星とおでんとキスを
お題【星空】
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男女の恋物語です。
真夏なのに、真冬のお話……夏でもおでん食べたくなることがあります笑
お題【星空】
コンビニのバイトは、18時から22時まで。それが終わると、矢田彩香はバイト先でおでんを買い、近くの展望台へ上がる。
展望台と行っても、地域の人が勝手に付けた名前で、少し高台に開けた所があるだけ。そこは星を見るには最高のスポットである。
そのため、彩香はバイトがある日は必ず展望台へ上がっていた。
そして今日もあと10分で、バイトが終わろうとしていた。
「ん〜今日は忙しかった」
「そうっすね」
「なんで、ポテトあんなに売れたんだろ?」
「外、寒いからじゃないっすか?」
「確かに」
季節は冬。まだ雪は降っていないが、寒さはどんどん深まるばかり。
今日のバイトは二つ下の、男子高校生と一緒。仕事はしっかりとやるが、少し気だるそうなのが、考えものだ。
(あ、今日も来た)
コンビニに入ってきたのは、ダウンジャケットを着込み、マフラーをしっかりと巻いている男性。
入り口から入ってくると、奥へは行かず一直線にレジに来た。
「いらっしゃいませ」
「おでん……ちくわと大根と白滝をひとつずつ」
「はい」
おでんを頼んでいる彼は、彩香がバイトをしている日には必ず現れる学生である。そして必ず、「ちくわ、大根、白滝」を頼むのである。
「汁、おまけしておきました」
「ありがとう」
彼は、ふんわりと柔らかく笑うと、おでんを手に店を出ていく。
時間は、22時を過ぎた。
彩香もおでんを買う。具材は「こんにゃく、白滝、ソーセージ」の3つ。汁もたっぷりと入れる。
店を出ていき、自転車のカゴにおでんを入れると、日課である展望台へと向かう。
展望台のベンチには、先客がいた。
「こんばんは〜」
「さっきぶり」
それは先程、おでんを買った男子学生、三須彰。同じ大学の同じ学部。しかし、接点は全くなかったため、話したことは無かったのだが、ある日からこの展望台で会うようになった。
「お疲れ様」
「ありがとう」
「やっぱり、寒い日にはおでんだよね」
「うんうん」
三須の方は、食べ終えてしまってあとは汁だけ。三須の隣に座ると、彩香も熱々のおでんを頬張り始める。
「あつ、あつ」
「あはは〜」
「ん〜、この熱さがまたいいよね」
「だね」
「それにしても、星キレイ……」
「……うん」
熱いおでんを少しだけ冷まし、口に入れていく。ついでに汁も飲む。辺りは、少ししか電気が無いため暗い。しかし、その暗さが星空の美しさを引き立てる。
「そうだ。この新曲聞いた?」
「なに?」
三須が、イヤホンを差し出す。空いている手で、イヤホンを受け取り耳に入れる。
「あ、今日買ったばかりで、まだ使ってないやつだから、綺麗だよ」
「別に気にしてないよ。なんで、買ったの?」
「朝起きたら、猫がおもちゃにしてた」
「あらあら」
「昨日に限って、しまっておくの忘れてて……。それで7代目」
「結構やられてるね」
「うん……」
イヤホンから流れるのは、2人が好きなアーティストの新曲で、クリスマスソング。2人の距離は、だんだんと近づいてく。
「いい歌だね」
「……うん」
「どうしたの?」
彩香が三須の方を見ると、目の前に顔がある。そして、唇になにか当たる感覚がある。
「キス」されている。三須が彩香から離れるが、彩香は何が起こったのか分からず、三須を見つめている。
その三須は、顔を真っ赤にして俯いている。
「え、」
彩香はやっと分かったのか、一気に顔を赤らめる。
「ご、ご、ごめん……」
「……うん」
「その、えっと」
しどろもどろの三須に、彩香が抱きつく。2人ともおでんの容器を持っているため、しかもまだ汁は入っているため、そこに気を配った。
けれど、彩香は三須に抱きついている。
「好き!」
「え、あ、うん! 俺も!」
「……ふふふ」
「ふふふ」
見つめ合うと、何故か笑い出す2人。ベンチ端にそっとおでんの容器を置くと、再びギュッと抱きしめる。
ゆっくりと見上げる空は、星が輝いている。
「綺麗だね」
「うん」
とてもロマンチックな雰囲気を醸し出していたが、寒さに絶えられず、おでんの汁を飲み始めた。
おわり




