ずっと待ち続ける
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お題【おかえり】
お題【おかえり】
それは桜が散り始めた、ある春の日。
その人は、この土地から去っていった。何かの目的を果たすために、自ら去ってしまったのだ。
そして、もう10年もの時が流れていた。
彼のことを待つものは、もう1人しかいない。オルゴール村に住む若い娘、メデュウのみ。
「今日は、寒いな……」
10年経ち、今はもう寒い冬。雪もチラつき外では子供たちが遊んでいる。
けれど、メデュウにはその姿を見ることは出来ない。今のメデュウは、両目を傷付けてしまい、視力を失っているからだ。
メデュウは、自分のベッドに座り窓を開け、外から聞こえる子供たちの声に耳を傾けている。
11年前の夏。
その日は、太陽が照りつけるとても暑い日だった。
この村には、いやこの村だけではなく、世界中には不思議な力を持つ者が多くいた。
そしてオルゴール村にも、その力を持つ者がいた。
それが今、村から去っている男、フラーにもあった。フラーは、何も咲かなくなった木に力を与え、花を咲かせるなど、花を司る力を持っていた。
「フラー! 今日も見せて」
「本当、メデュウは花が好きだな」
「うん」
そしてその時には、まだメデュウの目は見えていた。
メデュウとフラーは、仲が良かった。歳が達した時、結婚もしようと約束していた。
けれど、そんなある日。2人だけでなく、村に災いが訪れた。
「ここに住む娘。人の瞳を見るだけで、石化させる危険な者がいる。すぐに差し出せ」
突然、王国に使える従者が村に現れた。
従者の言う、危険な者に心当たりのない村人たちは、素直に「いない」と答えた。
しかし、予言の力を持つ者が現れ、メデュウを指さした。
「私?」
「そうじゃ、お主だ」
「来い」
「城へ連れていく」
「え、いや……。私、そんな力、持ってない!」
「神官様の言うことは、全て正しい。お前を連れていく!」
「止めて!」
必死に抵抗するメデュウを庇うように、村人たちも出てくる。
フラーもメデュウを守ろうとしたが、力が暴走した。メデュウの力が。
「私は、そんな力ない!」
そう叫んだ瞬間、メデュウの瞳が光出した。そして、目の前にいた従者の1人を石にしてしまった。
それを見ていた村人たちは、叫び取り乱し、メデュウの近くから逃げ出した。
もう1人の従者は、メデュウを取り押さえようとし、メデュウに襲いかかるが、力を抑えることの出来ないメデュウによって、石化させられてしまった。
「私……」
「女、目を閉じなさい!」
「私……」
「メデュウ」
フラーがメデュウを抱きしめる。
「大丈夫だ、落ち着け」
「フラー……」
「落ち着け。大きく息して、ゆっくり吐け」
フラーの言葉を聞き、大きく深呼吸をする。瞳の光が徐々に消えていく。
「落ち着いたか?」
「うん」
「女」
「……はい」
「お前の力は危険だ。我々と来て欲しい」
「……私は」
「この村を危険に晒したいのか?」
「それは、嫌です!」
「なら」
「俺が付いてる」
「フラー?」
「俺が、コイツの傍にいる。だから、ここに居させてくれ」
「……お前が傍にいても、この村の者たちはどうかな」
フラーとメデュウは、村を見渡す。物陰に隠れ、2人を覗くようにうかがう村人たち。
「……私、ここにいたい。でも、」
「なら、ひとついい方法を教えてやろう」
「なんですか?」
「目を潰せばいい。お前の力は目を使うのだから」
「おい、アンタ! なんて、ことを……」
神官は、メデュウにナイフを差し出す。
メデュウは、差し出されたナイフを見つめる。
「目を潰せば、みんなを……」
「あぁ」
「メデュウ、そんな事しなくても!」
フラーの声は、もうメデュウには届いていなかった。差し出されたナイスを取ると、両目を切り裂いた。
「あぁああぁあ!!!」
「メデュウ!!」
「これで、儂の仕事は無くなった。帰るとするか」
「お前!!」
「あぁ、そこの従者は、もう用済みだ。捨てておいてくれ」
神官は、1人で村を去っていった。
そして、メデュウは目を失った。
その1年後。
フラーは、メデュウの目を治すために、治療法を探しに村を出た。
あれから10年。フラーは帰ってこない。
「まぶたの裏には、まだフラーが写ってる。でも、声くらい聞きたいな」
窓から手を差し出すと、冷たい雪が手に落ちる。
けれど、何故か溶けない雪が手の上に残り続けている。握りしめてみると、やはりそこには雪は残っている。
外から子供たちの声が聞こえる。
「雪がお花になった!」
その言葉を聞いて、窓の外へ顔を出す。目は見えないけれど、何故か分かる気がした。
「フラー……おかえり」
END




