夕暮れと涙
お題【懐かしい】
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夏の夕暮れ。
松上俊は毎年、この時期の夕暮れは、昔を思い出していた。
あれは、中学2年の夏。
陸上部の練習帰り、毎日通る橋を歩いていた。
俊は、コンビニで買ったアイスを食べながら、歩いていると橋の上で川を眺めている1人の女を見つける。
(あの人、確か……野球部の先輩マネージャー……)
俊は、溶けるアイスと戦いながら、先輩のことを遠くから見ている。
先輩は額に汗を浮かべていた。
(なに、してんだろ……)
俊は不信感に思いながら、先輩の後ろを歩いていく。
先輩の手には、その当時まだ流行っていた携帯電話が握られている。
不意に橋の欄干から離れると、俊のことを見つける。
「あぁ、陸上部……たしか、松上くん」
「え、あ、はい……」
「部活帰り?」
「はい」
「お疲れ様」
「お疲れ様です……」
俊は、先輩に名前を呼ばれたことに驚きを見せたが、それ以上に先輩の目が泣いて腫れていることに驚いた。
先輩は無理に作った笑顔を見せると、俊が歩いてきた道を帰って行く。
俊は、「あの、」と思わず声を掛けてしまい、何を言っていいか分からず、戸惑ってしまった。
「ん?」
「えっと……大丈夫、ですか? 」
「……なにが?」
「その、なにか、あったのかなって……」
「……うん」
「お、俺で良かったら、その……話し聞きますよ」
俊の言葉に、先輩の目から涙が流れる。
しまった。と思いながら、俊は泣き出してしまった先輩に、どう声をかけていいのか分からなくなってしまい、コンビニで買っていたスポーツドリンクを差し出した。
先輩はスポーツドリンクに目もくれず、俊に抱きつく。
「え、あの……」
俊の声は、まるで聞こえていない。ただ、泣き続けている。その姿は幼い子供のようで。
そして現在、俊は大学3年になっていた。地元の大学に通い、中学で使っていた通学路を今でも通っている。
そして、夏の夕暮れ、俊はいつも思い出していた。
「俊?」と、声を掛けてきたのは、俊よりも少し大人っぽい女。
「なにしてるの?」
欄干から夕暮れを眺めている俊に、疑問を投げかける。
「中学の時のこと、思い出してた」
「え、あれ?」
「うん」
「うわー、懐かしいこと思い出してるの? 恥ずかしい」
笑いながら、俊に近づく女。彼女こそ当時、俊に泣きついた先輩だった。そして、今では俊の彼女である。
「部活帰りになんかいると思ったら、泣き出すんだもん」
「うるさいな」
「まさか、飼ってた猫が死んだってことだったとは」
「んー!! 私にとっては大切な子だったの!!」
「分かってる、分かってる」
俊は笑いながら、少し力を入れて叩いてくる彼女のことをなだめる。
彼女も本気ではない。ただ、顔を赤くして恥ずかしがっているだけ。
「ほら、帰ろう」
「ん〜太郎ちゃん……」
当時、携帯電話に入れていた画像は、スマートフォンに移され、今も彼女の心にいる。
俊は、自分よりも、少し背の高い彼女の手を取り共に歩き出す。
夏になったら、きっとまた思い出す。2人の出会いを。
こちらではワンライ投稿は初めまして。
お題【懐かしい】です。
ワンライでは、初めて参加した作品です。
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