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短編集〜ワンライ〜  作者: 山芋娘
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蒼いネックレス

pixiv URL:http://touch.pixiv.net/novel/show.php?id=6969281


お題【宝物】

男女の恋物語です。

 


 お題【宝物】




 明田水華の掌の中には、ネックレスがある。


「一生の宝物だな、本当に」


 そのネックレスは、蒼く輝く小さな珠が付いている。それはまるで涙のような形をしている。

 水華はネックレスを大事そうに、首から下げるため、着ける。


「水華、そろそろ行くから準備済ませて、下に来て」

「はーい」


 部屋の扉をノックした後、母親の声が聞こえてきた。

 今日は結婚式。姉がいよいよ嫁ぐことになったのだ。29歳にして、やっと家を出ることになった。


「行ってきます」


 机の上に置いてある写真立てに、声を掛けると水華は部屋を出ていった。






 5年前。

 水華は、高校に上がった。憧れの高校に入れたことに、浮かれていた水華は、入学式の当日にある一人の生徒に恋をした。

 それは生徒会長の男子生徒で、入学式の式典で登壇した時に見た瞬間に恋に落ちていたのだ。


「あの先輩……。好き」


 自分でもよく分からないうちに、好きになっていた。一目惚れをしていた。

 それから先輩に近づくために様々なことをしてきた。同じ部活に入り、家の方向も調べどんな時間帯の電車に乗るのかまで……。

 一種のストーカーと言われるくらい先輩を追いかけていた。


「アンタもよくやるね」

「ん?」


 当時はまだ携帯電話の時代。それでも、SNSは流行っていた。

 水華はSNSで先輩と繋がり、仲良くなることに成功していた。

 その事に、同じクラスの有田美鈴は、呆れていた。


「そんなに、生徒会長いい?」

「いいに決まってるじゃん!!」

「そうかな?」

「すずさんには、分からないんだね」

「すずさん。なんか、その言い方は、好きじゃないぞ」

「ごめん、ごめん」


 毎日のお昼の時の話題は、必ず水華の恋の話。

 毎日、毎日、飽きもせず話している。そして美鈴も飽きもせず、聞いてくれている。






「はぁ……」


 ある日の秋。

 この日も水華と美鈴は、一緒にお昼ご飯を食べていた。


「なに、どうしたの?」

「なんかさ、真山先輩、好きな人がいるらしいんだよね」

「へぇー。生徒会長も高校生の男の子だし」

「なんか、ショック」

「アンタって可能性は?」

「ない。年上って書いてあった」

「SNS?」

「うん」


 水華は携帯電話を握り、項垂れている。お弁当の中身は、全て食べ終わっている。落ち込んではいるが、食欲だけは旺盛であった。


「どんな感じの人って、書いてあったの?」

「お兄さんの知り合いの身内だって」

「へぇ」

「興味無さそうだね」

「うん」

「すずさん酷い」

「すずさん、彼氏いるから」

「ずるい……」


 美鈴はデザートで買っておいたゼリーを頬張りながら、携帯電話を見ている。


「知り合いの身内ね」

「なに?」

「年上って言ってたの?」

「いや……。ただ、なんとなく」

「ん〜、知り合いの身内って、みんな年上とは限らない気がする」

「でも、私の知ってる人じゃない」


 水華は、携帯電話の写真フォルダを開く。そこには、盗撮と言える真山先輩の写真が何枚もあった。


「はぁ……。先輩、素敵」

「はいはい」






 あれから5年、夏の暑い日。

 今、水華は……。


「こっちです!」

「ごめんなさいね、瞬くん。表まで来てもらって」

「いえいえ。僕も今、来たところなんで」

「そう? 良かったわ」

「じゃあ、中に行きましょう」

「そうね。水華、ほら行くわよ」

「うん」


 真山瞬。今、水華の前にいる彼が、恋に落ちた相手である。そして、家族になる相手でもある。

 水華の姉と瞬の兄が結婚するのである。今日の結婚式は、二人のものである。


「今日、それ着けてきたんだ」

「はい! 大切な日ですから」

「気に入ってもらえて、嬉しいよ」

「……私の宝物です」


 そして、水華と瞬は、恋人同士。

 水華は瞬と同じ大学に通い、同じサークルに入った。そこからグンと二人の距離が縮まった。

 今から、昨年のクリスマスの夜。突然、家に瞬が現れたのである。


「明田さん」

「……真山先輩?」

「良かった、家に居てくれて」


 マフラーを巻いて、息を切らしている瞬。どうやら走ってきたらしい。

 しかし何故、瞬が自分のもとへ走ってきたのかが分からなかった。


「これ、前に見てたよね」

「え、」


 瞬が差し出したのは、小さな包装された箱。中には、蒼く輝く小さな涙のような形をしたネックレス。


「これ……」

「プレゼント!」

「私に!?」

「うん」

「え、私、用意してなくて……」

「いいよ、大丈夫。その代わり」

「なんですか?」

「僕と付き合ってください」

「……え」

「水華、君がほしい」


 思ってもみない事だった。クリスマスに4年も前から好きだった人から告白されたのである。

 断る理由なんて、無かった。



 そして、水華と瞬は恋人になっていた。

 しかし、まさか姉と兄が結婚するとは思ってもみない事だった。

 お互い聞いた時には、苗字が同じで偶然だと思っていた。しかし、話し始めると自分たちの姉、兄が結婚すると確信していった。


「まさか、結婚するとは」

「本当に」

「お姉ちゃん、ウエディングドレスどんなのだろ」

「見てないの?」

「はい……。全然見せてくれなくて」

「まぁまぁ」


 時間までまだあった。

 そのため、二人は少し出ていた。この場にいる人たちは、みんな姉と兄を祝福しに来た人たち。


「いいな……」

「……僕達も、結婚式する時はいっぱい呼ぼうか」

「え!!」

「なに、気が早い?」

「え、いや……。全然」

「良かった。蒼をモチーフにしたいな」

「なんでですか?」

「そのネックレス」

「これ?」

「ある意味、それが繋げてくれたから。蒼…いのどう?」

「いいですね。やりましょ」


 時間が迫ってきた。二人は、柔らかく、けれど強く離れないように、手を繋ぎ歩いていった。





 おわり


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