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短編集〜ワンライ〜  作者: 山芋娘
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ずっと待ち続ける

pixiv URL:http://touch.pixiv.net/novel/show.php?id=6961171


お題【おかえり】

 

 お題【おかえり】





 それは桜が散り始めた、ある春の日。

 その人は、この土地から去っていった。何かの目的を果たすために、自ら去ってしまったのだ。

 そして、もう10年もの時が流れていた。

 彼のことを待つものは、もう1人しかいない。オルゴール村に住む若い娘、メデュウのみ。


「今日は、寒いな……」


 10年経ち、今はもう寒い冬。雪もチラつき外では子供たちが遊んでいる。

 けれど、メデュウにはその姿を見ることは出来ない。今のメデュウは、両目を傷付けてしまい、視力を失っているからだ。

 メデュウは、自分のベッドに座り窓を開け、外から聞こえる子供たちの声に耳を傾けている。





 11年前の夏。

 その日は、太陽が照りつけるとても暑い日だった。

 この村には、いやこの村だけではなく、世界中には不思議な力を持つ者が多くいた。

 そしてオルゴール村にも、その力を持つ者がいた。

 それが今、村から去っている男、フラーにもあった。フラーは、何も咲かなくなった木に力を与え、花を咲かせるなど、花を司る力を持っていた。


「フラー! 今日も見せて」

「本当、メデュウは花が好きだな」

「うん」


 そしてその時には、まだメデュウの目は見えていた。

 メデュウとフラーは、仲が良かった。歳が達した時、結婚もしようと約束していた。

 けれど、そんなある日。2人だけでなく、村に災いが訪れた。


「ここに住む娘。人の瞳を見るだけで、石化させる危険な者がいる。すぐに差し出せ」


 突然、王国に使える従者が村に現れた。

 従者の言う、危険な者に心当たりのない村人たちは、素直に「いない」と答えた。

 しかし、予言の力を持つ者が現れ、メデュウを指さした。


「私?」

「そうじゃ、お主だ」

「来い」

「城へ連れていく」

「え、いや……。私、そんな力、持ってない!」

「神官様の言うことは、全て正しい。お前を連れていく!」

「止めて!」


 必死に抵抗するメデュウを庇うように、村人たちも出てくる。

 フラーもメデュウを守ろうとしたが、力が暴走した。メデュウの力が。


「私は、そんな力ない!」


 そう叫んだ瞬間、メデュウの瞳が光出した。そして、目の前にいた従者の1人を石にしてしまった。

 それを見ていた村人たちは、叫び取り乱し、メデュウの近くから逃げ出した。

 もう1人の従者は、メデュウを取り押さえようとし、メデュウに襲いかかるが、力を抑えることの出来ないメデュウによって、石化させられてしまった。


「私……」

「女、目を閉じなさい!」

「私……」

「メデュウ」


 フラーがメデュウを抱きしめる。


「大丈夫だ、落ち着け」

「フラー……」

「落ち着け。大きく息して、ゆっくり吐け」


 フラーの言葉を聞き、大きく深呼吸をする。瞳の光が徐々に消えていく。


「落ち着いたか?」

「うん」

「女」

「……はい」

「お前の力は危険だ。我々と来て欲しい」

「……私は」

「この村を危険に晒したいのか?」

「それは、嫌です!」

「なら」

「俺が付いてる」

「フラー?」

「俺が、コイツの傍にいる。だから、ここに居させてくれ」

「……お前が傍にいても、この村の者たちはどうかな」


 フラーとメデュウは、村を見渡す。物陰に隠れ、2人を覗くようにうかがう村人たち。


「……私、ここにいたい。でも、」

「なら、ひとついい方法を教えてやろう」

「なんですか?」

「目を潰せばいい。お前の力は目を使うのだから」

「おい、アンタ! なんて、ことを……」


 神官は、メデュウにナイフを差し出す。

 メデュウは、差し出されたナイフを見つめる。


「目を潰せば、みんなを……」

「あぁ」

「メデュウ、そんな事しなくても!」


 フラーの声は、もうメデュウには届いていなかった。差し出されたナイスを取ると、両目を切り裂いた。


「あぁああぁあ!!!」

「メデュウ!!」

「これで、儂の仕事は無くなった。帰るとするか」

「お前!!」

「あぁ、そこの従者は、もう用済みだ。捨てておいてくれ」


 神官は、1人で村を去っていった。

 そして、メデュウは目を失った。





 その1年後。

 フラーは、メデュウの目を治すために、治療法を探しに村を出た。

 あれから10年。フラーは帰ってこない。


「まぶたの裏には、まだフラーが写ってる。でも、声くらい聞きたいな」


 窓から手を差し出すと、冷たい雪が手に落ちる。

 けれど、何故か溶けない雪が手の上に残り続けている。握りしめてみると、やはりそこには雪は残っている。

 外から子供たちの声が聞こえる。


「雪がお花になった!」


 その言葉を聞いて、窓の外へ顔を出す。目は見えないけれど、何故か分かる気がした。


「フラー……おかえり」




 END




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