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短編集〜ワンライ〜  作者: 山芋娘
18/39

誰かの涙かもしれない

お題【雨の中】

pixiv URL:http://touch.pixiv.net/novel/show.php?id=6999980


少しファンタジー要素を入れようと思い書きました。

最初は雨の中、号泣している女の子を書こうかな?って思ったんですけど、こうなった笑

 



 お題【雨の中】




  十年に一度だという大雨が降り始めてから、すでに三日が経っていた。今日は休日だが、人や車などは少ない。

  三日前の大雨の時は雷も鳴り、近くの山に落ちたということだったららしいが、今日は雨と風だけ。

  そんな中、柏木優生は傘を両手で持ち、必死に歩いていた。こんな中、歩きたくないと考えていたが、今日までの振込を忘れていたため、必死にコンビニに向かっていた。


「くそっ! なんだよ、暴風雨って……。降りすぎだろ!」


  誰も聞いていないからと、優生は結構な声で独り言を呟いていた。無言で歩いていても虚しいが、大きな独り言も虚しい。

  家から歩いて二十分ほどのコンビニを目指していたはずなのに、何故か四十分も掛かってしまった。自転車に乗ろうとしたが、風が強すぎて前に進まないのだ。


「車さえ持ってればな……」


  車の免許証を取るには、年齢は達しているのだが、車の運転は怖くて無理だという理由と、免許を取るほどのお金を貯められていない。

  いつかと思う時もあるが、車が無くても平気な気がしてそのままなのだ。


  無事に支払いも済ませ、コンビニから出るが暴風雨はまだ収まっていない。大きなため息を吐きながら、歩き出す。

  先程よりも弱まってきたため、歩くペースは早まった。

  そんな優生の目に飛び込んできたのは、傘も差さずに空を見上げている白いワンピースが印象的な女。

 

「……何してるんだ、こんな雨の中で」


  女は全身びしょ濡れの状態で一人、空を見上げながら、道路の真ん中へ向かっていく。


「パパ!! いい加減、怒りを収めてよ!!」


  何かを叫んでいるが、いくら車の通りが少ないからと言って、道路の真ん中は危ない。

  優生は飛び出していた。体が勝手に動き出していたのだ。女の腕を掴むと、思い切り自分の方へ引っ張り、歩道へと寄せる。


「危ないだろ」

「……え」

「歩行者天国じゃないんだ。道路歩くなよ」

「道路?」


  女は自分が道路を歩いていたことに気付かずに歩いていたらしい。


「あの、ごめんなさい」

「いや、大丈夫?」

「え、あ、はい。私は大丈夫です」


  女は笑顔で答える。濡れている事には、さして興味を示すことなく。


「……帰れる? 傘、貸そうか?」

「いえ、大丈夫です! もう少ししたら、終わると思うんで!」

「終わる?」

「はい」


  優生の傘の中に入り、二人は話し込む。しばらく、女は傘から空を見上げる。

  優生もなにかあるのかと思い、空を見上げる。すると雨が止んでいき、雲の隙間からは太陽が覗き込んできた。


「晴れた」

「ふぅ。やっと落ち着いたか」

「なにが?」

「えへへ。ちょっと結婚することになって」

「ん?」


  優生は女が何を言っているのかいまいち分からないでいた。結婚するから雨というのは、繋がりがないから。


「私が結婚するってパパに言ったら、怒り出しちゃって、雷まで落ちちゃって」

「ん?」

「あ、迎えがきた。じゃあ、パパの気も収まったみたいなんで。傘入れてありがとうございました」

「え、ちょっと」


  女が傘から出ていくと、女の目の前に狐が現れた。空から飛んできたという表現の方が合っている。


「ごめんねー、迎えに来てくれて」


  狐のことを撫でると、狐は煙に包まれ大きな獣に変化した。

  優生は傘を手から滑らせ落とすと、目の前にいる獣を凝視する。


「妖なんて、見たことないもんね」

「妖?」

「そう、私が結婚するって言ったらパパ怒り狂って、雨降らせ始めてさ」

「さっきもそれ、」

「じゃあ、ご迷惑をおかけしました」


  ペコッと頭を下げると、女は獣の背中に乗る。獣は勢いを付けると空へと飛んでいく。


「なんだったんだ……」


  雲一つない空に、白い獣が宙を舞う。


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