蒼いネックレス
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お題【宝物】
男女の恋物語です。
お題【宝物】
明田水華の掌の中には、ネックレスがある。
「一生の宝物だな、本当に」
そのネックレスは、蒼く輝く小さな珠が付いている。それはまるで涙のような形をしている。
水華はネックレスを大事そうに、首から下げるため、着ける。
「水華、そろそろ行くから準備済ませて、下に来て」
「はーい」
部屋の扉をノックした後、母親の声が聞こえてきた。
今日は結婚式。姉がいよいよ嫁ぐことになったのだ。29歳にして、やっと家を出ることになった。
「行ってきます」
机の上に置いてある写真立てに、声を掛けると水華は部屋を出ていった。
5年前。
水華は、高校に上がった。憧れの高校に入れたことに、浮かれていた水華は、入学式の当日にある一人の生徒に恋をした。
それは生徒会長の男子生徒で、入学式の式典で登壇した時に見た瞬間に恋に落ちていたのだ。
「あの先輩……。好き」
自分でもよく分からないうちに、好きになっていた。一目惚れをしていた。
それから先輩に近づくために様々なことをしてきた。同じ部活に入り、家の方向も調べどんな時間帯の電車に乗るのかまで……。
一種のストーカーと言われるくらい先輩を追いかけていた。
「アンタもよくやるね」
「ん?」
当時はまだ携帯電話の時代。それでも、SNSは流行っていた。
水華はSNSで先輩と繋がり、仲良くなることに成功していた。
その事に、同じクラスの有田美鈴は、呆れていた。
「そんなに、生徒会長いい?」
「いいに決まってるじゃん!!」
「そうかな?」
「すずさんには、分からないんだね」
「すずさん。なんか、その言い方は、好きじゃないぞ」
「ごめん、ごめん」
毎日のお昼の時の話題は、必ず水華の恋の話。
毎日、毎日、飽きもせず話している。そして美鈴も飽きもせず、聞いてくれている。
「はぁ……」
ある日の秋。
この日も水華と美鈴は、一緒にお昼ご飯を食べていた。
「なに、どうしたの?」
「なんかさ、真山先輩、好きな人がいるらしいんだよね」
「へぇー。生徒会長も高校生の男の子だし」
「なんか、ショック」
「アンタって可能性は?」
「ない。年上って書いてあった」
「SNS?」
「うん」
水華は携帯電話を握り、項垂れている。お弁当の中身は、全て食べ終わっている。落ち込んではいるが、食欲だけは旺盛であった。
「どんな感じの人って、書いてあったの?」
「お兄さんの知り合いの身内だって」
「へぇ」
「興味無さそうだね」
「うん」
「すずさん酷い」
「すずさん、彼氏いるから」
「ずるい……」
美鈴はデザートで買っておいたゼリーを頬張りながら、携帯電話を見ている。
「知り合いの身内ね」
「なに?」
「年上って言ってたの?」
「いや……。ただ、なんとなく」
「ん〜、知り合いの身内って、みんな年上とは限らない気がする」
「でも、私の知ってる人じゃない」
水華は、携帯電話の写真フォルダを開く。そこには、盗撮と言える真山先輩の写真が何枚もあった。
「はぁ……。先輩、素敵」
「はいはい」
あれから5年、夏の暑い日。
今、水華は……。
「こっちです!」
「ごめんなさいね、瞬くん。表まで来てもらって」
「いえいえ。僕も今、来たところなんで」
「そう? 良かったわ」
「じゃあ、中に行きましょう」
「そうね。水華、ほら行くわよ」
「うん」
真山瞬。今、水華の前にいる彼が、恋に落ちた相手である。そして、家族になる相手でもある。
水華の姉と瞬の兄が結婚するのである。今日の結婚式は、二人のものである。
「今日、それ着けてきたんだ」
「はい! 大切な日ですから」
「気に入ってもらえて、嬉しいよ」
「……私の宝物です」
そして、水華と瞬は、恋人同士。
水華は瞬と同じ大学に通い、同じサークルに入った。そこからグンと二人の距離が縮まった。
今から、昨年のクリスマスの夜。突然、家に瞬が現れたのである。
「明田さん」
「……真山先輩?」
「良かった、家に居てくれて」
マフラーを巻いて、息を切らしている瞬。どうやら走ってきたらしい。
しかし何故、瞬が自分のもとへ走ってきたのかが分からなかった。
「これ、前に見てたよね」
「え、」
瞬が差し出したのは、小さな包装された箱。中には、蒼く輝く小さな涙のような形をしたネックレス。
「これ……」
「プレゼント!」
「私に!?」
「うん」
「え、私、用意してなくて……」
「いいよ、大丈夫。その代わり」
「なんですか?」
「僕と付き合ってください」
「……え」
「水華、君がほしい」
思ってもみない事だった。クリスマスに4年も前から好きだった人から告白されたのである。
断る理由なんて、無かった。
そして、水華と瞬は恋人になっていた。
しかし、まさか姉と兄が結婚するとは思ってもみない事だった。
お互い聞いた時には、苗字が同じで偶然だと思っていた。しかし、話し始めると自分たちの姉、兄が結婚すると確信していった。
「まさか、結婚するとは」
「本当に」
「お姉ちゃん、ウエディングドレスどんなのだろ」
「見てないの?」
「はい……。全然見せてくれなくて」
「まぁまぁ」
時間までまだあった。
そのため、二人は少し出ていた。この場にいる人たちは、みんな姉と兄を祝福しに来た人たち。
「いいな……」
「……僕達も、結婚式する時はいっぱい呼ぼうか」
「え!!」
「なに、気が早い?」
「え、いや……。全然」
「良かった。蒼をモチーフにしたいな」
「なんでですか?」
「そのネックレス」
「これ?」
「ある意味、それが繋げてくれたから。蒼…いのどう?」
「いいですね。やりましょ」
時間が迫ってきた。二人は、柔らかく、けれど強く離れないように、手を繋ぎ歩いていった。
おわり




