三百円ライダー!
勤務中に携帯電話から投稿したので空白が入れられませんでした。後から修正します。
「むむ? 事件か?」
近所の幼稚園バスを取り囲む全身タイツの男達が彼等特有の言葉でコミュニケーションを取りながら幼稚園バスに乗り込み始めた。
どうやらバスジャックをしようとしているらしい、「子供達を洗脳する事で親からのクレームを倍増させてモンスターペアレンツパワーを増大させて新たなる怪人を作成するぞなもし!」とか言ってる。
何故俺があいつらの言葉が理解出来るかと言うと、実は俺もあいつらと同じ組織シルショッカーに改造された怪人だからである。
通勤途中に誘拐されて改造されたのだが、シルショッカーの確定申告の事務処理中にコンビニにコピーを取りに行くと言って組織を逃げ出したのだ。
誘拐されてから二カ月を経過しており、勤めていた会社では渋々有給扱いをしてくれたが結局居づらくなって退社した。
「許さん! シルショッカーめ!」
俺は組織で受講した初心者講習で習った変身ポーズをとった。
「変身!」
『三百円を投入して下さい』
変身ベルトから電子音声が冷たく流れた。
『三百円を投入して下さい』
大事な事らしく二回言われた。
俺は慌てて変身ベルトを確認すると、ゴテゴテとしたデザインのベルトの上の方にへこみが有り、そこには小さく「投入口」と刻印されていた。
有料かよう……しかもワンコインじゃないのかよう……。
俺は尻ポケットに差し込んである財布を取り出し中身を素早く確認する。
小銭が見つからない……こういう時に限って小銭が見つからない、俺は辺りを見回し自動販売機を探す。
小銭は無いが一万円札と五千円札と千円札が一枚づつある! お釣りを頂けば良いのだ!
近場に一台だけ見つけた伊藤園の販売機、お〜いお茶のロゴまでも神々しく見えて来るから不思議だ。
ゴクリと生唾を飲み込み千円札を投入する。
「ピピー」
戻ってくる。
投入する。
「ピピー」
戻ってくる。
釣り銭切れかよう! 釣り銭入れておけよう! 次から爽健美茶派になっちゃうだろう?
仕方ないので販売機の下を覗き込む為に腹這いになる。
実は意外と販売機の下と言うのは小銭が落ちているラッキーポイントなのだ。
ゴテゴテとしたデザインのベルトの一部が脇腹に刺さり込み地味に痛い。
このゴテゴテの所為で俺は夏場もコートを着る羽目になっている。このベルトは改造時に付けられた所為か取り外す事が出来ないのだ。
しかも平成ライダーっぽい携帯電話が差込めたり武器が差込めたりする物では無く昭和ライダー特有のグルグル回るタイフーンベルトタイプなのである。
お陰で風呂に入る時には、何の脈絡も無く回り出したりすると飛び散ったシャンプーの泡が目に入ってかなり痛い目を見る。
風呂上がりにバスタオルを巻き込んで、使い物にならなくなったのも一度や二度では無い。
何故こんな使い道の無い機能をベルトに付与するのかが理解出来ない。
だがこんなベルトでも役に立った事もあるのだ。
会社を辞める少し前に地震警報を察知して、俺のベルトが警報を鳴らしてくれた事によって会社の社員が命拾いをした事があるのだ。
会社の人達から感謝をされて、それで気を良くしたのか一時間置きにニュース速報や株価の推移をアナウンスし始めた頃に俺は退社した。
最近は通りすがりのイタズラ小学生に「オッケーグーグル、今何時?」と叫ばれ電子音声を勝手に鳴らされると言う手の込んだイタズラの的になっている。
いやいや、悲観的になってはいけない! 今はライダーに変身する事が最優先だ!
俺は千円札を手に取り四つに折り畳む、ひょっとしたらベルトからお釣りが出るかも知れない、俺は意を決して投入口に折り畳んだ千円札を投入した。
「南無三!」
ジーダカダカダカダカダカダカダカダカダカダカダカダカ
短冊状に切り刻まれた千円札がベルトの下部から排出された。
『個人情報保護の観点からシュレッダーをかけさせてもらいます』
個人情報ってだれのだよう! 野口英世の個人情報かよう! 奴の個人情報なんて学校の図書館に行けば死ぬ程詳しく載ってんじゃんかよう! 何で無駄に多機能なんだよう!
いやいや、まだ慌てる時間じゃ無い、三百円だ。たった三百円だ。俺の所持金は1万五千円だ。上手く立ち回れば三百円位何とでもなる筈だ。
あああ! 幼稚園バスから色取り取りの煙が立ち昇り始めた! 佳境に入ってるのか? この俺を差し置いて!
いかん!慌てなくては!
普段は隠しているベルトを剥き出しにして、コートを翻しながら近くを歩いていた女子高生を追いかけた。
この1万五千円と三百円を交換してくれ! 正義の為ならナニワ金融道もドン引きする位のレートでの両替も辞さない覚悟だ!
俺は前を歩く女子高生を追いかけた。
コートを翻し、1万五千円を握り締め、悪と戦う為に……
……
……
……
薄暗い取り調べ室の中でぼんやりと天井を見つめていると、入り口のドアが開き年配刑事さんがカツ丼を持って入って来た。
彼は俺の目の前にカツ丼を置くと、人懐っこい笑顔で笑いながらカツ丼を食えと勧めて来る。
幼稚園バスは助けられた様だ。俺以外の正義の味方の活躍で、俺は全く関係無い事件で拘留されている。どうやら性犯罪らしい……全く身に覚えの無い冤罪だ。
これも全てシルショッカーの罠なのだろう。
「刑事さん……三百円下さい」