度だという大雨が降り始めてから、すでに三日が経っていた。今日は休日だが、人や車などは少ない。
三日前の大雨の時は雷も鳴り、近くの山に落ちたということだったららしいが、今日は雨と風だけ。
そんな中、柏木優生は傘を両手で持ち、必死に歩いていた。こんな中、歩きたくないと考えていたが、今日までの振込を忘れていたため、必死にコンビニに向かっていた。
「くそっ! なんだよ、暴風雨って……。降りすぎだろ!」
誰も聞いていないからと、優生は結構な声で独り言を呟いていた。無言で歩いていても虚しいが、大きな独り言も虚しい。
家から歩いて二十分ほどのコンビニを目指していたはずなのに、何故か四十分も掛かってしまった。自転車に乗ろうとしたが、風が強すぎて前に進まないのだ。
「車さえ持ってればな……」
車の免許証を取るには、年齢は達しているのだが、車の運転は怖くて無理だという理由と、免許を取るほどのお金を貯められていない。
いつかと思う時もあるが、車が無くても平気な気がしてそのままなのだ。
無事に支払いも済ませ、コンビニから出るが暴風雨はまだ収まっていない。大きなため息を吐きながら、歩き出す。
先程よりも弱まってきたため、歩くペースは早まった。
そんな優生の目に飛び込んできたのは、傘も差さずに空を見上げている白いワンピースが印象的な女。
「……何してるんだ、こんな雨の中で」
女は全身びしょ濡れの状態で一人、空を見上げながら、道路の真ん中へ向かっていく。
「パパ!! いい加減、怒りを収めてよ!!」
何かを叫んでいるが、いくら車の通りが少ないからと言って、道路の真ん中は危ない。
優生は飛び出していた。体が勝手に動き出していたのだ。女の腕を掴むと、思い切り自分の方へ引っ張り、歩道へと寄せる。
「危ないだろ」
「……え」
「歩行者天国じゃないんだ。道路歩くなよ」
「道路?」
女は自分が道路を歩いていたことに気付かずに歩いていたらしい。
「あの、ごめんなさい」
「いや、大丈夫?」
「え、あ、はい。私は大丈夫です」
女は笑顔で答える。濡れている事には、さして興味を示すことなく。
「……帰れる? 傘、貸そうか?」
「いえ、大丈夫です! もう少ししたら、終わると思うんで!」
「終わる?」
「はい」
優生の傘の中に入り、二人は話し込む。しばらく、女は傘から空を見上げる。
優生もなにかあるのかと思い、空を見上げる。すると雨が止んでいき、雲の隙間からは太陽が覗き込んできた。
「晴れた」
「ふぅ。やっと落ち着いたか」
「なにが?」
「えへへ。ちょっと結婚することになって」
「ん?」
優生は女が何を言っているのかいまいち分からないでいた。結婚するから雨というのは、繋がりがないから。
「私が結婚するってパパに言ったら、怒り出しちゃって、雷まで落ちちゃって」
「ん?」
「あ、迎えがきた。じゃあ、パパの気も収まったみたいなんで。傘入れてありがとうございました」
「え、ちょっと」
女が傘から出ていくと、女の目の前に狐が現れた。空から飛んできたという表現の方が合っている。
「ごめんねー、迎えに来てくれて」
狐のことを撫でると、狐は煙に包まれ大きな獣に変化した。
優生は傘を手から滑らせ落とすと、目の前にいる獣を凝視する。
「妖なんて、見たことないもんね」
「妖?」
「そう、私が結婚するって言ったらパパ怒り狂って、雨降らせ始めてさ」
「さっきもそれ、」
「じゃあ、ご迷惑をおかけしました」
ペコッと頭を下げると、女は獣の背中に乗る。獣は勢いを付けると空へと飛んでいく。
「なんだったんだ……」
雲一つない空に、白い獣が宙を舞う。




