願いは空から
創作版深夜の真剣文字書き60分一本勝負
お題【空を見上げて】
社会人と亡くなったはずの小さな女の子の物語。
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お題【空を見上げて】
夏の夜。七夕が近づく中、梶元久は会社帰りにコンビニ寄り、缶ビールを買っていた。
元久の住むマンションのロビーには、大きな笹が飾ってある。そこには色とりどりの短冊がたくさん飾ってあった。
ヒーローになりたい。単位がほしい。彼氏がほしい。お小遣いが増えてほしい。など、様々な願いが書いてある。
「七夕な……」
元久の地元では、七夕になると祭りが行われていた。その事を思い出すと、元久はフッと笑うと、笹の近くにまだなにも書かれていない短冊が置いてあった。
「願いごとか」
叶わないことの方が多い。なら、書いても書かなくても同じ事だろうと思い、短冊に願い事を書こうと、ペンを取る。
「……奈々江」
19年前の七夕祭り。元久の幼なじみである奈々江が行方不明になった日でもあった。
それを思い出し、元久は『奈々江に会いたい』と、書いた。
あの日の祭り以来、元久は七夕祭りへは行けないでいた。行っても、奈々江のことを思い出し、楽しい気持ちになれなかったからだ。
そんな事を思い出しながら、自分の部屋へと帰るが、誰もいない。彼女も2年前に別れて以来、作っている余裕があるがなかったのだ。
「疲れた」
そう言うと、シャワーだけを浴び、コンビニで買った弁当を食べながら、缶ビールを飲む。
缶ビールと言っても、ただの発泡酒。酔えるものなら、何でもいい。そんな事を考えながら、飲み干す。
「あぁー、温かい料理食いて」
弁当を食べ終えると、つまみと缶ビールを手にベランダへ出られる大きな窓を開け、その場に座る。
5階の中央の部屋に住む元久。そこそこの高さで、空を見上げると星はまぁ見える程度。
「地元よりは星ないけど、まぁいいか」
本日、3本目の缶を開けながら、空を見上げると、なにか光るものが見えた。飛行機のライトが点滅しているのかと思ったのだが、それにしては明るい。
元久はベランダへと出ると、空を見上げる。
すると、突然女の子が降ってきた。紛れもなく女の子だ。
元久は自分の下へゆっくりと降りてくる女の子へと、手を伸ばしキャッチする。
「……奈々江?」
「ん……」
女の子は、紛れもなく19年前に行方不明になった奈々江だった。
元久は、部屋の中へ入れると、奈々江を起こす。
「奈々江、奈々江!」
「……ん、んー。あ、」
「奈々江……?」
「もとくん……」
「奈々江!」
奈々江は、七夕祭りで行方不明になった時の浴衣のまま。
「奈々江、でいいんだよな?」
「うん!」
「でも、なんで……」
「もとくんが、短冊に書いたからだよ」
「俺が……。さっきの?」
「うん!」
「なんで?」
「奈々も会いたかったから!」
「そう、か……」
元久はとりあえず、冷蔵庫に入れていた缶ジュースを奈々江に渡す。
ソファに座り、奈々江と話をする。目の前にいるのは、行方不明の、死んだと言われている奈々江。あの時の姿のまま。
「奈々江、なにしてたんだ?」
「ん〜お空で、みんなと遊んでるよ」
「空?」
「うん。奈々、死んじゃったから、お空にいるの」
「死んだ、」
「……うん。奈々ね、七夕のお祭りの日に、池の方にいったの」
「池? 底なし沼のことか?」
「たぶん、そこ!」
七夕祭りをする場所は、地元の神社。しかしその近くには、底なし沼と呼ばれる子どもは近づいてはいけないと言われている沼が存在していた。
「なんで、近くに行ったんだ?」
「ニャンコがいたから!」
「……そういや、奈々江はネコ好きだったな」
「うん! そこにね、ママがくれたお花の髪の毛に付けるやつ落としちゃったの。お花を取ろうとしたら、奈々も落ちちゃったの」
「そう、だったのか……。寂しくないか?」
「今は、お空にいるから寂しくないよ! でも、ずっと冷たい所にいたから、お水は好きじゃない……」
「そうか……。今度、帰ったら花でも置いておくか」
「うん! ありがと!」
すると、奈々江は壁にある時計を見ると、急にソファから降りた。
「どうした?」
「もう帰らなきゃ」
時間は0時2分前。まるでシンデレラのようだ。
「空は寂しくないんだよな?」
「うん!」
「なら、良かった」
「奈々に会いたかったら、お空見上げて」
「なんでだ?」
「奈々はいつもお空にいるから!」
「……そうか。じゃあ、いつでも会えるな」
「うん!」
ベランダへ出ると、奈々江の体を光が包む。そしてゆっくり体が浮いていき、空へと消えていく。
「バイバイ、もとくん」
「バイバイ……奈々江」
次のお盆休み。
地元へ帰った元久は、色とりどりの大きな花束と猫のぬいぐるみを数個、池の中へと放り入れる。
「今日も空にいるんだな。奈々江」
久々の地元の七夕祭りは、昔よりも人も減っているが、とても賑やかだった。
「楽しいな、奈々江」
まるで、奈々江と話すかのように、元久は神社の石段に腰掛けている。
子どもに戻ったように笑い、そしてあれ以来、楽しめなかった七夕祭りを、取り戻すように。
元久は笑った。
おわり




