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短編集〜ワンライ〜  作者: 山芋娘
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一目惚れされた先生

pixiv URL:http://touch.pixiv.net/novel/show.php?id=6978332


お題【梅雨】

先生と生徒の恋の始まり

 


 お題【梅雨】





 ーーこんな雨の続く日に限って、車が壊れるなんてーー


 前山篤士は、満員電車の中で考えていた。数日前から、調子の悪かった車がとうとう昨日の帰り道、壊れてしまった。

 台車を出してもらうのは、可能だったのだが、自分の車以外を運転するのは気が引けてしまい、断ったのだ。

 しかし、それはすぐに後悔した。車が直るまで満員電車に乗り、通勤しなければならないからだ。


「はぁ……。今日も憂鬱だ」


 梅雨の時期は、いつも憂鬱。今日は、どんな1日になるやら。






 前山は、高校の教師。28歳になる前山は5年ほど彼女がいない。『結婚は? 孫は?』と母親からしょっちゅう電話が掛かってくる。

 今の高校に赴任して、まだ数ヶ月。そう今年赴任してきたばかり。さらに部活の顧問をしており、まだ慣れない環境でそんな余裕は今の前山にはなかった。


「前山せんせー!!」


 今日も1日、授業が始まる。

 1限が終わり、教室から出ると、遠くの方から前山に手を振る女子生徒がいた。


「せんせ、おはよ」

「あぁ、おはよう」


 女子生徒の名前は、松橋爽子。


「先生、今日も電車だったの?」

「なんだ、悪いか?」

「別に〜。車、早く直るといいね」

「お前の頭ももっと良くなるといいな」


 松橋の頭を名簿で軽く叩くと、「いて」と返すが、笑っている。

 彼女は何故だが、前山のことを慕っている。前山が担任しているクラスの生徒ではないので、それがさらに疑問であった。


「慕われてますね」

「僕にもよく分からないんですよね」

「まあまあ、いいじゃないですか。生徒に慕われるのは、いい事ですよ」

「はぁ」


 先輩教師が、前山と松橋のやりとりを見て、笑っていた。

 1人の生徒を贔屓するわけには行かないと思っているのだが、寄ってくる松橋を無下にするやけにもいかない。


「板挟みって感じだなー」


 実際、校長に苦言を呈されてしまっていた。






 その日の帰り。

 車がないため、電車での通勤。電車通勤中は、いつも駅へ直接向かうのだが、今日は何故かゆっくり、別の道を歩いていた。

 今日は金曜日で、土曜日である明日は部活が休みのため、ゆっくり出来る。


「久々に、どっかの居酒屋に行こうかな……」


 雨が降る中、傘を差して、そんな事を呟いていると、大きな橋の下に松橋が歩いていくのが見えた。

 前山は、松橋を追うように橋へと向かう。

 橋の下に顔を覗かせると、スマホから大音量で音楽を、歌っていた。


「松橋〜?」


 夢中で歌う松橋は、前山の声など一切に聞こえていない。前山はもう一度、少し大きな声で松橋を呼ぶ。


「松橋!」

「ん? って、せんせ!?」

「お前、何してるんだ?」

「えっと……。帰るの嫌で」

「ん?」


 スマホを音楽を消させ、話を聞く。

 松橋の家は、母親の再婚で新しい父親がいるのだが、居心地が悪いらしい。そのため、少しでも家にはいたくないという松橋。


「大変だな」

「うん。でも、せんせに会えるから学校に行くのが好き!」

「ありがとう」

「先生に会いに行くために、学校に行ってるようなものだもん!」

「……なんでお前、そんなに俺を慕ってるんだ?」

「え、先生が好きだから」

「ん?」

「ん〜、一目惚れってやつ? 始業式で先生見た時、好きになった」

「はぁ……。お前さ、クラスとか先輩とかでもいいから、いい恋しろ」

「嫌だ〜。先生がいいの!」


 満面の笑みを浮かべる松橋を見て、ため息を吐いてしまう。

 年上に憧れるというような年頃なのだろうと思い、前山はとりあえず松橋を家に帰すことにした。


 そして、月曜日になってからも橋へと向かう前山。案の定、松橋はおり歌を歌っている。

 下手をすると、辺りが暗くなるまでいそうなため、前山は少し松橋の愚痴を聞いてやり、家に帰すことを始めた。


 これが、恋の始まりとは知らずに。




 おわり


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