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短編集〜ワンライ〜  作者: 山芋娘
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夕暮れと涙

お題【懐かしい】


pixiv URL:http://touch.pixiv.net/novel/show.php?id=6818799


 夏の夕暮れ。

 松上俊は毎年、この時期の夕暮れは、昔を思い出していた。

 あれは、中学2年の夏。

 陸上部の練習帰り、毎日通る橋を歩いていた。

 俊は、コンビニで買ったアイスを食べながら、歩いていると橋の上で川を眺めている1人の女を見つける。


(あの人、確か……野球部の先輩マネージャー……)


 俊は、溶けるアイスと戦いながら、先輩のことを遠くから見ている。

 先輩は額に汗を浮かべていた。


(なに、してんだろ……)


 俊は不信感に思いながら、先輩の後ろを歩いていく。

 先輩の手には、その当時まだ流行っていた携帯電話が握られている。

 不意に橋の欄干から離れると、俊のことを見つける。


「あぁ、陸上部……たしか、松上くん」

「え、あ、はい……」

「部活帰り?」

「はい」

「お疲れ様」

「お疲れ様です……」


 俊は、先輩に名前を呼ばれたことに驚きを見せたが、それ以上に先輩の目が泣いて腫れていることに驚いた。

 先輩は無理に作った笑顔を見せると、俊が歩いてきた道を帰って行く。

 俊は、「あの、」と思わず声を掛けてしまい、何を言っていいか分からず、戸惑ってしまった。


「ん?」

「えっと……大丈夫、ですか? 」

「……なにが?」

「その、なにか、あったのかなって……」

「……うん」

「お、俺で良かったら、その……話し聞きますよ」


 俊の言葉に、先輩の目から涙が流れる。

 しまった。と思いながら、俊は泣き出してしまった先輩に、どう声をかけていいのか分からなくなってしまい、コンビニで買っていたスポーツドリンクを差し出した。

 先輩はスポーツドリンクに目もくれず、俊に抱きつく。


「え、あの……」


 俊の声は、まるで聞こえていない。ただ、泣き続けている。その姿は幼い子供のようで。



 そして現在、俊は大学3年になっていた。地元の大学に通い、中学で使っていた通学路を今でも通っている。

 そして、夏の夕暮れ、俊はいつも思い出していた。


「俊?」と、声を掛けてきたのは、俊よりも少し大人っぽい女。


「なにしてるの?」


 欄干から夕暮れを眺めている俊に、疑問を投げかける。


「中学の時のこと、思い出してた」

「え、あれ?」

「うん」

「うわー、懐かしいこと思い出してるの? 恥ずかしい」


 笑いながら、俊に近づく女。彼女こそ当時、俊に泣きついた先輩だった。そして、今では俊の彼女である。


「部活帰りになんかいると思ったら、泣き出すんだもん」

「うるさいな」

「まさか、飼ってた猫が死んだってことだったとは」

「んー!! 私にとっては大切な子だったの!!」

「分かってる、分かってる」


 俊は笑いながら、少し力を入れて叩いてくる彼女のことをなだめる。

 彼女も本気ではない。ただ、顔を赤くして恥ずかしがっているだけ。


「ほら、帰ろう」

「ん〜太郎ちゃん……」


 当時、携帯電話に入れていた画像は、スマートフォンに移され、今も彼女の心にいる。

 俊は、自分よりも、少し背の高い彼女の手を取り共に歩き出す。


 夏になったら、きっとまた思い出す。2人の出会いを。


こちらではワンライ投稿は初めまして。

お題【懐かしい】です。

ワンライでは、初めて参加した作品です。

これから、投稿済の作品をこちらにも投稿していきます。

よろしくお願いします。

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